ECHO LOG 004
第十八残存生活者支援施設行きが決まった時点で、私の周りには私が知っている人も、私を知っている人もいなくなってしまった。
一人で生活しているわけじゃないけど、私は一人だった。
私の世界では、私が最後の人類だった。
こうやって
いつ私が眠ってもいいように、しめくくりの言葉は最初に設定しておいた。
あとはただ、終わりを待っていればいい。
それでいいんだ、と思っていた。
そのはずだったのに……。
…………。
…………………。
………………………うわあ。
ECHOは人間の思考や心の動きを介する機械だ。本来なら人間と機械とのコミュニケーションに用いられるはずだったこの技術は、ESSによる混乱の影響からか特定の人間の記憶を追体験できる記録として再生成する装置になった。
ESSが広まって、世界が終わりの気配に包まれてから、こういう実験的な
記憶を記録にする装置なのかと最初は思ったけれど、それとは少し違っていて、記録にしたい体験をリアルタイムでECHOに観測させる必要があるのだった。
ECHOは私という主観のカメラそのものであり、やり直しのきかない一発撮りの映画みたいなものだろう。
ただ、私の主観というか感じ方の濃淡が出やすいらしかった。
その結果がこれだ。
施設行きが決まって、もう誰かと関わるのも面倒くさくなっていて、私は一人で生きているつもりだった。
しかし、結実花と出会ってから一人きりだった私の世界は〝私と結実花の世界〟に変わりつつあった。
結実花がすごいのか、私の『誰とも関わらない』って決意がそもそも大したものじゃなかったからなのか……。
どっちにしろ、うわあって感じだ。
あ。
結実花がすごいと言えば、私がECHOを使っているのを知っていながらずっと黙っていたこともある。
自身の記憶をリアルタイムで記録に変換できる、という触れ込みのECHOは、プライバシー保護の関係で相手のMICAに『記録して良いですか?』と通知が行くらしい。記録の中で結実花以外の人間の印象が薄いのは、他の人には拒否されたからだ。
何か目新しい物がないと施設での生活に退屈するから、と思って始めたからあまり気にしなかったけど、いまは違っていた。
気になるし、気にする。
他の人に拒否されていることじゃなくて、この記録の中に私と結実花しかいないことがだ。
だからもう、ECHOの記録はおしまいにする。
なぜなら……。
‥
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