小鳥を探して
『
『
『
それぞれの演目を余すところなく特等席で堪能した領事は、骨の奥に潜んだ青の宝石を妖艶に細めた。
「これが
カージュへ踏み入って初めて声を発した領事に、演目を終えた雛鳥たちの敏い羽耳がぴくりと反応する。明朗でよく澄んだその声に、誰もが年若い青年を思い浮かべた。
領事は一段高い貴賓席から立ち上がると、
「芸事で悪魔祓いをする民族は大陸にも多いが、君たちの歌は群を抜いて素晴らしい。前任の領事も褒め称えていたよ。カージュの文化は、リュクスが国を上げて保護するに値すると」
サヨは集団の端から領事をこっそり見つめる。そして一人一人を確実に捉える目の動きを見て、気づいた。
(まるで、誰かを探しているみたい……)
不意に鳥の骸骨がこちらを向いた。バチッと目が合って、その疑念は確信に変わる。献上を選ぶだけなら、幼鳥のため舞台に上がっていないサヨをわざわざ見る必要がないからだ。
「時に
確信を持って問いかける領事に、そばに控えていた三羽は総じて口を閉ざす。
「俺の小鳥が見当たらない。どこへ隠した?」
ここにいない雛鳥を、ここにいる誰もが知っている。特にメルヴィはそのことにずっと苛立っていた。大事な舞台に穴を空けるなんて非常識だと。自分が楽器を壊したことは棚に上げて。
「小鳥とは、まさかあの片羽のことですか?」
話題がオトへ向く。たったそれだけのことが我慢ならず、メルヴィは立ち上がった。
「あれは歌えない出来損ないです。雛鳥の役目を果たすことができない半端者のお荷物でしかありません。お連れになっても、あの醜い見た目では慰み者にもならないでしょう」
意地の悪い取り巻きが、それに同調するようにクスッと笑う。
すると領事は貴賓席から中庭へひらりと飛び降り、不遜な歌姫の元へ向かった。白骨化した
「なら君にしようか」
「は……?」
「君の歌声は確かに素晴らしかった。大陸中を、いや、世界中を探し回っても君以上の歌い手を見つけることは困難だろう。優秀な者を献上に選ぶなら、真っ先に君を連れ去るべきだ」
「なっ……!
「リュクスは長らく数多の国を支配する側にいた。君が毛嫌いする大陸人は、気が強い者を組み敷くことに何よりそそられる性分でね。そう言う意味でも、君は慰み者にぴったりだ」
「っ……!」
「だが俺は、そんなものを探しに来たんじゃない」
身のほど知らずの籠の鳥を食らうような、息もできないほどの凄みだった。圧倒されたメルヴィは血の気が引いてふらりと後退する。その弱々しい様子に、わざとらしい脅しをかけていた領事はすっかり興味を失ったようだ。
彼は歌姫に背を向けると、回廊が巡る本殿をぐるりと見渡す。そして視界の隅にネズミを捉えた。ネズミはその場で二周回り、本殿の奥へと走り去っていく。骨に隠された相貌に小さく笑みを浮かべ、その後を追った。
勝手をする領事を追いかけようと立ち上がった
「退かれよ、ツキシマ殿。クレセンティアの島主たるあなたが我々を止める道理がどこにあるのです」
「私は今朝ちゃんと報せたじゃないか。雛鳥を全員集めるように、と。それを無視した挙句、先の歌姫の暴言。あの領事が国に戻って事をおおげさに吹聴したらどうなる? 桟橋に停まっているような黒船が何隻も押し寄せて来るぞ」
「…………」
押し黙った
「それに、あの領事は私ごときでは止められないほど愚かな男でね。今は諦めて
腹の中が読めない島主と、何も知らない雛鳥に挟まれた
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