009 コブル族★
「コブル族の子孫……」
ロランはその事実を反芻する。
{はい、過去にわたしたち同様この地に遭難したのか、その末裔が生き残っている可能性を示唆しています。だとすると大分知能が衰えているようですが……。本来好戦的な種族ではないはずですし、迫害を受け文明を失ったか、環境に適応するために野生化した結果ということならば、この地はとても危険なのかもしれませんね}
ロランはうんうんと頷く。
「…………あとよ、コブル族って種族についても知ってはいるが、実は詳しくはわかんねーんだ。HUBで見かけるぐらいだからな」
ロランがさらなる解説を望むと、エリクシルは準備ができているかのように{ エヘン!}と咳払いし、姿勢を正して胸を張った。
その動きは、まるで自然の豊かさを象徴するかのような印象を与える。
しかしロランはその姿に一瞬目を奪われつつも、すぐに視線を落とし解説に集中しようとする。彼は心の中で、(ホログラム、ホログラム、ホログラム……)と繰り返し、自分を戒める。
男として、そういった誘惑に簡単には勝てないという自覚があるからだ。
一方エリクシルはロランの動揺には気づかない様子で、ホログラムに必要な情報を映し出し始める。ロランの視線に気づかなかったようで、彼女はただ解説に集中していた。
{コブルは亜人類、ドゥラーク属、"コブル"は彼らの言葉で「石の者」を意味します。古くは鉱山や洞窟で石を採掘し、貴金属や宝石の原石を取り出し生計を立てていた種族でした。その頭は決して良いとは言えず、買い手は宝石を安く買うために、コブル族が売る宝石を「小石、クズ石、小さい石」などと言いくるめて買い叩いていたようです。そこから転じてコブル族のことを「小石を売る者」「小石」などと一部の商人はあだ名で呼ぶようになりました}
「そんな話、あったのか……」
口元に笑みを浮かべて感心しているロランをよそに、エリクシルは続ける。
{大宇宙時代に突入してからは、素直で勤勉な性格と器用な手先、種族内での結束力の強さから、いちコミュニティを築いた種族となりました。小柄で器用なことから、狭く入り組んだ場所に潜り込むことが得意で、HUBでお世話になったように、船や衛星のメンテナンスのための作業員として重宝されました}
※大宇宙時代:ヒト族が統一星歴を制定した時代。人類が亜空間航法技術を得て銀河団越えをした、始まりの時代のこと。ヒト族は宇宙の広範に分布し各惑星を植民地化しているが、規模としてはまだまだ新興勢力の域を出ない。他種族はそれぞれ個別に暦を持つことが多く、帝国歴等が該当する。
※ヒト族:人類が銀河越え達成し晴れて異種族の仲間入りをした時に、異種族から種族名を尋ねられ、人類と説明をするが「つまり何族なのか」と返されヒト族であると答えたのが始まりである。
「そういえば辞書機能みたいなのがあったな、さすがエリクシル! ……たしかアルケーのデータだったか?」
ロランは(そういえばそんなのがあった)と思いながらエリクシルに賛辞を贈る。
エリクシルは、"著:アウランヘリウスの「万物の
{また古くから鉱山や洞窟で働いていたこともあり非常に夜目が効くため、暗闇での作業にも慣れており、ライトを持ち込む必要もなかったそうです
「天職だったんだな」
{それ故、外からは作業中かどうかが判別しにくく、大宇宙初期には船のメンテナンスが終わったと勘違いした船長がエンジンをかけたところ、コブル族がゴロゴロと船から転がり落ちてきたという逸話もあります。以降はメンテナンス作業員の管理のため、作業前後の点呼と、【コブル作業中です!】の立て看板の設置が義務付けられました}
「くっく……面白い話だな」
{蔵書の閲覧は限られていますが、わからないことは何でも頼って下さいね!}
褒められてご満悦なエリクシルは喜んで答えた。
エリクシルには図書機能もあり、様々な図鑑、書籍が数十億冊以上備わっているが、閲覧するには追加の料金を支払う必要がある。
読書に興味のなかったロランはごく一部しか購入しておらず、今となっては長距離通信が行えないため、閲覧することもできず大半が無用の長物となっているのだ。
「その時は頼むぜ。それにしても
ロランの言葉に、一時の沈黙が訪れた。それは、静かな理解と受け入れの瞬間を示しているかのようだった。
そしてその静けさを破るかのように、エリクシルが突然{ あぁ!}と明るく頷き、控えめながらも心温まる笑顔を見せた。
{……あだ名と小石をかけているのですね}
「………………」
エリクシルの控えめな笑みにと、この独特な間によって、ロランは急に恥ずかしくなり押し黙る。
{無視しないでくださいよ}
「……そういうわけじゃねえんだ。なんか恥ずかしくなってよ」
ロランは、照れ隠しの言葉を漏らすだけだった。彼の瞳は落ち着きを失い、エリクシルを直視できずにいた。
エリクシルは、ロランの気持ちを察してか、理解があったかのように眉をあげて頷き、その場の空気を和らげるべく先ほどの軽い会話から本題へ話を戻した。
{話を戻しまして、小石の重量はひとつ3グラム程度でした。次に成分の抽出を試みます。リファイナリーの台座においてください}
ロランは指示に従い、小石をひとつ摘み上げてリファイナリーの台座に乗せる。
その瞬間、台座は機械の奥深くへと消えていった。
ゴオォ、ゥ、ゥ、ゥ、ゥ…………ウィンウィンウィンウィン。
リファイナリーが稼働し、最初は低いモーター音が響き渡る。
次第に勢いよく回転する音が高まっていった。
――――――――――
コブル族のエンジニア。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330665549406817
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