水鏡の上 白銀の月が浮かぶ
武 頼庵(藤谷 K介)
夜空に輝く大きな月の元で
何が契機になったかなんて、そんなのどうでもよかった――。
何故かはわからないけど、そこへ行かなければならないという強迫観念にも似た感情が心の中を支配して、気が付いた時には種族の中で禁足の地と呼ばれる場所へと踏み込んでいて、目の前に映るもの全てに心奪われ、そこから一歩も動くことが出来なくなっていた。
シャンシャン
シャンシャランシャン
シャンシャン
湖上に丸く金色に光り輝く月明かりに照らされながら、少し小高い丘の上で独り、たった一人で舞い踊る姿をずっとその目に焼き付ける。
リーン
シャンシャン
リーン
シャンシャン
白装束を身に纏い、片手に錫杖を持ち、一心不乱に舞い踊るその姿から目が離せない。
――こんな……こんなものを見てしまうなんて……。
姿は分かるが顔が見えるわけじゃない。でも心と体を惹きつける何かを感じる。
がさ
パキ……
「だれ!?」
「あ……」
気付かないうちに俺は近づこうとしていたらしい。小枝を踏みつけたときに折れる音を聞き取ったのだろう。舞い踊っていたその人は俺の方を向いてジッとしている。
「あ、あの……怪しい者じゃないんだ!!」
「怪しい人はみんなそう言いますよ?」
「うっ……。でも、本当に怪しい者じゃないんだ信じてもらうしかないけど……」
俺の必死の訴えに、その人はため息をついたように感じた。
「お名前は?」
「あ、お、俺は黒狼族のジン……です」
「黒狼族……」
「え? あ、うん……」
俺が種族名を名乗ると、その人はゆっくりと舞い踊っていた場所から俺の方へと近づいて来た。
「そうですか……わたしの名前はイルナと申します」
「えっと……白狼族……?」
月を背にしながらこちらに向かってきているので、逆光で見えていなかったその姿がようやく見えるようになってきて、その姿に驚く。
狼族と思われるピンと立った耳に、スッと腰まで伸びた白色の髪。その先を赤い布地で結んで垂らしている。瞳の色は暗くてよく分からないけど、白狼族と思われるような赤い瞳で、俺達黒狼族の様な黒髪黒目ではない。
そして凛としていて透き通るような少し高めの声から割ってはいたけど、近づいて来ていたのは俺と同じような年頃の女の子だった。
「よろしくお願いしますジンさん」
ニコッと俺を見ながら笑うイルナ。その姿に俺は見惚れてしまい声を発することが出来なかった。
それが俺とイルナとの出会いである――。
俺達が住んでいるこの世は、俺が生まれるずっとずっと昔に、一度滅びかけたらしい。らしいというのはその当時に生きていた者がいたかどうかも定かではないという事もあるし、詳しく伝聞が伝わっているわけじゃないから。
分かっている事は、当時人間種と言わる種族が世を統治していて、繁殖力で劣る動物や植物たちは人間種と共に生きる愛玩動物や家畜の様な存在だったこと。
そして現在明るく空を照らしている
そんな時に、突然月が紅黒くなり、一つだった月が割れ、赤と白という二つ目の月が生まれた事により、この世界が一変した。それまで温暖だった気候が急に寒くなり、食物はおろか植物も育たない土地が生まれ、拡大し食べるモノにも困る生活に突入する。
そして急激な気温の低下に耐えきれなくなった種族から、段々とこの世を去って行った。その中で逆に環境に沿うよう進化を始めたのが、動物たち俺たちの祖先たちだと言われている。
人間種と言われるモノ達は、その体に体毛が無かった事で温度の急激な低下に抗う事がなかなかできず、数を減らしていった。
進化を続ける祖先たちはゆっくりとだが知識を付け、四足歩行から二足歩行へと進化し、前足部分がモノを扱えるように指が伸び、道具を使用するようになると、それまで統治していた人間種と対等になるほどの勢力を獲得する。
それからは我らの祖先たち動物種が多種多様に進化し、現在はほぼ同数がこの世に存在していると言われている。
それぞれの種がそれぞれの土地で国を興し、お互いがお互いを補いつつ共に生存するために生きている。それが今の世なのだ。
俺が住んでいるのはその中でも特に犬族が多い土地で、その中でもとりわけ狼族が多い地域。更に言うと俺達黒狼族と、白狼族とが生存息を接している場所で有り、仲が良いというわけではない二つの種族が互いにけん制し合う土地でもある。
――だからこんなところに来ている事が分ったらまずいんだけどな……。
俺に向けて微笑むことを止めないイルナを見つめつつ、俺はどうやってこの場から出て行くかを考える。そしてここには居なかったという事にしなければならないので、その方法を見つけなければならない。
――いっそこのままこの子を……。
「大丈夫ですよ?」
「え?」
ぐるぐると纏まる事のない考えに苦慮していると、イルナから声を掛けられた。
「今、どうやってこの場から逃げようかと考えているのでしょう?」
「う、うん……。そうだけど……」
「やめといたほうがいいと思います」
「な、何が……かな?」
ジッと俺を見つめる紅い瞳から目が離せなくなる。
「どうやって私を殺めるか考えているのでしょう?」
「あ、いや……そんな事……思って無いよ?」
「嘘ですね。鼓動が速くなってますよ?」
「…………」
――この子!! 何者だ!?
確かに俺の心臓は先ほどからどくどくと早鐘の様に鼓動が速くなっている。ただそれが離れた場所にいるイルナまで聞こえるはずがない。そういくら聴力が良い狼族でも、そこまでの聞き分けられる奴なんていないはず。
「大丈夫ですよ。安心して下さい」
「え?」
「あなたがここにいた事は誰にも言いませんから……」
「いやでも……」
イルナがいう事を簡単に信じるわけにはいかない。今いるのは両狼族にとっての禁足地である。
もし万が一にもその場所に立ち入った事が知れ渡れば両種族間で争いに発展してもおかしくない。
「じゃぁこうしませんか?」
「交換条件って事か?」
「まぁそうですね」
「……聞くだけ、聞いてみるよ」
「良かった……」
フフフと先ほどの笑顔とは違う、柔らかな表情を見せるイルナ。先ほどまでは笑顔ではあったもののやはり緊張していたのだろう。
「その条件は?」
「そうですね……」
イルナはそういうと俺に背を向けて、先ほどまで彼女が舞い踊っていた丘の方へと身体を向ける。
「毎月……」
「ん?」
「毎月、満月の夜にあの場所でお会いしましょう」
「は?」
イルナからあり得ない提案がされて俺は驚いた。
――何を言ってる? ここは禁足地だぞ!? そうか!! ここでそう約束させて俺がのこのこ来たら白狼族のやつらが俺を捕まえるって魂胆だな!!
「そんなことしませんよ……」
「なっ!?」
俺の心の内を見透かしたように、俺の方へと身体の向きを変えたイルナが笑う。
――コイツ!?
警戒心を一気に高める
「こいつじゃありません。イルナです。そう呼んでください」
「!? ……分かったよ。イルナ」
「はい!! それでどうします?」
「……毎月、満月の日でいいのか?」
どうにも心の中を読まれている様で、逃げられない雰囲気を感じ、先ほどの提案を確認する。
「えぇ……。満月の夜に」
「わかった」
「ではまた来月にお会いしましょう!!」
初めて俺に笑顔を見せた時とは違い、今度は年相応に幼さが残る笑顔を俺に見せる。
ぺこりと俺に頭を下げてイルナは俺に背を向け、すたすたと丘の上の方へと歩き出した。もう俺の事を気にする素振りも見せず、その場所が帰る場所の様に力強く。
俺は遠ざかっていくその後ろ姿をじっと見つめ、丘の上へと到達し更にその向こう側へと消えて行ったイルナを確認してようやく大きなため息をついた。
――こんなに緊張したのは初めてかも知れないな……。
いつの間にか全身の毛が濡れてしぼんでしまう程の汗をかいていたことに気が付き、それからしばらく様子を見ながら俺もその場に背を向けた。
それから約束した通りに毎月一回、一日だけ禁足の地へと足を踏み入れる生活が続く。
さすがに初めの数か月は警戒して周囲を見回したりしていたのだが、イルナはいつも一人で丘の上で舞い踊っていた。
少しの間その舞を見ていると、とてもいい笑顔をしながら俺の方へと近づいてきて、他愛のない会話をして過ごし、二つの月が沈んで天照様が顔を出す頃にはお互いに自分の住んでいる場所へと帰る。
そんな日々を過ごしていると、段々とイルナという女の子の事が気になりだして、どういう人なのか気になって来るのは仕方が無い事だと思う。
信用しているかと言われると、さすがに種族間の事も有るから完全にとはいかないかもしれないが、俺の中では既にイルナはそういうやつらとは違う存在になりつつあった。
「イルナ?」
「うん」
白狼族と仲が良くなくて、土地の問題を抱えているとはいえ、まったく交流がない訳ではない。お互いに足りないものを売買する為、両種族間で許可された者が両地域を行き来している。
白狼族の人が来た時を狙い、声を掛けてみた所、結構人の良さそうな感じがして藩士が弾み、仲良くなった。
初めの頃は本当に何気ない会話しかしなかったけど、仲良くなった今となっては冗談を言い合えるまでになったので、思い切ってイルナがどんな生活をしているのか気になっていたので聞いてみる事にした。
「イルナ……イルナ……。そんな子いたかなぁ?」
顎に手を当てて考えるそぶりをする。その様子から本当に記憶に無いのかもしれない。
「本当にウチの白狼族なのかい? そのイルナって子は」
「え? いやだってこの辺にいるんだし、白狼族でしょ?」
「うぅ~ん……。イルナかぁ……聞いたこと無いけどなぁ」
「…………」
考えこむその様子は嘘をついているようには見えない。
――じゃぁイルナは何者なんだ? 白狼族の土地に住んでない? そんなバカなことが有るか?
俺の中で疑問が生じる。それまでずっと白狼族だと思っていたのに、そこに住んでいる様子が無いとすると、彼女が何者なのか良く分からない。
「ジン君」
「なんです?」
「そのイルナの事……。好きなのかい?」
「え!?」
突然そんな事を聞かれて驚いた。
「でもお互いがこんな状態だし、
「いやいやいや!! そんな事考えても……」
「そう? それならいいんだけどね。あんまり無茶すると大変なことになるからさ」
「……考えた事もないですよ……。それに分かっています……」
「うん」
俺を見ながら一つこくりと頷くと、荷物を持って立ちあがり、そのまま黒狼族の領域から出るために歩き出した。
――考えた事も……ないさ……。
自分に言い聞かせるように、何度も何度も心の中でつぶやいた。
「え? 私の事ですか?」
「うん……」
何度も会ううちに俺たちはお互いから言葉の研が取れ、かなり親しい口調で話すまでになっていた。
最近になって気になり始めた事をそのままイルナに聞いてみる。
「なぁ……イルナは白狼族なんだよな?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
イルナのピンと立っていた耳がへにゃっとちょっとだけ垂れた。
「いや。だってさ。こうして二人でいるのがなんだか不思議な感じがして」
「まぁそうだよねぇ……。ジンはさ……」
「ん?」
「どうしたい? これから先」
いつもとは違う真剣な表情を見せるイルナ。赤い月の光と、金色の月の光がその表情をくっきりと浮かび上がらせる。
ドクンと何かが高鳴る感覚に襲われて、俺は胸をグッと押さえつけた。
ジッと俺を見つめるイルナ。
「俺は……。出来るならこうして二人で居られたらいいなと思ってる」
「ずっと?」
「うん……ずっと……」
「そっか……ずっとか……」
俺の言葉を聞いて、イルナは顔を上げ俺たち二人を照らしている二つの月へと視線を向けた。
俺もそれに合わせるように顔を上げる。
「白狼族と黒狼族……二つの種族は混ざり合えない……」
「……あぁ。ずっと言われてるやつだな」
「うん。でも……ね?」
「ん?」
「でも、それが当てはまらない事も有るんだよ?」
「え?」
そういうとイルナは何も言わず月を眺める。
――どういう意味だ?
俺にはソレが何を示しているのか分からなかった。
「長老……何か知ってますか?」
「む?」
イルナとの会話が気になった俺は、後日長老に何か知っているか聞いてみる事にいた。特に何もない長老が仕事の無さそうな時を狙い、長老の家へと出向いて聞きたいことが有るからと時間を貰うことに成功する。
「白狼族とウチらか……」
「はい……」
「ジン」
「何ですか?」
俺と向かい合って座る長老が、俺を見ながらニコリ笑う。
「好きなおなごが出来たか?」
「え? あ、いや……その……」
「よいよい。まぁジンもそんな年頃になったか」
「いつまでもガキのままじゃないですよ……」
ガハハと笑う長老。
「何度かそういう事が有ったらしい」
「そうなんですか?」
「うむ。じゃが結局は上手くはいかず、そのモノ達はこの地を去ってしまったそうじゃ」
「………どうして?」
「さぁのぅ……。生きづらいのじゃろう……。どちらの地域に住むにしても結局片方はよそ者だからのう」
「よそもの……ですか」
長老がいう事は何となくわかる。一緒になるという事は一緒に住むという事で、どちらかがどちらかの領域に移り住むという事。
でも白狼と黒狼は昔から仲が良くはない。つまりはどうしてもよそ者という思いが住んでいる場所周辺では付きまとう事になる。
納得はできないけど、その心情は理解できる。
「じゃが……」
「なんです?」
「伝説があるんじゃよ」
「伝説?」
「あぁ。二つの月湖上に重なる時、黒夜に
長老は話しながら窓の外を見る。
「湖上って……」
「そう……禁足地にあるアレの事じゃな」
この辺りにある湖とは禁足地にある、イルナと初めて会った時に見えていた湖しかない。
「それじゃぁ誰も見つけられないんじゃ……」
「ジンならできるじゃろ?」
「え?」
俺の顔をジッと見つめる長老。
「知っとるぞ。毎月一日だけあの場所に行っとること」
「…………」
「まぁわしの独り言じゃ。周りのやつらは知らんわい。何をしに行っとるかまでは知らんが、ジンにとって大切な場所なんじゃろ?」
「……はい」
長老は静かに立ちあがり、俺の肩にポンと手を添えるとそのまま歩き出す。
「今月はちょうど数年に一度の二重月じゃのう……」
俺の背中越しにそれだけを言い残し、長老は家の中から外へと出て行った。
――長老……ありがとうございます……。
胸の奥に込み上げてくる思い。それは知っていても知らぬ顔をしてくれる長老へ対する感謝の念だった。
暗闇の森の中をゆっくりと約束の場所へ向けて歩く。
狼族の俺達はもちろん聴力に優れているし、嗅覚や視覚もそれなりに発達しているので、真っ暗な中でもある程度は周囲の事が分る。
それに今向かっているのはここ最近通い慣れた道と行ってもいい場所。
一歩また一歩とその場所へと近づいていくと、遠くからかすかに静寂の中でも聞こえてくる凛と広がる音。
――もう居るのか……。
イルナが来る前に少し考えておこうと、いつもよりも早い時間に領地を出たのだけど、それでもそんな自分よりも先に来ている事に驚く。
さく
さく
さく……。
踏み出す足に押されて倒れる草木から聞こえる音もまた、自分の鼓動を早くさせる。
ふと暗闇の中で顔を上げる。
俺の事を導くかのように瞬く一面の星空と、俺がこれから向かうべき場所を案内するように重なり合うように輝く二つの大きな満月。
それは初めてイルナに出会った時と同じように、こちら側を映しとった鏡の中の様に、風もなく静かな湖面上をユラユラと漂って見えた。
しゃん
しゃんしゃん
シャンシャラン
しゃんしゃん
近付くにつれてハッキリと聞こえるその音色は、丘の上で舞い踊る女の子――イルナ――が錫杖を手にして奏でているモノで、それもまたあの日と同じ。
「ジン……」
「イルナ……」
俺が近づいて来た事に気が付いたイルナが、毎を止め、錫杖を地に着けて俺に声を掛ける。
「今日は満月だね……」
「そうだな……」
「こっちに来て座らない?」
「おう」
イルナの隣まで進み、イルナが腰を下ろすのと一緒に俺もイルナの隣に腰を下ろした。
それからしばらくは二人とも何も話さない。イルナが顔を上げ、月を見あげると俺も同じように月を見上げた。
「知ってる?」
「ん?」
どのくらい時間が経ったのか分からないけど、月を見あげたままイルナがぼそりと言葉を発した。それに反応する俺。
「この地にはね、伝説が有るんだ」
「あぁ……ウチの長老に聞いたよ……」
「そう……で?」
「え?」
俺の顔を覗き込みながらジッと俺の目を見るイルナ。
「伝説……本当だと思う?」
「どうかな……。実際に見たことが有る人が居ないから伝説なんだろ?」
「まぁ……ね。でも……」
そういうとまたイルナは夜空へと視線を戻した。
夜空に輝く二つの満月が、気が付いたらもうすぐ重なり合おうとしていた。
「は? え?」
すると月から一条の光が舞い降りるようにイルナの姿を包み込んでいく。
その光はキラキラと輝いて、まるでイルナを光のドレスが包みこんでいるようだった。
暫くしてそして天へと吸い込まれるように月光が収まると、そこに現れたのは先ほどまで隣に居たイルナなのだけど――。
「……白銀……の……姿……」
それまでは白狼族と同じように白髪だった髪が、キラキラと輝きを強め、まるで白銀の糸の様な髪を纏ったイルナが、呆然とする俺の隣で俺に向け微笑んでいた。
「伝説はね……本当」
「え?」
「二つの月が――赤と白の月が重なり合う時、そこに白銀の姿が浮かび上がる。それが
「銀狼族……」
そういうと俺はイルナの姿をしっかりと確認した。上から下まで、もちろん尻尾の先までキラキラと輝くその毛並みを見て、イルナが言っている事がようやく理解してきた。
「この姿が見せられるのは、本当に心の通った相手だけなの」
「え?」
「もう!! にぶいなぁ!!」
そういうと俺に飛び掛かり、俺を押し倒す形になるイルナ。
そしてそのまま顔を近づけてきて、俺達は夜空に輝く二つの満月の様に、一つに重なったのだった。
二つの月が重なる時現れる白銀とは。
この地に住んでいる二つの狼族の祖先たる種族で、二つの種族がいがみ合い争いが訪れようとする時、その二つを繋ぐ役割を担うとイルナ達一族の仲では語りつがれているのだという。日常は白狼族と同じように過ごす事が多い為、その見た目も相まってそのまま白狼族として暮らしているのだとイルナは俺に教えてくれた。そして巫女に選ばれたものは、相手の目を通してその人の中身を知る力を得る事が出来るらしく、俺と初めて会ったイルナが俺の思う事を見透かしているような事を言っていた事の理由がその力に有るのだと分かった。
ただ住んでいる場所が禁足地にほど近い場所なので、白狼族の人達も自分たちの存在を知るのは長老達の様な、長く生きている一部の人しか居ないようだ。
遠い未来でもしかしたら俺達と白狼族に争いが起きるのかもしれない。いや起きようとしていたのかもしれない。
「ねぇ……」
「ん?」
俺とイルナは互いに肩を寄せ合い月を見あげるように座る。
「これからもずっと……」
「あぁ。ずっとこれから先も一緒だ」
「誓ってくれる?」
「もちろん!! この……夜空に輝く
後年――。
互いに仲の良くなかった二つの狼族は、一人の黒狼族の男と白狼族の女、二人が結ばれ、その二人の子が長になる事でより絆の強い一つの狼族となった。代々に渡り狼族の礎の一組として語られ、今もなおその仲睦まじい姿が伝えられている。
その二人を伝承するように、数年に一度二つの月が一つになる場所に、二人が一つに重なる様に像が建てられた。
それがイルナとジン、二人が出会った湖を見下ろすあの丘の上。
今でも、二人はその場所で仲良く見守り続けている。
水鏡の上 白銀の月が浮かぶ 武 頼庵(藤谷 K介) @bu-laian
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