夜、来たる
夜の
雅な舞台装束の隙間を縫いながら、サヨはオトを探した。部屋で別れて以来、姿を見ていない。てっきりリラを修理するのに集落の工房へ行ったと思っていたが、職人たちは来ていないと言うし。
(もうすぐ領事様が来てしまうのに……。オト姉様、どこにいるの……!?)
女性用の
船の明かりが鳥居の外に見えたと見張り役が言っていた。間もなく回廊を抜けて領事が姿を現すだろう。そして
「サヨ! オトは見つかったか!?」
血相を変えたアタラに呼び止められ、俯いていた顔を上げた。
彼もまた舞台に立つため、普段とは違う上質な絹の装束を着ていた。光沢のある花鳥の丸紋が白の生地に薄っすらと浮かび上がっている。
オトの身を案じながらも、演目を疎かにはできない。自我と立場に板挟みになった苦悶の表情を浮かべるアタラに、サヨは力なく首を振った。
「いえ、集落にも来ていないって……」
「そんな……」
「も、もう一度探してきます!」
再びカージュの中を探しに行こうとした羽耳を、鐘楼の音が揺さぶった。ついにその時が来てしまったのだ。
天寿を全うした先代から島主を引き継いでまだ二年。年齢は三十歳になったばかり。整髪料を付けていない散切りの黒髪が夜風に揺れた。
島の掟に厳しかった先代と違い、彼は新時代に寛容と聞く。垂れた目元は柔和に見えるが、人の良さそうな笑みも含めて腹の底を探らせない壁を感じる。
そしてついに、その人が姿を現した。
「何よ、あれ……」
一人が胡乱気な小声を上げた。
それもそのはず。夜に溶けてしまいそうなインバネスコートの裾から視線を上げると、顔の上半分を
面妖なその男こそ、リュクスの新しい領事だった。
「カージュに
そんな憤りがどこからともなく飛び交う。
骨の奥で影になった
演目を正面で見られるよう用意した貴賓席に二人が腰を下ろした。
朝の
「夜のほどろはかく遠く」
昼の
「日盛り焦がれて鳥は鳴き」
夜の
「夜のことごと歌うたう」
――夜明けは遠いが、真昼を求めて一晩歌い明かそう。
カンッ! と
「「「さあさ歌え、
献上選定の幕が今、上がった。
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