ECHO LOG 003
それが、いまから二週間前のこと。
二週間前、緊急時の特別措置法とやらによって、私は〝自立生活困難な残存生活者〟に振り分けられた。私の意思や家族が残してくれた財産とか様々な権利は関係なくて、私がまだ十七歳で、未成年者だからだ。
地区管理AIに接続された家庭用医療端末は、これまでそうしたように全て滞りなく行った。
『一人当たりの居住スペースは六畳間相当です』
『発送と搬入が可能であれば荷物に制限はありません』
『食事、衣服、生活必需品及び消耗品は全て支給されます』
『施設近隣であれば移動の制限はありません』
『通信制限はありません。
『
『現時刻より四十八時間以内に移動準備を整えてください。準備が困難な方には、
トドメに。
『八時間以内に自発的な行動をされなかった場合、自動移住措置を実施しますのでご了承ください。なお、心身の健康状態によっては医療施設への搬送も検討されます』
ここで『従わなきゃ病院送りにします』って言えちゃうのが機械だよな、って思う。
そんな風に割り切れたのは、たぶんこれが最初じゃなかったからだ。
怒りとか悲しみとかぐちゃぐちゃになった感情は、どこかに落としてしまったらしくて、もう思い出し泣きをすることも地区管理AIに八つ当たりすることもなくなっていた。
ああ、こうやって終わっていくんだな、と目の前で行われる処置を見守るしかなかった。
ESSが死に至る病なのは、医療行為による
順番としては、入院という名の放置期間があって、眠ったまま緩やかに生命活動が停止していく。そのあとは、他の死因で亡くなったときと同じようにお弔い。
ただ、お葬式は二年前と比べ物にならないほと簡略化されていて、もうあってないようなものだった。とても追いつかないし、途中で誰が発症するかわからないからだ。
そう、誰かの喪失を気にしていても、とても追いつかない。
悲しいとか寂しいという気持ちが一杯になると、そういうのがとても重たくなる。どんな気持ちかわかる前に、のしかかってくる感じだ。やがて一杯を通り越してはち切れると、なんだかどうでもよくなってきて……。
何もかも面倒くさくなっていた。
勝手にわいてくる自分の感情も、周りから向けられる色んな感情も、一方的にのしかかってくるだけで面倒くさい。
そうして、知っている人はみんないなくなっていて……誰かと関わることも面倒になっていて……。
気づいたら、私は誰とも話さなくなっていた。
話し方そのものを忘れてしまったのかもしれない。
でも、だからなんだって言うんだろう。私も施設にいる人達も、たぶん近いうちにESSになって永遠の眠りにつく。
一人で生きてるのと同じようなものだから、ただ終わりを待っていればいい。
とても退屈だけど、きっとそれにもいつか慣れる。
そんな風に、思うようになっていた。
‥
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