夢喰採り
「夢や
つつ闇の
照明が当たらない末席で
重なり合う音楽に合わせて、華美な羽耳を持つ麗しい
その中心で圧巻の
彼女が歌を捧げていたのは、寝台に群がる黒い蝶。暗闇が「こいこい」と手招くように、大ぶりな
人間を悪夢に閉じ込めて生命力を吸う
「
玄関先の土間に設けられた客席では、母親と二人の幼子が
選ばれし乙女の主旋律に合わせて、周りの奏者もそれぞれの楽器を奏でながら喉の鳴管を鳴らした。
伴奏を奏でていたオトも、意を決して息を吸い込んだのだけれど――。
――
――鳴け、命尽きるまで。
「――ッ!」
途端におぞましい記憶が蘇り、指を
洗練された演奏の中では、ほんのわずかな雑音も耳障りになる。
これ以上余計な音を立てないように、歌うことを諦めて口を
そうしているうちに
「
恋しや
美しい高音域をどこまでも伸ばして、伸ばして、伸ばして。
その歌声に吸い寄せられた蝶たちが、寝台から一斉に飛び立つ。袖に控えていた
ババババババッ!
鳥の羽音と聞き間違えそうなほどの轟音を立て、
「うぅ……」
幕が下りた舞台に低い呻き声が響く。
「セレニティ様の
鳴き笑う家族の様子に、オトは胸に手を当て、ほっと撫で下ろす。
だが不意に、喉を裂く
視線の元はわかっている。取り巻きの
「オトさん」
「はい……」
蚊の鳴くような返事だった。
オトはいつもそう。自信がこれっぽっちもなくて、惨めで。消えてしまいたいと思っても実行する勇気がない臆病者。その弱々しい態度が火を煽る風となり、自身に降りかかる火の粉を大きくする。
「カージュに戻ったら、わかっているわね?」
「は、い……」
これからの仕打ちを思い浮かべ、噛み締めすぎた下唇からじわりと鉄の味が広がる。
右の側頭から生えた焦げ茶色の羽耳はすっかり委縮し、しゅんと折り畳まった。
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