熱量反応
010 ジェムストーン★
ゴオォ、ゥ、ゥ、ゥ、ゥ…………ウィンウィンウィンウィン。
リファイナリーが稼働し、最初は低いモーター音が響き渡る。
次第に勢いよく回転する音が高まっていった。
{後はわたしにお任せください}
ロランがエリクシルの後を頼んでクリーンルームに向かうと、強化服を着たままシャワールームに入り、全身に霧状の水が吹き付けられる。
強化服にべったりと付着した緑色の返り血が、みるみるうちに洗い流される。
ロランは体をくるりと回し、血が全て流されたのを確認すると強化服を脱ぎ始めた。
{ロラン・ローグ!熱量の抽出が可能です}
シャワー中のロランの横に、突如エリクシルの姿が現れた。
「うわっ!」
ロランが慌てて身体を隠すと抗議する。
「これ!さっきもやったな!」
{あっ……ロラン・ローグ、それは恥ずかしいという感情ですか?…………股間を隠しているのはそういうことですねっ!さっきの小石の話も恥ずかしいと言っていましたね!}
エリクシルが考え込むと閃くように答えた。
感情を理解したその顔は嬉しそうな笑顔であったが、徐々に恥じらいが混じる。
{……恥ずかしい……恥ずかしい……?………………なんだかわたしまで恥ずかしくなってきました!}
ホログラムの顔部分が赤くなり、エリクシルの感情を伝えている。
「シャワー中は入ってくるな!それに赤くもなるなっ!」
ロランまで一緒に赤くなり、エリクシルに強く命令する。
{ひゃいっ!}
恥ずかしがるエリクシルは、返事をするとたちまち消えた。
「なんなんだ、あいつは……」
ロランはつぶやきながら、落ち着かせようと胸に手を当てる。
頭を振って邪念を払うと、傍のアームに強化服を掛ける。
アームは強化服を受け取ると、洗濯作業のために壁に引っ込んだ。
ロランは用意してあった綺麗なジャンプスーツを着ると、簡易ラボに向かった。
「……小石からの抽出量はどんなもんだ?」
{小石3グラムから抽出できた量は約1グラムになります。これは船内のレプリケーターで船体修理用のパーツ素材に転換生成するには、この200億倍の量の小石が必要になる計算です。また亜空間動力炉の稼働に必要な動力と燃料を賄うためには、さらに800億倍の量が必要となります}
エリクシルの返事をきいてロランは驚愕する。
「つまり……」
ロランが計算をするより早くエリクシルが答える。
{20,000トンと80,000トンで、合わせて100,000トンですね}
「船の補修と脱出のための燃料に、小石を10万トン……」
{10万トンはゼファー級の戦艦の積載燃料と一緒ですね。確かに現実的ではない量ですが、可能性が0ではないということは、とても良いことではないでしょうか?}
「そうなんだが……桁が大きすぎて想像がつかねえよ。もっとわかりやすい例えはねえか? 例えば、俺の装備の通信機器とかに使う小型燃料電池だ。通信機器なら受信しっぱなしでも40時間はもつ。それを生成するには何グラム必要なんだ?」
{そうですね。小石のみであれば……およそ40グラム必要になります}
「なるほど、コブル1体1グラムから燃料電池1時間ぶんの動力を得られる。……そう考えるとこの小石、とてつもない物質じゃねえか?」
{はい、まさしくその通りです。ロラン・ローグもようやく理解されたようですね。さらなる可能性として、この小石以外にも、燃料を効率良く精製できる鉱石や物質があることも考えられます。重力波に巻き込まれた先の地です。通常では起こりえないことばかりです}
「……確かに」
ロランは顎をさすりながら同意するとエリクシルは喜んだ。
{それに、大気の不明成分と同様のものであると特定できたので、大気中からも集積できる可能性もあります。そのためにはレプリケーターで専用の集積装置を作る必要がありますが、まとまった量を集積するにはかなりの時間が必要かと思われます}
「大気中からの集積だけだと、脱出までに何年掛かるか分からないってことか……」
{長期的に見ればそうですが、短期的に見れば、日々の生活のための動力や必要装備の補充には十分有効と思われます}
「なるほど!それなら作らない手はないな。あくまで補助としては優秀だってことだ。あいつらを……あの先住民はコブルと呼ぶか。集積装置があればコブルを追いかけまわす必要も減るってことだ。あいつらがこの地に一体どれだけいるのか見当もつかねえが」
僅かだが脱出への足がかりが見えたことで、ロランの表情も明るくなる。
「それはともかくとして、コブルの体内に小石がある理由は?」
{現段階では体内に小石が生成された
「それでも良い、今わかっていることを教えてくれ」
{……では、まず小石について、宝石とは異なる物質として便宜上"ジェムストーン"と呼称しますね。このジェムストーンは大気中の不明成分が濃縮されたもので、それが心臓部に癒着していることから、大気中の不明成分を呼吸等を通じて血中に取り込み蓄積しているものと思われます。コブルのジェムストーンは熱量を内包していますが……、取り込んだ熱量をどうするのか、使い道があるのか、活用方法についてはまだ不明です}
エリクシルが顎に指をあて、首を傾げながら答える。
それを聞いたロランは思い出したように勢いよく自分の胸に手をあてた。
「ジェムストーン………………。その大気中の成分を俺も取り込んでるわけだよな……」
{体内にジェムストーンが生成されている可能性もあるでしょうね。スキャンしますか?}
エリクシルがロランの前に立つと胸に手をかざす。
「スキャンしてくれ」
ピピピ、ピ、ピ、ピー
短い電子音がスキャンの終了を告げる。
エリクシルの表情が曇る。
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ジェムストーン。
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