005 先住民と会う前に★
小柄で緑色の半裸が、船尾をこん棒で打ち付け練り歩いている。
腰には布のようなものが巻かれている。
「……なんだ?緑の…………先住民族か?」
ロランが詳しく見ようと、画面に向かって前屈みになる。
{スキャンの出力低下により、特定できません。精度を高めるには近づいて腕輪型端末でスキャンを行う必要があります}
画面には赤く
「???」と表記されている。
「近づくっつったって、友好的な風貌には見えねーぞ」
ロランはリクライニングにもたれかかり、エリクシルを見上げる。
見上げた先にしなやかな肢体が映りこみ、目を反らす。
{見た目だけでは判断できませんが、あいさつをしてみては如何でしょう }
「あいさつ……正気とは思えねーが」
ロランは起き上がるとロッカーへと向かう。
ロッカーの中には様々な装備がある。大型ハンガーからEXOスーツと強化服のどちらを取るか悩むが、すぐに強化服を取り出すと船外作業服から着替えた。
EXOスーツは剥き出しの外骨格が特徴的だ。
これは相手へ威圧感を与えるものであり、ロランはそう思って強化服を選んだのである。
次に、ロッカーの右隣りの重厚な金属製の武器ラックに手をかけると、横にスライドさせる。
ラックにはデカデカと銃が描かれたステッカーが貼られている。
武器ラックからおもむろに取り出したのは、
―ベルバリン 888 ポンプアップショットガンー
星暦888年、ベルバリン氏が30年に渡って作り続けたポンプ式のショットガンである。
銃身が短いため取り回しやすく、ストック(銃床)が堅牢なため不意に近づかれてもストックで反撃できる近接仕様だ。
ロランには狩りの経験があり、基本的な銃の知識を有している。ショットガンは面での制圧に特化している。今回はいざという時に目の前の敵に対処しやすいよう、
ロッカーの弾薬ケースから14ゲージのショットガンシェルを取り出すと、順に込めていく。
カシュッ、カシュッ、カシュッとリズムよく6回装填されると、ふと考えるように動きが止まった。
「これもあったほうがいいか……?」
ロランは独り呟くと、ショットガンの下部に吊り下げられた護身用のスタン
そして銃声を軽減するためにイヤーマフもロッカーから取り出すと首から下げる。
これはヘッドフォンとしても利用できる騒音制御型のイヤーマフだ。イヤーマフにはクリアな無線通信機能が搭載されているが、無声通信を利用するため耳当てとして活用するのだ。
「備えあれば……憂いなし」
そう呟くと、ロランは左上腕部のパッチに触れる。
<強化服・起動> Reinforced clothing, activated.
機械音声が、周囲に満ちる静寂を打ち破りながら響き渡った。
腕部のパッチが突如、深い緑色に輝き始めると同時に、ディスプレイには99%という数字が浮かび上がった。起動時に残量が確認できる仕様だ。
強化服の電源には
ロランの強化服は運搬業務に特化した、ケンタウリ重工製の『クラスIIポーター』だ。
全身にカーボンナノフィラメントと人工筋繊維が組み込まれたチューブを内蔵するこの装備は、主に貨物の運搬といった人力が必要な時に使用される。この技術により、着用者の膂力は通常の人間を大きく超えることができる。
第3等級以上の戦艦、船舶、輸送艦にはこの種の装備が標準装備として搭載されることが義務付けられている。これは船内で発生する可能性のある様々なトラブルに迅速に対処するための安全装備でもあり、いざという時には瓦礫をかき分けたり、脱出ポッドへと急ぐことができる程度の保護を提供する。
ただし戦闘用には設計されていないため、戦闘に巻き込まれた場合の生存率はそれほど高くはない。
しかし奇跡的に生き残ることができた場合には、その能力が生命を救う可能性がある。
性能にはピンからキリまで幅広いバリエーションが存在し、ロランが使用している強化服は性能の低い方のクラスに分類される。
それにも関わらずその価格は小さな家を購入できるほど高価である。
高級クラスや戦闘用ともなれば船舶の1隻を優に超える。その分性能も大きく向上し、生命維持機能などのオプションも追加装備されている。
宙賊の跋扈する宇宙を生き抜くためにはなにかと物入りなのである。
そんな高価なものを所有しているロラン。
その金の出所は、イスルギンで偶然発掘した旧遺物だ。
これを売ってイグリースを買っても余りある資金を、これらの自慢の装備の購入費用に充てていたのである。
「こんな装備に金かけるよりも、もっといい船を買っていればなぁ……」
ロランは独り後悔の念を呟く。
もちろんこれは宙業務において初心者が陥りやすい罠だ。
若いゆえに自分の能力を過信し、自身の手で物事を解決することに関心が高いことが要因である。
本来であれば宙賊対策となるのは、根本的な航路の選択、自衛のためのシールド設備など、船の装備だ。
強化服やEXOスーツは二の次で最低限度に留め、船の性能を重視するのが得策だった。
俯いているロランにエリクシルが声をかける。
{ロラン・ローグ、挨拶には過度な装備です。未開惑星保護条約があります。迂闊な行動は控えてください}
エリクシルが
「……どこの世界に半裸でこん棒を持った友好的な変質者がいるんだ。備えるに越したことはない。念のためだ、緑の村人に挨拶だけな」
エリクシルも"半裸でこん棒を持った友好的な変質者"に用意もせずに近づくべきではないと思うと、それ以上は何も言わなかった。
ロランはそれでもハッチへと進む決意を固め、タラップを降り、減圧室を抜けてゆく。
ハッチの向こうからは、ガンガンと断続的に金属を叩く音が鳴り響いている。
イヤーマフを装備したロランは、ハッチを開けるスイッチの横に手をかける。
このスイッチを押すことで、彼は緑色の肌を持つ先住民と直接対面することになる。
この瞬間が、ロランにとって未知の生命体との初めての接触となりそうだ。
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船の外観。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330666036471131
EXOスーツ。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023213155325601
強化服。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093078248992903
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