007 アンブッシュ★

 

「ゴギャーーー!!ギャオオォッーーーー!!」


 エリクシルが報告した刹那、痺れを切らした先住民がこん棒を振り回しながら駆けてくる。

 怒り狂い向かってくる様子はとても自衛のためとは思えず、をもってやってくる。

 腹の底から一気に喉元へ突き上げる、この世のものとは思えない絶叫を発したそれは、見た目からは想像できない威圧感があった。


「うわっ」


 ロランはとっさにショットガンベルバリン 888のストックを右から思い切り振り出す。


 ゴキャッ!! ……ドサッ……

 強化服の膂力を載せたストックによるバッシュは想像以上の威力を発揮した。

 鈍い音と共にストックが先住民の左側頭部がめり込み窪む。そしてその勢いのまま吹き飛ばされ地面に転がった。

 口からはよだれを垂らし、ピクピクと痙攣し始める。


「やっちまったか!?」


 ロランは先住民に駆け寄り見下ろすと、自身の額に手をあてる。

 ドカンドカンと鼓動が激しくなり、息が上がると共に、嫌な汗が噴き出る。


{ロラン・ローグ、正当防衛です。冷静になって下さい}


 エリクシルがロランの肩に触れるように手を伸ばし、落ち着かせようと試みる。

 肩を上下に揺らしているため、ホログラムの指先がひずむ。

 先住民は大きく痙攣していたが、次第に収まり、目から光がなくなる。


{……対象の死亡を確認、腕輪型端末をかざしてください。分析のためにスキャンします}


 ロランが徐々に落ち着きを取り戻すのを確認して、エリクシルが指示を出す。


「……お、おう」


 エリクシルに言われるがままロランは手をかざそうともっと近づく。

 突如、エリクシルが警告を発する。


{急速接近を感知、後ろです!}


 エリクシルの急速接近の警告を受け、ロランが振り返ると、3メートル先から緑色の先住民が突進してくるのが見えた。瞬時にショットガンベルバリン 888を構え、狙いを定めてトリガーを引いた。


 ガウンッ!!バッシャッ!!

 銃口から無数のペレットが勢いよく飛び出し、排莢されたシェルケースが地面に落ちる。

 ペレットは緑色の先住民の右前頭部に直撃し、その勢いで先住民は大きく体を反らせ、空中で一回転した後に地面に落ちた。

 頭部からは緑色の血液が溢れ、周囲には脳の欠片が散乱した。

 周囲には血がまき散らされ、極めて凄惨な現場が広がっていた。


「グロッ……」


 ロランの顔が引きつり、目を反らす。


{もう一体いました!!後方です!!}


 エリクシルが早口に伝えるが、眼前の死体に委縮していたロランは不意を突かれ反応が遅れた。

 振り返った時にはもう遅く、先住民による体当たりがロランの右脇腹に衝撃を与える。

 予想外の奇襲に、ロランは文字通り"不意にわき腹を突かれ"一驚いっきょうする。

 押された勢いで姿勢を崩し、緩んだ手からショットガンベルバリン 888が手から離れる。


「ぐっ……」


 ガシャッと音を立ててショットガンベルバリン 888が転がり、そのすぐ傍にロランは倒された。

 緑色の先住民はロランにマウント姿勢を取り、今にもこん棒を振り下ろそうとしている。

 ショットガンベルバリン 888を手に取る余裕はないと瞬時に判断したロランは、すかさず腰のスタンガンを取り出し先住民の腹めがけて打ち込んだ。


 バチチチチチッ!

「ギギ……………………」


 スタンガンから射出されたワイヤーが先住民の左脇腹に刺さり、感電した先住民は白目を剥きながら全身が引き攣り、音を立てる。

 こん棒の攻撃は寸前で狙いを外れ、ロランの顔をかすめる形となった。

 痺れた先住民は動けなくなり、ロランの脇に重く倒れ込んだ。


{ロラン・ローグ!無事ですか?}


 エリクシルが心配そうに尋ねる。その声に、ロランの心臓が激しく鼓動していること、アドレナリンが全身を駆け巡っていることを実感する。


「はぁっ、はぁっ……危なかった……!」


 ロランは息も絶え絶えに答えると立ち上がり、足元に転がっているこん棒を拾う。

 そのままこん棒を振りかざし、痺れている先住民の頭部目掛けて叩き込んだ。


 ゴスッ、ガッ、バキャッ!

 ロランは先住民の頭部が陥没し、痙攣が止まるのを苦々しい表情で見守った。

 静かになるのを確認すると、ロランは深く息を吸いこんだ。

 そしてイヤーマフを外して首にかけ、右脇腹を確認した。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、……っく…………なんともないか……」

{強化服の防御力に救われましたね……。引き続き周囲を警戒して下さい}


 エリクシルは安堵するが、すぐさまロランに警戒を促す。

 ロランが周囲を見渡す。

 森の草木を注視するロランの目は、緊張と警戒で鋭くなっている。


{念のため、周囲を探索する必要があります}

「俺も、そう思ってたよ」


 ロランはイグリースのハッチの横にある梯子を降ろすと、船の左舷へと上がる。

 周囲を見渡し目を細める。

 船を囲うように樹木が立ち並び、森の切れ間から鳥が数羽飛び立つのが見える。

 茂みがさわさわと動いているが、風に揺らされているだけのようだ。

 近くを見るとシダ植物や着生植物が、森の中を見れば針葉樹や広葉樹が入り乱れた混交林のようだ。


「森が深くて遠くまではみえねえけど……、それらしい影は見えないな」


 エリクシルはほっと胸を撫でおろす。

 物音や動きがないのを確認すると、ロランは梯子を降りてその場に座り込む。


「ふう、まさか……波状攻撃するとはな……」


 エリクシルを見上げ、同意を求める。


{彼らの言語を認識できませんでしたが、明らかに知能をもって行動していましたね}


 エリクシルがそう答えると、ロランは汗をぬぐいゆっくりと立ち上がる。

 そして下半身についた汚れをパッパッと払った。


「殺意が半端なかった。この星はやべえぞ、1体いたら3体以上はいると思った方がいいな」

{……早急に彼らのスキャンを済ませましょう}


 エリクシルはロランが落ち着いてきたのを確認すると提案する。


「……あぁ。それもそうだな」

{端末をかざしてください}


 ロランは死体に近づくと端末をかざす。


 ピピピ、ピ、ピ、ピー

 短い電子音がスキャンの終了を告げる。


―――――――――――――

船外作業服。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330666092108575

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