011 俺にもあるのか……★

 

「スキャンしてくれ」


 ピピピ、ピ、ピ、ピー

 スキャンの終了を告げる音に合わせて、エリクシルの表情が曇った。


「俺にもあるのか……?」

{やはり心臓の左心室に癒着しているようです。コブルのジェムストーンよりかなり大きいですが、熱量は限りなく少ないです。この地に来てからロラン・ローグの体にもジェムストーンが確認できるようになったということは、彼らのものも後天的に生成されたという証明になりますね……。しかしこれだけの大きさ、いったいどうやって……体に違和感はありませんか?}

「全くねえな。……これが、もっと大きくなる可能性は?」


 不思議そうな顔をしたロランが、今度は胸をトントンしながら、恐る恐る尋ねる。


{仮説にはなりますが……3つのジェムストーンは、大きさこそ違いはありませんでしたが、それぞれ色合いや濁りが異なっています。大きさについては、3体のコブルが似たような体格であることを加味してロラン・ローグと比較すると、体の大きさに比例しているかもしれません。色合いや濃度に関しては内包する熱量に応じて変化することが考えられます。もしくは個体の年齢や鍛錬による肺活量の強度等の要因によって、色合いや濃度が変化しているというのが最も考えられやすいと思います。しかし単純な個体差である可能性も捨てきれません。内包する熱量にも限度があると思うので、それを越えた時にどんな反応をするのか……それはわかりかねます。こればかりはサンプルが少なすぎて何とも言えないのです}


 エリクシルは現段階で分かりうることをすべて話した。

 ロランはその情報量に圧倒されたが、わずかな時間にこれほどの分析をしたエリクシルには素直に感心する。


「さすがだな。とりあえずこの件はもういいだろう。今後のサンプル次第だな。」


 ロランはサンプル収集のために、今後もコブルとまみえる覚悟を決めた。もちろん敵対的な場合にのみだが。


{承知しました!それではロランのジェムストーンの正確なデータを取りたいので、クリーンルームで精密検査をしましょう}


 エリクシルはロランに褒められ喜ぶと、精密検査を提案した。

 もっと役に立ちたいのだ。


「……わかった」


 ロランは医療ベイに隣接するクリーンルームに進んだ。バスルームの隣にあるベッドに横になると、エリクシルが頭元に立った。

 天井のアームから発されるレーザーが、ロランの足元から頭部にかけてスキャンを行い、体の様々な角度から往復した後、仕事を終えて天井に戻った。

 この検査ははものの1分で完了した。


{ロラン・ローグのジェムストーンは直径28ミリ、質量は10.3グラム。コブルのジェムストーンのおよそ3倍になります}

「大きいのか小さいのか、いまいちわかんねえな」


 ロランがベッドから起き上がり言うと、エリクシルがホログラムにロランのジェムストーンを投射する。

 中空でくるくると回転しているガラスのような石をロランが前屈みになり覗き込んだ。


「へぇー、まるで水晶だな」

{おっしゃるとおり石英に近いですね。コブルのジェムストーンのように濁りや色味がありません。恐らく生成されたばかりだからでしょうか。先ほど述べたように熱量も極微量なことから、大気中の成分を呼吸で取り込むことによる影響は少ないのかもしれません}

「もし俺のジェムストーンを取り出したらどうなる……?」


 ロランが自身の胸をトントンつつきながら興味本位で尋ねると、エリクシルはギョッとする。


{外科的に取り出すこと自体は可能ですが、どんな影響があるのかわかりません。現状体に害悪は確認できませんし、このジェムストーンは……この地に適応した証と見ています。取り出さない方がよろしいのではないでしょうか}

「適応の証……ね。なるほど」


 ロランは納得したようにつぶやいた。

 元々本気で取り出すつもりはなかったので、彼はすんなりとその考えを諦めた。


{ロラン・ローグ、今後も定期的に検査を行いましょう。ジェムストーンの観察と変化を分析し、そうなった要因を統合・解釈することで有益な情報が得られると思います}

「そうだな、俺のジェムストーンに変化がないか定期的にチェックした方が良いな。そして……だ、ずっとここにいるわけにもいかない。コブル以外に生命体もいるんだろう?それなら文明もあるかもしれない。情報を集める……つまり探索をするべきだ」

{おっしゃるとおりです。周囲の情報収集は必須です。ここでの生活のためには様々な動力が必要で、現状燃料は有限です。食料はまだ十分あるようですが、脱出の目途が立たない今、足りる保証はありません。補給の方法を確立しなくては、切り詰めていく必要も出てくるでしょう}


 エリクシルが食糧庫とフリーザーの在庫を確認すると、フォロンティア・ミルズのバーが食糧庫に、冷凍食品のコンテナがフリーザーにそれぞれ大量に積まれている。

 飲料水や生活用水は動力を要するが、生命維持に必要な燃料は少なくて済むので、ロランは余裕を持っているようだ。


「生き残りをかけたサバイバルってわけだ……故郷を思い出すな」


 差し迫った危機感がないためか、ロランのその言葉に重みは感じらない。

 むしろ未知なる土地での探索に気分が高揚しているようだった。


―――――――――

ロランくん。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330668267393528

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る