鬼ごっこ

in鬱

鬼ごっこ

 「知ってる?この学校には鬼が出るんだってー」


 「へぇー」


 「それで鬼は下校時刻が過ぎても学校に残ってる生徒を食べちゃうんだって」


 「ふぅーん」


 「ちょっとは興味があるような反応してよ!!」


 「私、舞と違ってそういうの興味無いし」


 授業の昼休み、私の友人である舞が怪談話をしてきた

 舞は都市伝説・オカルトなどの話が好物で休み時間はこうして私によく話してくる

 でも、私はそういうのを信じてもないし、興味が無いので適当に聞き飛ばしている

 この学校に鬼なんか出るわけないじゃん。それに完全下校時刻を過ぎたあとは門が全て閉まって学校入れないようになってるし

 


 「この学校のことだよ!?」


 「興味無いし、その話嘘じゃん」


 「嘘じゃないよ!ネットで噂になってるよ。この学校は出るって」


 「怪しいサイトでの話でしょ。出るんだったらゴーグルの口コミに書かれてるよ」


 「とにかく出るの!!」


 舞は私に論破されてムキになった

 スマホで信憑性が怪しいサイトを開きこの学校は出るという記事を見せてくる

 いかにもなサイト。絶対嘘じゃん

 出るんだったらもっとちゃんとしたところで言われるよ



 「出ないって。夢中になるのも程々にしておきなよ。テストやばかったんでしょ?」


 「うっ……まぁまぁといったところですよ」


 「赤点もらってたね。3つ」

 

 「言わんで良い!具体的な数を出すな!」


 舞は今回のテストで家族会議が開かれるほど出来が悪かった

 赤点3つってどうやったら取るんだろう。逆に教えてほしい

 まぁまぁで済む出来じゃないけどね

 


 「今日補講でしょ?頑張れ〜」


 「うぅ……もっとさおりんに話したいことあったのに今日一緒に帰れなくなっちゃたよー」


 「いつも一緒に帰ってるじゃん」


 「寂しいよぉー」


 舞は寂しさを爆発させて私に抱きついてきた

 幼稚園生か。感情がありのままに出過ぎてるよ

 私も一緒に帰りたいけど舞の補講が終わるのを待ってたら何時間かかることか

 


 「今日、補講頑張って明日一緒に帰ろうよ」


 「明日の朝から一緒だよ」


 舞は私の胸の中で頬をプクッとフグのようにふくらませた

 全く駄々っ子だなぁ。朝はお互い起きる時間が違うため別々に登校している

 舞の頑張ったご褒美として付き合ってあげよう



 「わかったよ」


 「やったね。私頑張っちゃおう!!」


 「そろそろ離れてくれない?暑苦しいんだけど」


 「あっ!ごめんごめん!」


 舞は一ミリも誤って無さそうな表情を浮かべ私から離れる

 内心ではちゃんと誤っている、これは長い付き合いで分かったこと



 「もう5時間目始まるよ」


 「もう!?ヤバい!準備してない!」


 「早く席戻んなよ」


 「でも、他のみんな席座ってないよ」


 クラスを見渡してみると誰も席に座っていなかった

 みんな揃って遅刻かな?珍しいこともあるもんだなぁ

 と思いながら次の授業の準備をする

 日程表を見た時表情を失った



 「次、化学だ……」


 「そういえば化学って実験するんじゃなかったけ?」


 舞は何かに気づいたような顔を浮かべた

 私と舞は今同じことを思っている

 


 「「間に合わない(じゃん)!!」」


 「早く準備していかないと!」


 「準備って舞の席あっちじゃん!」


 私たちはてんやわんやで化学の準備をして急いで化学室に向かった

 早歩きで移動してる最中にチャイムが鳴り、私たちの歩くペースを早めた

 最終的にはダッシュに変わり、チャイムが鳴り終わって数秒後化学室に到着した

 私たちはゼェゼェと肩で息をする

 クラスメートが懐疑的な視線を向けてくる。視線が痛い



 「どうした?」


 「ハァハァ……お、遅れ…ました……」


 「お、おぉ。そうか。とりあえず席につこうか」


 「「はい……」」


 私は席につき持っているハンカチをうちわのようにして風を起こす

 今は夏でどの教室も冷房がついてるため化学室も涼しい。仰ぐ風が涼しい

 化学の先生は私たちの遅刻を咎めることなく授業に入った

 良かったぁ。怒られなくて



 ――――――



 「危なかったねー」

 

 「危ないじゃなくてアウトだけどね」


 授業が終わり舞が一直線に私の座ってる席に向かってくる

 怒られなかっただけで遅刻は遅刻だからね



 「次の授業は教室だから早く戻るよ」


 「はーい」


 ついつい話し込んで遅刻するなんて今回で最後にしたい

 次の授業は教室。早く戻って準備しないと

 舞の手元には化学の荷物がまとめられており、戻る準備をして私のもとに急行してきたみたい

 学習はしてるのね



 「廊下暑いよー」


 「私に抱きついてたら余計だよ」

 

 舞が教室に戻る最中、私に抱きついてくる

 ただでさえ暑いのに人の体温まで加わったら暑すぎるって

 私はなんとか舞を力づくで剥がそうとするが、舞の必死の抵抗が思ったより強く引き剥がせなかった

 行動が発言と矛盾してる……



 「早く教室戻んないとまた遅刻するよ」


 「分かってるけど暑すぎて溶けちゃう……」


 「置いてくよ?」


 「さおりん、それだけは!」


 「はぁ……ほら、シャキとして。行くよ」


 私は抱きついていた舞を剥がし、舞の手を握って教室まで引いていった

 子どもの世話をしてる気分だ。子どもにしてはだいぶ大きいけど

 


 「ふぅー涼しいー」


 「自分で歩いてよ……疲れる」


 教室に戻ってくると舞が水を得た魚のように元気になった

 私は舞と真逆で女子高生を運ぶのに労力を使い果たした

 涼しい風が唯一の救い



 「さおりん。ありがとー」


 「もう二度とごめん……」


 私はクタクタになりながら自分の席に着いた

 次の授業は古文。私は机の上に古文の教材を出して授業のチャイムを待った

 先生が入ってきたと同時にチャイムが鳴った



 「挨拶お願いします」


 「起立、礼」


 「「お願いします」」


 最後の授業、古文は寝ちゃう

 寝ないように頑張っているけどお昼が終わって化学の後の古文は寝ちゃう

 今日もどこかで寝ちゃうだろうなと思いながら先生の話を聞いていた

 


 「今日はここまで。今日言った課題、明日の授業で提出してください。じゃあ挨拶お願いします」


 「起立、礼」


 「「ありがとうございました」」


 授業の終わりを告げるチャイムで目が覚めた

 気づけば机に突っ伏して寝てしまっていた

 やっちゃった……課題とか先生言ってたな。舞に聞いてみよう



 「舞、課題って何?」


 「さおりん聞いてなかったの?」


 「寝ちゃった……」


 「ふふ、おっちょこちょいだね」


 「舞にだけは言われたくないよ」

 

 「課題っていうのは教科書のこのページの問題を解いてくるってだけだよ」


 「それだけ?良かったぁ。そんな大変じゃないね」


 舞が古文の教科書を開いてページを見せてくれる

 見せてくれたページには問題が書かれており、このページの問題を終わらせればいいんだ

 ならそこまで大変じゃない。量はそこそこあるけど内容はそこまで難しくは無さそうだし



 「さおりんはそうだろうね。私は補講があるから帰ってきてからなんて無理だよぉぉぉー」


 「それは自業自得じゃん。テスト頑張ればこんなことにならなかったのに」


 「うぅ……耳が痛い。さおりん、私が帰ったら答え教えて!!」


 「えぇー自分で頑張りなよ」


 「教えてくれたらライブ代奢るから!!お願い!!」


 「言ったね……??」


 私は舞の言葉に目を光らせた

 私たちは今週の週末に行われるアイドルグループのライブに行く予定である

 そのチケット代を割り勘にしようと言ったが、答えを教えるだけで奢ってくれるなら喜んで教えよう



 「あ、嘘、嘘!!ジュース買ってあげる!これでどう?」


 「えーなら教えてあげなーい。自分で頑張りなよ」


 「さおりんのケチ!!鬼畜!!」


 「そんな言わなくたっていいでしょ?」


 「さおりんがやろうとしてることは鬼畜の所業だよ」


 「もう、仕方ないなぁ。変なこと言いふらされるのも嫌だし、連絡くれたら教えてあげるから」


 「やったー!さすがはさおりん。分かってらっしゃる」

 

 舞は子どものようにはしゃいで喜んだ。そして、私に抱きついてくる

 こんな風に私が舞を甘やかすから舞が今回のテストで赤点3つ取ったのかなとも思っている

 自分の実力で問題解いてないもんね。たまには心を鬼にして接したほうがいいだろうけど

 舞にそんなこと出来ない。高校入って最初に出来た友人で唯一の親友だから

 


 「ねぇねぇ。怖い話好き?」


 「うーん……興味無いかも」


 「この話聞いたら絶対好きになるから」


 「えー?絶対無いよ。嘘だぁ」


 高校1年生の入学してから1ヶ月ほどたったある日、花本舞が私に話しかけてきた

 私は1ヶ月間誰とも話していなかったから突然話しかけられたことに驚いた

 舞はそんな私に目もくれず怖い話をし始めた

 正直、どんな話だったかは覚えてない。怖かったのかも分からない

 女子校に入って女子校の雰囲気に乗り遅れていた私に初めて手を差し伸べてくれたのが舞だった

 そんな舞の明るさに助けられ、今では多くは無いけど友達もいて親友と呼べるもいる

 入って1ヶ月で校風が合わず転校しようかと考えていた私を変えてくれた人だ

 そんな人に強く言うなんて出来ない。関係が壊れてしまうかもって恐れちゃうから



 「コラ!遠藤、いつまで立ってるんだ!HR始まるぞ!」


 「はーい。ごめんなさーい」


 私が思い出に耽っていると担任である鬼束が立っている私に大声で怒鳴ってきた

 私は我に帰って誠意の無い謝罪をしてスタスタと自分の席に戻る

 私は鬼束が嫌いだ。高校2年のクラス替えで舞と一緒になれたのは嬉しかったけど鬼束が担任のせいでその喜びが半減した

 鬼束は私にだけ当たりが強い。他のみんなには優しく接するのに私にだけはなぜかいつも怒鳴ってくる

 鬼束は去年、私のクラスの数学担当だった。いつも指してきたり、前に出て黒板に答えを書くのもいつも私だった

 前に出て黒板に答えを書いている時に感じる鬼束の視線がキモかった。私の体全体を見るように立ち位置をちょくちょく変えていた

 思い出すだけで吐き気がする

 舞に相談してみたのだが、舞は鬼束に優しくされているため「気のせいだよ」と笑い飛ばされた

 家族に相談してみても「気のせい」だと言われてしまった。鬼束の評判が悪いのは私だけで他のみんなは口を揃えてかっこいい良い先生だと言う。鬼束の容貌は好青年といった感じで全校生徒から評価が高い。顔のせいでみんな盲目的になっていると思っている

 それは親からもで、保護者も鬼束先生は生徒のことを第一に考えていると評判になっている

 誰も本気で受け止めてくれない。それが怖かった。1人でどうにかしないといけないのかと思うと不安で胸がいっぱいになる



 「今日はこの後化学の補講があるので対象者は化学室に行ってください。で、いつも言ってるけど完全下校時刻は守る。部活とか勉強に夢中になるのは分かるけど、ルールは守らないといけないのでね。じゃあ今日も一日お疲れ様でした。挨拶お願いします」

 

 「起立、礼」

 

 「「ありがとうございました」」


 HRが終わり鬼束は早々に教室を出た

 クラスのみんなは仲のいい人と駄弁っている

 私は帰る準備をして席を立って舞の席に向かう

 私は部活に入っていない。帰宅部なので家に帰れる

 


 「じゃあね。補講頑張って」


 「うん。じゃあね」


 私は舞に手を振って教室を出た

 生徒玄関に向かい、靴を取り出す

 夕日を受けてオレンジ色に染まった生徒玄関を出て校門に向かう

 校門には生徒たちが数人残っていた。誰かを待っているんだろう

 私は立ち止まることなく校門を抜け、家に向かった

 学校から家までは歩いて20分程。自転車でも良いのだがあえて歩くことにしている

 


 「例えば……」


 私は鞄からワイヤレスイヤホンを取り出し両耳につける

 行き道と帰り道で音楽を聞きながら登下校するのが日課だ

 スマホをポケットから取り出し、音楽を再生する

 音楽を聞きながら帰路についていると20分なんてあっという間

 夕日を受けながら曲を軽く口ずさみ帰宅する



 「ただいまぁ」


 「ワンワン!!」


 家につき扉を開ける。私の声と犬の声が家の中に響いた

 家の中には愛犬のユキしかいない。母と父は仕事、兄は一人暮らしで実家にはいない

 ユキが一直線に私の元に向かってくる。しっぽをブンブン振って私にしがみついてくる

 ユキの犬種は柴犬で体は白い体毛に包まれている。ポンタと由来は生後3ヶ月で我が家にやってきた。その姿が雪玉にしか見えなかったのでユキと名付けられた

 ユキを撫でるとユキは嬉しそうにしっぽを振り、ゴロンとお腹を見せる

 ユキが長年の癒やしだ。疲れたことがあったらユキと触れ合って嫌なことを忘れる



 「ただいま。ユキ。あとでいっぱい触ってあげるからちょっとまって」

 

 私はユキとの触れ合いを一旦中断して自分の部屋に向かった

 ユキは撫でてもらえないと分かるとシュンとして尻尾をさげ、ベッドに戻った

 私は自分の部屋で鞄から荷物を取り出し、明日の荷物をまとめる

 まとめてやらないと準備を忘れてしまう

 準備を終わらせ、次に洗濯物を取り入れる。ベランダにかかっている衣類を全部取り入れある程度畳んでおく

 そして、次に食器を棚に戻す。キッチンへ向かい食器カゴに置かれている大量の食器を棚に戻す

 濡れていたらタオルで拭き取る

 こうして家事を終わらせてからのんびり出来る

 仕事の関係で両親が帰ってくるのは遅い。だから、ある程度の家事を終わらせておけば親の負担が減る

 少しは家庭に貢献するためにやっている。やってみれば分かるが意外と時間がかかる

 帰ってきたのが4時くらいだったのに時計はもう4時30分過ぎを指している



 「ユキ。待たせてごめんね」

 

 私は家事を終えユキに抱きつく

 ユキのもふもふの毛が抱きついた私を逆に包み込んでくれる

 癒やされるーもうちょっとだけこうしていたい

 自然と瞼が落ちてくる。そういえば課題あったけ?

 起きてからでいいや



 「Zzz……」


 「ワン(寝やがった……)」


 ユキは覆いかぶさるようにして寝ている沙織さおりに困った表情をしたが、どかすのは無理だと悟り諦めて眠りについた



 ――――――



 「うーん……今、何時…?」

 

 私が目を覚まし、時計を見ると6時30分過ぎを指していた

 ヤバッ!!結構寝てた。もうそろ舞帰ってきちゃう

 うちの学校の完全下校時刻は6時30分。現在の時刻は6時30分を過ぎている

 これでは舞が連絡してくる時間に間に合わない

 私は急いで自分の部屋に向かった



 「あれ……?古文の教科書がない!」


 自分の部屋に戻り勉強机に並べられた教科書類を見ても、鞄の中を見ても古文の教科書が無いのだ

 部屋の隅々を探したが見当たらなかった。学校に忘れてしまったのだろう

 マズイ……これじゃあ舞に答えを教えるどころか課題が出来ない

 どうしよう……学校に取りに帰るか、舞に頑張ってやってもらって明日写させてもらうか

 舞は結構課題をほったらかしにする癖がある。多分今日は疲れたといって明日学校でやるだろう。私が答えを教えたとしても

 なら、一択だ。取りに行くしか無い。完全下校時刻は過ぎてるけど、話をすれば入れてもらえるはず

 私は何も入れていない鞄を持って自転車にまたがる

 全速力で自転車を漕ぎ学校に向かった



 ブーブー

 

 「ん?舞からメールだ。『たふせて』?」


 私が自転車を漕いでいるとスマホの通知音が突如鳴った

 私はブレーキを踏んでメールを確認する。送り主は舞。内容は「たふせて」とだけ書かれていた

 意味が分からない。意味深なメールを送るような子じゃないけど……

 そういえば、舞とすれ違ってない。私が家を出たのはおそらく6時40分。補講が大体6時20分くらいまでって舞が言ってたから、補講が終わって学校を出るまでに10分くらいかかるとして6時30分には舞は学校を出ているはず

 なのに、舞とすれ違ってない。舞の家は学校から30分ほどで着く。帰り道は私と一緒。私の家のちょっと奥に舞の家がある

 だから、本来ならすれ違うはずなのに……なんでだろう

 そういえば舞、昼休みの時学校にが出るって言ってた。嘘だと思ってたけどもしかして……

 「たふせて」という謎のメッセージ。それに鬼が出るという舞の嘘か本当か分からない話

 ちょっとゾワッとした。鳥肌が立っているのを感じる

 メッセージがいたずらってこともあるけど舞の性格からはこんなメッセージを送ってくるのは考えられない

 でも、話は嘘だよね。舞のオカルト話が本当なわけ無いもん。きっとこのメッセージも間違えて送っちゃったんだ

 私はだと思い込み、自転車を再び漕ぎ始める



 「あれ?門が空いてる」


 私がしばらく自転車を漕ぐと学校に着いた。自転車だと歩きより断然早い

 なぜか学校の門が空いていた。完全下校時刻を過ぎたら閉まってるはずなのに

 補講で残ってる生徒がまだ居るのかなと思い、そこまで気にすることはなかった

 私は門をくぐり、生徒玄関に向かう



 「閉まってる……職員玄関じゃないとダメみたい」


 生徒玄関の扉は全部閉まっており中からでないと開けられないようになっていた

 生徒玄関から入れないなら職員玄関から入るしか無い

 私は校舎をぐるっと回って職員玄関に向かった



 「失礼します……」


 職員玄関前に着き、恐る恐る扉を開ける

 扉はキィーと甲高い音を立てて開いた。廊下は暗い、電気が消されている

 職員玄関の周りに先生たちの車が数台残ってたから先生がまだ残ってる

 事情を話せば忘れ物を取りに行かせてくれるはず。教室には鍵が掛かってるので入れない

 私は靴を脱ぎ靴下で職員室に向かった



 「すいません……2年1組の遠藤といいますが……あれ?誰もいない」


 職員室に着き扉をノックして用件を言おうとしたのだが、職員室には誰もいない

 校舎の見回りに行ってるのかなと勝手に考えてしまった

 誰もいないのに勝手に入っていいのかな?怒られると思うんだけど……

 でも、前で先生が来るのを待ってたら時間かかるし

 事情をちゃんと話せばいいか。忘れ物を取りに来たって言えば先生も分かってくれるよね

 私は勝手に職員室に入って2−1の教室の鍵を探した



 「あ、あった。じゃあ教室に……えっ、なにこれ……?」


 しばらくすると鍵を見つけた

 担任の鬼束の机にかかっていた

 教室に向かおうとした時、鬼束の机においてあるものに目を疑った

 机の上にはクラスメートの写真が乱雑に置かれている。生徒が元気にピースをしているようなクラス写真ではない

 全部盗撮だ。ある写真は女子更衣室を盗撮したもの、体育の授業でストレッチしているところを撮ったもの

 それらの写真全部が胸や下半身にアップしていた

 そして、一番上に置かれているのが私の写真と舞の写真。どちらの写真も顔がアップだった

 背筋が凍った。こんな写真がいっぱい……

 私が鬼束から感じていた視線は気のせいなんかじゃない

 ここから逃げなきゃと本能が言っている。でも、教科書を取りに行かないと

 


 ブーブー


 「舞から?『たすけて』嘘でしょ?」


 不意にスマホが鳴ったので驚いてしまった

 スマホを確認すると送り主は舞。内容は「たすけて」のみ

 鳥肌が止まらない。気のせいか寒くなってきた

 さっきのメッセージは「たすけて」と打とうとして間違えたんだ

 舞はおそらく鬼束に目を付けられてる。補講で遅くまで残ってるのをいいことに

 私も学校に残っていれば鬼束にどんなことをされるか分からない

 逃げるのが最善。でも、親友を見捨てるなんて出来ない

 舞、待ってて!!助けに行く!

 私は「助ける」と舞に送って明かりもついていない校舎を走った



 「舞、どこにいるの?」


 しばらく校舎を走ったが人影は見当たらない

 校舎内にいるのは鬼束と出会うリスクも高まる

 鬼束と出会ってしまったら全速力で逃げる



 「教科書みっけ」


 私は舞を探すついでに教室に入り、教科書を鞄に詰める

 教室なら舞と会うかもしれない

 電話をかけてみたけれど余裕がないのかすぐに切られる

 メッセージを送っても既読が中々つかない

 最悪なパターンが私の頭に浮かんだが、それは考えたくない。2人でこの学校を脱出する

 鬼束の悪事を暴くために机に置いてあった盗撮写真を一枚鞄に忍ばせておいた

 これ証拠さえあれば鬼束は捕まるはず


 

 「なにこれ?……カメラ?これで撮ってたの?」


 私がふと教室の後ろに目を向けるとちょうど私の席の後ろに掲示物に紛れて小型カメラのようなものが設置されていた

 この画角って私しか映らないじゃん。しかも立った時スカートの中が見える画角だ。今まで気づかなかった

 掲示物なんて眼中に無かった。こんなところに仕込んでたなんて……絶対他のところにもある。そうやって盗撮してたんだ

 気持ち悪い……ずっと見られてたんだ。怖い……裏でこんなことやってるなんて

 

 

 ガタン!!


 「舞!!大丈夫!!」


 「ざおりんー!!」


 突然教室の扉が開き、舞が雪崩のように入ってきて私に抱きついてくる

 私も舞を抱き返した。私を見ると涙をボロボロと流して顔をくしゃくしゃにしている

 怖かったね。もう大丈夫。1人じゃない



 「頑張ったね」


 「こわかったー!!」


 舞は泣き止むことなく涙を流し続ける

 私は抱きしめて慰めの言葉を言うしか無かった



 「何があったの?」


 「補講が終わって帰ろうと思ったら扉が開かなくて……」


 

 ――――――



 「今日の補講は終わり。お疲れ様」


 補講が終わり化学の馬頭めず先生が労いの言葉をかけてくれる。馬頭先生は鬼束先生程ではないが生徒からの評判が良い。化学の先生が馬頭先生で優しい良かったぁ。他の先生だったら絶対補講もっと大変だった

 は今回の化学のテストで赤点を取ってしまったため補講を受けることになった

 長かった補講が終わり、やっと家に帰れると安堵した

 帰宅の準備を整えていると、化学室の扉付近で数人が話していた

 今回の補講は私だけでなく何人か受けていた

 何かあったのかな?なんか面倒くさそうな顔してるけど



 「先生ー扉が開かないんですけど」


 「あぁ。ちょっとまって」


 馬頭先生はそう言うと教壇を降りた

 来る前は開いていたけど、誰かが間違って閉めちゃったのかな?

 もう6時20分だし。完全下校時刻まであと10分だ

 閉めに来るのも当然だ



 「え!先生!電気消えた!」


 「なになに!?」


 突如化学室の電気が消え、私を含めた生徒は混乱した

 なんで消えたの!?電気が無いとどこに扉があるかわからないよ



 「えっ?先生?」

 

 「暴れるな」


 「イヤァァ……」


 「何が起きてるの!?」


 真っ暗な室内に生徒の悲鳴と男の低い声が響き渡った

 だが、悲鳴が急に聞こえなくなり静かになる。低い声も聞こえなくなった

 でも、微かにまだ女子の声が聞こえる。あの低い声、聞き覚えしか無い。馬頭先生の声だ

 先生が何をしてるの?私は恐怖で体が震える。とにかくここから逃げないと!

 でも、どうやって?化学室の裏側には準備室があったはず

 そこから出れる!



 「おい!抵抗するな!ひどい目にあいたいのか?」

 

 私が暗闇の中、物音に気をつけて進み準備室の前まで来れた

 室内には悲鳴はもう無く、馬頭先生の低い怒鳴るような声と生徒のくぐもった声。おそらく生徒は口を塞がれ、体も縛られて身動きが取れなくなっている

 他の生徒には悪いけど今のうちに準備室から抜けて出て行く



 「1人で逃げる気?」

 

 「うわ!びっくりさせないでよ」


 私が準備室の扉を慎重に開け、中に入ると知らない生徒が一緒に入ってきた

 びっくりした……大きい声が出て見つかったらどうするのよ!!



 「今のうちなら逃げられるわ」


 「外に出て助けを呼びましょう」


 私たちは準備室の廊下に繋がる扉を開け廊下に出る

 廊下の電気は消えていて暗い。でも、さっきから暗室ばかりだから暗闇には目が慣れた

 早く学校の外に出て警察を呼ばないと!捕まった子たちがひどい目に合っちゃう!



 「どうした?お前たち」


 「鬼束先生!化学室で生徒が!」


 「化学室で何があったんだ!?」


 「馬頭先生が生徒を監禁してるんです!私たちは出てこれたんですけど、まだ中には生徒が残ってて」


 私たちが廊下を早歩きで進んでいると前から鬼束先生が現れた

 鬼束先生は私たちの焦った表情を見て何かを察したみたい

 鬼束先生なら安心できる。これでとりあえず大丈夫だ



 「とりあえずお前たちを職員室に連れて行く」


 「どうしてですか?化学室には生徒が取り残されてるんですよ!」


 「まず無事な生徒の安全を確保してから取り残された生徒のところに行く」

 

 「あなた、鬼束先生の言う事に反抗するの?鬼束先生が言うんだから大丈夫よ」


 違和感を感じた。鬼束先生は生徒のことを第一に考える先生

 なら、今この状況で私たちよりも危険にさらされている生徒の方へ向かうはず

 なのに比較的安全な私たちを職員室に連れて行くって見殺しにするようなものじゃない

 化学室から職員室までは距離がある。そこを往復していたら取り残された生徒が手遅れになるかもしれない

 走って間に合うような距離じゃない。鬼束先生の言っていることは何かおかしい気がする



 「絶対に間に合わないですよ!今すぐ化学室に行かないと!」

 

 「あなたギャーギャーうるさいわね。鬼束先生の言う事を聞いておけばいいのよ」


 「先生に任せろ」


 鬼束先生が自信満々に笑って言うが、その笑顔が怖かった

 いつもの鬼束先生の笑顔じゃない。下衆な笑みだった

 私は怖くなってその場から逃げ出した

 2人の制止する声が聞こえたが無視した



 「馬鹿なんじゃないの?」


 「全くだ。オマエみたいにな」


 「え?」


 「イヤァァァァー!!!!」


 私の背中で悲鳴が聞こえた

 おそらくさっきの女子生徒の声だろう

 私の感は間違ってなかった

 あそこで言う通りにしていたら私も同じ目に遭っていた

 私は恐怖から震えが止まらなかったが堪えて走り続けた



 ――――――



 「よく頑張った」


 「あえてよかったぁ」


 舞は何があったのかを話し終えるとまた涙を滝のように流し始める

 今の舞に鬼束の話をするのはやめておこう。恐怖で動けなくなっちゃう

 あの写真を見たのが私で良かった。舞が見てたら信じられなくて鬼束本人に聞きに行ってたかもしれない

 下衆ね。話しを聞く限り、馬頭と鬼束はグルね

 2人の男に気をつけながら学校から脱出しないといけない



 「舞。あとは逃げるだけよ」


 「でも、それじゃ取り残された子たちが……」


 「私たちだけでも助からないとその子たちも救えない。私たちまで捕まったらおしまいよ」


 「うん……」


 捕まってしまった生徒たちを見放すのは嫌だけど、私たちまで捕まってしまったら誰も救えない

 私は舞を奮い立たせて、手を固く繋ぐ



 「見ぃつけた」


 「ひっ……」


 「大丈夫。怖がらないで。こんなやつにビビったらダメ」


 私たちが教室から出ようと一歩を踏み出した時、鬼束が気色の悪い笑みを浮かべながら教室に入ってきた

 気持ち悪い……下衆

 舞が恐怖で顔を引きつらせてる。体も言う事を聞かないかもしれない。私が手を引いていこう

 ここからどう逃げるか……鬼束がいるのが私たちからみて左側の扉付近。私たちがいるのが教室の右隅にある私の机

 私から近いのは右側の扉。直線で行けば扉から出れそうだけど、鬼束は私たちに直線で向かってくるのでは無く私たちが出ようとしている扉の方に向かっている。私たちも呼応するように教室の左上の隅に移動する

 教室で挟む気?ずっとここにいると馬頭も来るわね。早いところ逃げ出してしまいたい

 


 「抵抗はやめて大人しくしなよ。悪いことはしないからさ」


 「嘘でしょ。私知ってる。あなたがどんなことしてるか」


 「お前!?それ!いつ取った!?」


 私が鞄から盗撮写真を見せると鬼束はわかりやすく動揺した

 こんなの撮っておいて私たちに何もしないだなんて嘘もいいところ

 


 「こんなのを撮ってる人が悪いことしない?馬鹿じゃないの?」


 「ふざけやがって!!今すぐそれを返せ!!」


 「嫌よ。これは警察に突き出す」


 「返さないなら力づくで取るまでだ!!」


 鬼束は態度を豹変させ怒りを露わにする

 そして怒りをぶつけるように私たちめがけて突進してきた

 私は鬼束を避けて舞の手を引いて教室の扉に向かう



 「舞!!走れる?」


 「う、うん。大丈夫」


 舞の言葉を信じて私は舞の手を離した

 私たちは全速力で校舎をかける

 職員玄関なら開いてるはず。急いで職員玄関に向かう

 後ろから鬼束がドタドタと足音を立てて追ってきている

 鬼に追われる気分。まるで鬼ごっこだわ

 捕まったらどうなるか分からない。捕まったらと考えると恐怖で体が震える



 「待て!!」


 「追いつかれちゃう!」


 「これでもくらえ!」


 「ウワァ!!」


 「今のうちに!!」


 私は鞄に入れた古文の教科書を手に持ち、鬼束めがけて投げる

 教科書は鬼束の目に当たった。鬼束は教科書が直撃した部分を手で押さえてしゃがみ込む

 今なら鬼束を撒ける!



 「舞!!行くよ!!」


 「うん!!」


 私たちは無我夢中で走った。職員玄関まであと少し

 もうじきこの地獄が終わる



 「開かない……嘘でしょ」


 「嘘……?出れないの……?」


 職員玄関にたどり着き扉を開けようとするが鍵がかかっていて開かない

 外からかけられてる?これじゃあ外に出られない

 でも、職員玄関がダメでも生徒玄関なら開けられるかもしれない

 私が来た時は生徒玄関開かなかったけど、中から鍵がかかってたから今の状態なら開けられる

 舞が絶望して膝が崩れ落ちる



 「舞。大丈夫。生徒玄関からなら出られるはず」


 「私もう怖いよ……」


 「大丈夫。きっと大丈夫だから。今は全力で逃げるの」


 「うん……さおりんについてく」


 「行こう」


 私たちは手を繋いで生徒玄関まで歩いて向かった

 走り疲れた。休みたい、早く出たい、怖い。本音は舞と一緒だ

 でも、ここで本音を言ってしまったら舞が逃げる気力を失ってしまう

 2人で逃げるんだ。そのためなら私が我慢する



 「鍵が無いとダメみたい……」


 「鍵を探すの?」


 「うん。鍵が無いと出られないから」


 「もう校舎の中に行きたくないよ……」


 生徒玄関に着き扉を開けようとするも鍵がかかっていて開かない

 鍵さえあれば外に出られる

 肝心な鍵がどこにあるか分からない。あるとしたら職員室かな

 それか、鬼束か馬頭が持ってるか

 鬼束・馬頭に会いに行くのは危険過ぎる。職員室に行って探すのが先決

 職員室に無かったら、いよいよ出られないかもしれない

 鍵を奪うなんてどうやったらいいの



 「頑張ってもう少しの辛抱だから」


 「もう嫌だよ……」


 舞が完全にやる気を無くしてしまった

 その場にしゃがみ込み顔をあげようともしない

 ここに舞を1人置いていくのは危険過ぎる

 せめてどこかに隠れないと



 「私が1人で探してくるから舞はここに隠れてて」


 「1人は危険だよ!」


 「大丈夫。必ず戻ってくるから」


 私は生徒玄関の近くにある誰も使わない資料室の扉を開け、舞に入るように言う。室内は電気が点いていないため真っ暗だ

 舞は私の心配をしてくれたけど、私は舞が心配。一緒に探すのは今の舞では無理

 なら隠れてもらっておいた方が安全



 「ここから動かないでね」


 「うん」


 私は資料室の扉を閉めて職員室に向かった



 ――――――



 「うぅ……!!」


 「うわ!えっ?」


 が資料室に入り、さおりんの帰りを待っていると突然声がした

 電気を点けて声のした方を確認すると生徒が監禁されていた

 両手、両足を縛られ、口には猿ぐつわを噛まされている。服も少しはだけている

 目には涙をため、助けてくれと言わんばかりにくぐもった声を出している

 私は震える手付きで拘束を解いた

 


 「ありがとう」


 「大丈夫?」


 「うん……大丈夫よ」


 大丈夫とは言っているけれど顔色が悪い。生気が失われている

 私は震える手で女子の背中をさすった

 私に出来るのはこれくらい。さおりんみたいに人を勇気づけるなんて出来っこない



 「ありがとう……ありがとう」


 「もう大丈夫。助かるよ」


 私が背中をさすると女子は泣き出してしまった。声を押し殺して何度も感謝の言葉を言う

 どんなことをされたのかは分からないけど、想像絶するようなことを味わったのだろう

 恐怖に体が支配されている。泣いてはいるけど、体が震えてるのが証拠だ



 キィー

 

 「さおりんだ。もう大丈夫だから」


 しばらく待っていると資料室の扉が開いた

 さおりんが戻ってきたと喜びの声を上げそうになったが、扉の先にいたのはさおりんでは無かった



 「見ぃつけた」


 「ヒィ……」


 「さおりんは?」


 扉の先に立っていたのは鬼束だった

 女子生徒が鬼束を見た瞬間、小さな悲鳴を上げた

 どうしよう……袋のネズミだ

 バッドエンドの未来しか見えない

 


 「君は遠藤に置いていかれたんだ。遠藤が君のことお荷物だって言ってたよ」

 

 「さおりんはそんなこと言わないし、あんたなんかに捕まるわけない!」


 「お前らを助けてくれるやつは誰もいない。大人しくしろ。こっちだって手荒な真似はしたくない」


 「嫌だ!さおりんが絶対助けに来てくれる!」

 

 「うるさいな……」


 「イヤ!離して」


 鬼束は私の手を掴むと背後に回した

 痛い!抵抗しようと思っても力が強くてどうにも出来ない



 「これでもくらえ!!」


 「痛ってぇ!」

 

 「さおりん!」


 「クソが!ただじゃおかねぇぞ……!!」


 抵抗しようとした時、鬼束の顔に花瓶が直撃する

 花瓶は鬼束に当たった瞬間、粉々になり私にも水がかかった

 花瓶を投げたのはさおりん。手には鍵が握られている

 鬼束がよろめいた時にポケットから鍵が落ちた

 私がそれを拾うと鬼束が手を伸ばしてきて、また私の手が背後に回された

 私は手が背後に回される寸前で鍵をさおりんに投げた

 


 「鍵を返せば、花本は解放する。返さないなら……分かってるよな?」


 鬼束は拘束している私の顔をジロっと覗き込んでくる

 その顔は気味が悪かった。どんな目に遭わされるかなんて想像したくない

 でも、さおりんが逃げないと私たちはおしまい



 「さおりん!私の事はいいから逃げて!」


 「でも……」


 「いいから!!さおりんだけでも逃げて!!」


 「遠藤やめとけよ。友達を見捨てるなんて出来るわけ無いよな?大人しく鍵を返せ」


 さおりんは私が人質に取られて動揺している

 ここでさおりんまで捕まらせるわけにはいかない

 どうにか逃げて!お願い!



 「さおりん!行って!」


 「……必ず助け呼んで来るからね!!」


 さおりんはそう言うと生徒玄関に一直線に走っていった

 しばらくしてガチャという音が聞こえ、数秒後には扉の開く音がした

 さおりんが必ず助けを呼んできてくれる



 「いっちゃったな。見捨てられたんだ」


 「そんなことない!」


 「いつまで大口叩けるかな?」


 「離してよ!変態!鬼畜!」


 「オマエは絶対に逃さない。遠藤もだ」


 鬼束はガムテープで私の手足を縛り、口にもガムテープをつけた

 粘着質な臭いが鼻を刺した。私は身動きが取れなくなり資料室に転がされた

 一緒にいた女子も同じように縛られ身動きが取れなくなっている

 鬼束の顔が鬼のようだった。鬼畜。この学校の鬼ってこいつのことだったんだ



 「さてと、お楽しみといきますか」


 鬼束はそう言うと服を脱ぎ始めた

 大体予想はしてたけど……絶対に嫌だ!助けが間に合って!

 鬼束は私の制服に手をかけ制服のボタンを1つずつ丁寧に外していく

 最後のボタンを外し、制服を脱がす。鬼束が撫で回すように下着を見てくる

 私は鬼束を睨みつけた



 「なんだその目は?まだ希望なんか持ってるのか?」


 「…………」


 「遠藤がここから出られる訳無いだろ。俺が持ってたのは生徒玄関の鍵。校門の鍵は持ってない。生徒玄関を抜けたとしても校門が開けられないんだから出られるわけが無い」


 「…………⁉」


 「ハハハ!そうだ絶望だろ!?お前らは逃げらんないんだよ。な」


 嘘……?さおりんが逃げられない?

 私が犠牲になったのも無駄だったの?

 私の顔から血の気が引いた

 鬼束は私の顔が絶望の色に染まると高々と笑った



 「その顔だよ!その顔!!あぁダメだ!興奮してきた」


 鬼束の目つき、顔、声色から興奮しているのだと分かる

 鬼束の自分の服を全て脱ぎ捨てる

 そして、私のスカートに手をかけ一気におろした

 下衆の前で下着姿になってしまった

 私には抵抗する気力が残っていなかった


 

 「へぇー黒なんだ。興奮させてくれるねぇー」


 鬼束の黒いあそこが膨張しているのでさらに興奮しているんだと分かる

 鬼束は私の下着を獣のように剥ぎ取り、力任せに乳を揉んでくる

 気持ち悪い。でも抵抗しようと思えない

 これから起こることに若干諦めがついてしまっている

 こんなところで初めてを失くすのは嫌だけど助けてくれる人がいないんだから、もうどうしようもない



 「気持ち良いよ。こっちの方はどうかな?」


 鬼束は左手で乳を揉んだまま、右手で私の恥部に触れてくる。撫で回すように触ってくる

 鬼束の手が恥部に触れた時、体がビクッと震えた。気持ち悪いはずなのに

 男の人とそういうのをやったことが無いので、他人から触られるのに慣れてない

 


 「感じてるんだ?変態だね」


 鬼束が私の反応を見て笑顔で耳打ちしてくる

 そんなはずは無いと頭では否定してるのに体が言う事を聞かない

 鬼束は私の反応を楽しむかのように笑う

 鬼束は触っていた右手の指を恥部に挿入してきた。出し入れしてくる度に体が跳ねてしまう

 気持ち悪いはずなのに……どうして?



 「…………!!」


 「イッたね。君の方が変態じゃん」


 鬼束が指の挿入スピードを早くしてきた

 私の中で何かが波のようにうねりながら迫ってくる

 私はそれに耐えられず体を大きく跳ねさせてしまった



 「もう大丈夫そうだね。挿れるよ」


 鬼束は私の上に乗り、剛直したものを私の恥部にこすりつける

 熱い!こんな大きいの入るわけない!やめて!!

 だが、私の声はガムテープのせいでくぐもってしまい誰にも届かない

 鬼束が挿れようとしてきた時、私は諦めて目を瞑った



 「動くな!!」


 「は?どうして警察が?」


 私が諦めて目を瞑り、初めてを失うのを覚悟したが初めては失わずに済んだ

 目を開けると鬼束が警察に押さえつけられていた



 「舞!!」


 「さお…りん…?」


 「良かった……無事で……」


 さおりんも警察の人と一緒にいて私を見つけると抱きついてきた

 さおりんは安堵したのか泣き始めた。私も助かったという安心する気持ちと怖かったという恐怖が入り混じって泣いてしまった

 


 「もう大丈夫だから」


 さおりんと私は顔を見合わせあって笑顔で笑った



 ――――――



 あれから2週間が経ち、事件は鬼束と馬頭の逮捕という形で収束した

 2人の被害にあった生徒数は50人を超えており、その生徒たちには盗撮写真や行為中のビデオをネットにバラ撒くと脅した上で継続的に行為をすること、誰にも言わないという条件を飲ませていた

 下劣な事件だ。被害者の中には心を病み、人生がめちゃくちゃにされた人もいる。学校を退学した人もこの2週間で何十人といた

 舞も被害にあったけど、今では学校に来れてるし、元気そうに登校している。この前のライブではしゃいでたし元気ではあるみたい

 でも、心の傷が完全には治ってないだろうから私がしっかり支えてあげる

 私もトラウマだ。先生に追いかけ回されて、盗撮写真も見つけて。夢で済むなら夢であってほしかった

 


 「おはよう。舞」


 「おはーさおりん」


 私たちはあの日以降、こうして一緒に学校に行っている

 舞には辛い思いをさせた。こんなことで舞の心の傷が治ることは無いかもしれないけど、贖罪になればと思っている



 「そういえばさ、よく助け呼べたよね」


 「え?」


 「いや、鬼束の話じゃ鬼束が持ってたのは生徒玄関の鍵で校門の鍵が無いから出られるはずがないって」


 「あぁーそれね」


 舞があの日の話を自らするなんて

 私は舞のトラウマが蘇らないようにあの日の話はしないようにしていた

 だから、どうやって助けを呼んだのかは話していない

 この機会に全部話しておこう



 「生徒玄関の鍵を探しに職員室に行ったでしょ?そこで生徒玄関の鍵じゃなくて校門の鍵があったんだよね。校門の存在を忘れてたからさ、無いと出られないと思って取っておいたんだ。そしたら、鬼束が生徒玄関の鍵持ってて生徒玄関は抜けられた。そのまま校門も開けて交番に直行したってわけよ」


 「馬頭とは会わなかったの?」


 「校門開けたら馬頭が血眼で追ってきたから乗ってきた自転車で轢いた」


 「えっ?マジ……?」


 「うん。本当は自転車で逃げたかったけど、馬頭が前に出て邪魔してきたから仕方なく……」


 「怖っ……やる時は○るんだね」


 「違うから!絶対にそんなことしないから!」


 舞は私の話を聞いて戦慄した表情を浮かべる

 そんなこと絶対にしないからね!勘違いだから!



 「でも、無事にこうやって生活出来てよかったね」


 「うん。舞、何か相談事あったら言ってよ。いつでも乗るから」


 「じゃあさ、古文の課題の答え教えてほしいんだけど」


 「それは自分でやんな。力にならないから。赤点取るよ」


 「あと、彼氏欲しいんだけどさ、どうにかなんない?」


 「私に聞くな!彼氏は自分でどうにかしろ!」


 「「フフ、ハハハ!!」」


 私たちは顔を見合わせて声を上げて笑いあった

 こんな日々がずっと続いたらいいな

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鬼ごっこ in鬱 @kauzma

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