第3話 ロウソク

 

 長いこと使っていなかったベッドを整えた。お腹いっぱい食べたセツは眠たそうにまなこを擦っていて、レベッカのいうことをよくきいた。


「おやすみ、レベッカ」

「お、おやすみなさい……」


 閉じたドアを見つめる。

 扉一つを隔てた先にセツが眠っている。それはとても奇妙な気分だった。

 レベッカは何もないテーブルの上に両肘で頬杖をつく。机の上の蝋燭の火を眺める。とけた蝋がとろりとしたたり落ちる。

 顔を近づけすぎて顔まわりの髪を何度か焼いたこともあるが、それでも火を眺めるために鼻先まで近づけてしまう。

 表面を焦がすような熱が肌を舐める。

 指先も頬も、頭の先から足の爪先まで、熱で満たされている気がする。

 熱が皮膚をつたい、目の奥に炎を灯す。それはあたたかい涙となった。


「セツ」


 彼女の名前を小さく呟く。


 ……もう、一人ではない。

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嫌われ魔女、愛をしる ポン吉 @sakana_kumo

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