娘をギリギリまで空腹にすることで食費を浮かすというライフハックはみんなも試してみて欲しい。意外と攻めれる。
浅賀ソルト
娘をギリギリまで空腹にすることで食費を浮かせるライフハック
娘がリビングでじっと丸くなっている。あてつけのようでいまいましい。
「そんなことをしてもご飯は食べさせないよ。人を苛つかせることだけはうまいんだから」
娘はじっと丸くなっている。
私は聞こえるように独り言を言った。「いじきたなくなってしまって本当に気分が悪い。素直さがどんどん消えてしまった。あー、やだやだ」
娘はじっと丸くなっていた。聞いているのは雰囲気で分かる。
「よしと言うまで食べるんじゃないよ」
私は一人分の弁当をしっかりとレンジで温めてから食べ、娘が容器を舐めたりしないように水道で洗ってからゴミ箱に入れた。目撃したことはないが、割り箸を舐めているかもしれないと感じたことがあり、それ以来、割り箸も洗うようにしている。
「割り箸も洗わないとね」私はまた聞こえるように独り言を言った。「こんなものを見てないところでしゃぶられたらたまらない」
食後にスマホを見ていると、娘が何も言わずにむくりと起き上がって廊下に出た。視界の隅で追っていると、トイレにふらふらと入っていった。
「気持ち悪いな。ほんと」私はまた聞こえるように言った。
スマホをいじっていると娘がトイレから戻ってきた。水を飲んできたようで服が濡れている。
「トイレで水を飲むのも禁止ねー」
昔は言われるとこっちを見たのだけど、だんだん見ることもしなくなった。
「返事は?」
「はい」
「よしよし」
「で? 給食はちゃんと残してきたの?」
「はい」
残念。こういうことはすぐに分かるのだ。「嘘つくんじゃないよ!」
娘はびくっとして体を固くした。
「食べたんだろ?」
「食べてません」
絶対に食べたのだけど、最近の娘は嘘をつくようになった。聞き返すと食べたと認めていたけど、そのうち認めるまでの時間が伸びていき、そのうち、何をどうしても認めなくなった。絶対に食べているのに、何回聞いても認めないので問い詰めるのも馬鹿馬鹿しくなった。
「嘘をつくんじゃない!」私は娘を叩いた。
最近は呻き声も上げなくなった。口を閉じてじっとじっとじっとしている。本当にイライラする。口の中を切ったらしく、口から血が出ていた。
「食べないでいれば、そのうちタダで病院で食わせてもらえるんだから。あんただってそれくらい分かっているだろう」
娘はじっとしていた。また床に丸くなった。
娘にもスマホを与えているのだが、私との連絡用なのでゲームなどは全部禁止している。
やがて、はあはあと娘の息が荒くなった。
「どうした? 気分が悪いのか?」
私は期待をこめて近づき、その様子を見た。何回も見てきた、低血糖による痙攣だ。今日はちゃんと給食を食べなかったみたいだ。
「よしよし」私は119番をコールした。
「はい。どうしました?」
「娘が、白い顔をして痙攣しています」
「娘さんですね。娘さんはおいくつですか?」
「9歳です」
「9歳ですね」
そんなやりとりがしばらく続いた。初めてじゃないので「いつもの奴です」で済ませたいのだが、そういうわけにもいかないみたいだ。
まったく、行政にもイライラさせられる。
呼んだらすぐに来て欲しい。もう状況は分かるだろうに。
娘をギリギリまで空腹にすることで食費を浮かすというライフハックはみんなも試してみて欲しい。意外と攻めれる。 浅賀ソルト @asaga-salt
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