011 俺にもあるのか……★
「スキャンしてくれ」
ピピピ、ピ、ピ、ピー
スキャンの終了を告げる音に合わせて、エリクシルの表情が曇った。
「俺にもあるのか……?」
ロランは、自分の胸をトントンと叩きながら驚きを隠せない様子で尋ねたが、答えはもうわかっている。
エリクシルの表情を見ていち早く察した。
「……精密検査を頼む」
{承知しました……}
ロランは検査のために医療ベイに隣接するクリーンルームへと移動し、ベッドに横になった。
{では、失礼します……}
エリクシルが頭元に立ち、まもなく検査が開始される。
天井のアームから発されるレーザーが、ロランの体の様々な角度から往復した後、仕事を終えて天井に戻った。
{……やはり心臓の左心室に癒着しているようです。コブルのジェムストーンよりかなり大きいですが、熱量は限りなく少ないです}
「……どんくらい差があるんだ?」
{……ロラン・ローグのジェムストーンは直径28ミリ、質量は10.3グラム。コブルのジェムストーンのおよそ3倍になります}
「大きいのか小さいのか、いまいちわかんねえな」
{それよりも、この地に来てからロラン・ローグの体にもジェムストーンが確認できるようになったということは、彼らのものも後天的に生成されたのでしょうか……}
エリクシルが冷静に分析を始める。
「いやいや待て、話が多すぎる。俺の心臓にそんなものがくっついてるだけでも十分ショッキングだってのに」
ロランは手をひらひらと振って話を遮った。
{失礼しました。それで……体に違和感はありませんか?}
「全くねえな。それが逆に不気味だよな……これがもっと大きくなる可能性は?」
ロランは再び自分の胸をトントンと叩き、不安そうな顔をする。
{仮説ですが、ジェムストーンの大きさは体の大きさに比例しているかもしれません。3体のコブルは似たような体格でしたし、ロラン・ローグと比較してもその可能性は否定できません。ただし、熱量や色合いが個体差や環境要因で変化するとも考えられます}
「うーん、わかるようなわからんような。つまり俺の石は大きくも小さくもなるってことだな?」
ロランがやや冗談っぽく返すと、エリクシルは微妙な表情でうなずく。
{まあ、そういう解釈も可能ですかね。しかし熱量に限度があることを考えると、異常な反応を起こす可能性もゼロでは――}
「おいおい! なんだよその『異常な反応』って……!」
ロランは慌てたように身を乗り出し、エリクシルの言葉を遮る。
{まだサンプルが少なすぎるため、正確な結論を出すのは難しいですが……何が起こるかわからないのが本音です}
エリクシルは気まずそうに言葉を濁した。
「この熱量が増えたりなんかしたら、いつか爆発するかもしれないってことか?」
{爆発だなんて! それは極端すぎます!}
エリクシルは慌てて手を振り、ホログラムにジェムストーンを映し出した。
「冗談だってば。……へぇー、まるで水晶だな。俺のは色も濁りもないってことは……新品ってことかもな。こっちにきたばっかだし」
ロランが興味深そうにホログラムを覗き込む。
{おっしゃる通り石英に近いですね。コブルのジェムストーンのように濁りや色味がないのは、生成されたばかりだからでしょう。熱量も極微量なので、大気中の成分を取り込む影響は少ないと考えられます}
「新品でピカピカ、俺の自慢の一品ってとこだな」
ロランは肩をすくめて冗談を言うと、エリクシルは少し困ったように笑った。
{しかし、冗談抜きで、このジェムストーンはこの地に適応した証です。取り出すのは推奨できません}
「取り出すなんてしねえよ。こんな大事な『証』をね……なんてな」
ロランはニヤリと笑い、椅子に深く座り直した。
元々本気で取り出すつもりはなかったので、彼はすんなりとその考えを諦める。
{安心しました。その『証』はここでの適応能力の象徴です。大切にしてくださいね}
エリクシルが静かに応じると、ロランは肩をすくめた。
「適応能力か。まあ、俺がまだ生きてる理由がそれなら、ありがたいもんだな」
{おっしゃる通りです。さらに、ジェムストーンがどう変化するかを観察することで、今後の生活に必要な情報が得られるはずです。定期的な検査を推奨します}
「定期検査、了解だ。大きくならないことを祈るよ」
冗談めかして笑うロランの目は、少し真剣味を帯びていた。
「それと……ここに留まり続けるわけにもいかないだろう。コブル以外に生命体がいるなら、文明もあるかもしれない。情報を集めるためにも探索をするべきだよな」
{探索は必須ですね。しかし現状、周囲を調査するには資源管理が重要です。燃料の残量も含め、消耗品の消費ペースを見直す必要があります}
「燃料と動力で半年くらいは持つんだっけ?」
ロランが身を乗り出し、エリクシルを見つめた。
{省電力モードならその通りです。ただし、探索活動で動力を使用する場合、その分消費ペースが上がる可能性があります}
「……燃料を効率良く補充する手立てを考えないとな」
ロランは腕を組みながら考え込む。
{その通りです。補給方法の確立が最優先事項ですね}
「で、燃料の他に、食い物はどうだ?」
ロランが顔を上げて尋ねると、エリクシルが次々と在庫情報を映し出す。
{フォロンティア・ミルズの栄養バーが約300本、冷凍食品コンテナが4箱分あります。現在の消費ペースで約60日間持つ見込みです。ただし、燃料が不足すると食材の調理や保存に影響が出る可能性もあります}
「2か月か……悪くはないが、最悪狩りをしないとな。そのための武装もあるし……」
ロランは苦笑しながら冷蔵庫の方向をちらりと見た。
{飲料水の備蓄も十分ですが、生成するとなると動力が必要です}
「生き延びるためには、やっぱり探索して補給場所を見つけるしかねえな」
ロランの目に決意が宿る。彼は一瞬の沈黙の後、笑みを浮かべた。
「生き残りをかけたサバイバルってわけだ……故郷を思い出すな」
差し迫った危機感がないためか、ロランのその言葉に重みは感じらない。
むしろ未知なる土地での探索に気分が高揚しているようだった。
―――――――――
ロランくん。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330668267393528
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