004 今後の計画★


 { はい、そのようです。それにロラン・ローグ、あなたは宇宙アメーバが大嫌いでしたね。それを船主席に飾っておくなんて…… }


 「ふっ、これは戒めなんだ……」


 ロランは苦笑いすると続ける。


 「エリクシルを新調するくらいに船が損傷を受けた大事件だった。あんな思いは二度とごめんだ」


 { 戒め……。そうだったのですね }


 エリクシルは戒めと言われ複雑な感情を覚えたが、それはまだ何かわからないようだ。

 しばらくの間沈黙が流れる。


 「え、えっと、エリクシル、船体の損傷状態についてなんだがよ」


 ロランが思い出したように切り出す。


 { ああっ、そういえば……! }


 エリクシルが急いで船主席の元へ向かい、ロランもそれに続いて移動する。

 ホログラムモニターには船体の状態が詳細に表示され、エリクシルが損傷状況を説明する。


 { 船体の状況は……左エンジンスラスターに重度の破損と、付属の燃料タンクに損傷が見られます。右のタンクには燃料が残っていますが、全体の燃料としては30%程度しかありません。 }


 エリクシルの言言葉と共に、船体の図面上に損傷部分が赤く強調表示される。

 その真っ赤な色合いが事態の深刻さを物語っているようだ。


 「修復は可能なレベルか?」


 { 現状ですと、エンジンの機関部分については予備の部品が一部あります。細かい部品や外装部分に関しても、時間はかかりますが小型レプリケーターで出力すること自体は可能です。目下の問題は残燃料が全体の約30%しかないことです。内訳を表示します }


 ホログラムモニターにシュミレートが表示される。

 レプリケーター稼働による燃料消費、エンジンの修復に必要な部品の精製に必要な燃料の転換量、航行に必要な燃料、その他インフラ維持等が簡易的に表示される。


 { 本船の小型レプリケーターとリファイナリーを使用することで、エンジン周りの修復を燃料の転換で賄うことができますが、その場合は全体の40%が必要になります。インフラに関しては省電力モードを活用すれば燃料の5%で半年間はもちます。離陸したとしても現在地が不明なので、最寄りの有人星系や宇宙ステーションまでの距離が不明です。なので万全を期すには、修理完了したのちに燃料を100%まで回復させる必要があるかと }


 「まて、まてまて、現在地がわからないって、レーダーは損傷してねーだろ?」


 ロランが頭を掻きながら疑問を投げかける。

 エリクシルは凛として答える。


 { はい、損傷していません。先ほどから外部の情報収集をおこなっていますが、大気や磁場の影響でしょうか、ジャミングされているかのように通信機能が大幅に低下しています。よって現在地は不明です }


 「……なるほど。なんにせよ、燃料がぜんっぜん足りねーんだな。修理するなら都合よく資材を見つけるか……、不要部分を解体して補うか……か。」


 考え込むロランは、思い出したように話題を変える。


 「……そういや積み荷は無事か? 積荷の文字も読めなかったけどよ……」


 { 貨物庫にアクセス……積荷に変化はありません。貨物に印刷された言語はコシュシリリノムモ語で"われものちゅうい"です }


 エリクシルの翻訳機能が活躍する。


 「あぁ、たしかに依頼を受ける時にそんなことは言ってたが……初めて聞く言語だな。コシュ……なんとか」


 { コシュシリリノムモ語です。この有事です。積み荷を開封しますか? }


 「いや、俺は仕事はきっちりするタイプだ。脱出したらちゃんと届けるぜ」


エリクシルは感心したように頷くと、提案した。


 { それでは話を戻しまして、現時点ではインフラ維持に注力すべきではないでしょうか。安全確認のために周囲の探索は必須ですし、資源調査も必要でしょう。原生生物がいれば、脅威に対する対策も必要になってきます。また文明を発見できれば更なる情報収集や、場合によっては燃料の補給、資材の購入なども可能かもしれません }


 「そうだな、まずは探索か。それなら船外の状況は?」


 { 船外カメラの映像を確認します }


 巨大ホログラムに船首から右舷左舷、船尾周囲の映像が映し出され、ロランはそれを注視する。

 船体は降着装置ランディングギアを展開し森の空地のようなところに着陸していた。

 船の後面のハッチが降ろせるスペースが確保されているのが確認できる。


 「着陸できてたんだな。イグリースの不時着プロトコルか?」


 { 航行ログからも着陸後に船の動力が落ちたことが確認できます }

 

 「ハッチが開くスペースがあるのは良い情報だな。閉じ込められたわけじゃなかったんだ。……それにしても何故動力が落ちたんだ?」


 { 不時着プロトコル後は救難信号を発信することになっていますが、バーニア部を被弾し燃料が漏出していたため強制的に動力を停止させたのかもしれません }


 「それって誘爆を防ぐためだったよな……動力を再起動する前に予備電源を起動して損傷を確認するべきだったか……危ねえ!起動したら吹き飛んでたかもしれなかったんだな」


 { そういうことになりますね }


 「不幸中の幸いだな。……そして外の大気の状態はどうだ?」


 { ……大気の組成ですが、窒素(N2)75.1%、酸素(O2)が20.9%、アルゴン(Ar)が0.93%、二酸化炭素(CO2)が0.03%、水蒸気その他が約1%、また不明な成分、……粒子が3%あります }


 「そう言われてもわかんねぇっ! どこの惑星と似てる?」


 ロランは細かい説明にうんざりするように、ぶっきらぼうに答えた。


 { ……現在気温は20度、標準重力は9.77512 m/s2、コクピットから見える森林の植生から地球モデルに酷似しています。 }


 「帝国領の地球か? いまいちピンとこねぇよ。俺の故郷と比較してくれ、ウェルマン星系の惑星イスルギンだ。それと不明な成分って?」


 { そうです、帝国の本拠地です。大気の組成については惑星イスルギンとも著明な違いはありません。……不明な成分については現在の設備では解析ができません }


 「とりあえず呼吸はできるが、その不明な成分を吸い込んじまう危険性については?」


 { ……実は、もうすでに吸い込んでいます。船の気密性に変化はありませんでしたが、船内にも同様の成分が検知されています }


 「それは壁を無視して侵入できるようなやばい成分ってことだよな……。今のところ体に違和感はないが……」


 { 現時点ではバイタルサインに異常は見られません。精密検査を行いますか? }


 「あぁ、頼」


 ガンッ!ゴンッ、ガンゴンッ!!

 ロランが言いかけると船内に鈍い音が響き渡った。

 二人は顔を見合わせる。


 { 船尾からです }


 「外部カメラを確認してくれ」


 ロランが指示すると、エリクシルは応じてカメラを接続し、ホログラムモニターに映像が映し出される。

 船尾で何かが動いている様子が確認できるが、正体はわからない。


 「別の角度から見られるか?」


 { ……接続を切り替えます }

 

 小柄で緑色の半裸が、船尾をこん棒で打ち付け練り歩いている。

 腰には布のようなものが巻かれている。


 「……なんだ?緑の…………先住民族か?」


――――――――――――――

薄笑いの男のラフスケッチ。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330666333643413

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