最終話 武器商人
後に、冬の革命と呼ばれる内戦が王国で起きた。
魔王討伐に固執し如何なる犠牲も問わない国王が、幾度目かの討伐メンバーに選抜したのは実の娘だった。夢で御告げがあったと王女を聖女と称えたのだ。
しかしこれに異を立てた者がいた。当事者である王女本人と、王女を慕う国民だ。
王女を危険な目に合わせられないと国民は国王に反発し、話し合いは無駄だと判断した王女は王城から逃亡した。
国王が必死に王女を捜索するも国民がそれを阻み、必然的に不敬罪として処刑が行われ、最悪なことにそれが常習化した。そのまま圧政による国民の悲鳴と共に王国は冬を迎えた。
王女が再び国王の目の前に姿を現した時、国民の大半は失われ以前のような勢いも活発さもなかった。
しかし王女は一人逃げたままではなく再び王城に戻ってきた。一振りの剣を片手に。
魔王討伐に囚われた実の父をその手にかけ、王女は残り少ない国民に向かって声高々に宣言した。
「圧政を強いる国王は死んだ! 過酷な冬は終わったのだ!」
王女の戦士のように勇ましい姿に数少ない国民は歓声で称え、王女は女王として王国を治め、平和な春を迎えることができた。
それからたった数年後のこと。王国は悲しみに包まれた。
「女王様が呪いで弓に姿を変えられてしまった!」
「呪いを解く方法はないのか!?」
「本当にこの絢爛豪華な弓が……女王様なのか?」
「そうだとして誰がこんな呪いを……」
その時、慌てふためく王城に明るい声が響き渡った。
「このような呪いをかけられるのは魔王くらいでしょう。これはやるしかありません。魔王討伐! それしか呪いを解く方法は無いでしょう!」
ざわつく王城がぴたりと凍りついた。もはや魔王討伐は忌み嫌われる言葉。それを軽々しく口にしたのはあの武器商人のギルバートだった。
「さあ、誰が行くんですか? 戦力補充として、俺も着いていきますよ」
先代の国王の頃を知っている人間ならばわかっている。しかし首を横に振り、異を唱えた先に待つものも知っている。
その場にいる人間が出せる答えなど、あるように見えてたった一つしかなかった。
花が咲き乱れる街の一角にあるカフェのテラスで、ある淑女は紅茶を飲みながら微笑んだ。
「面白いお誘いだけれどお断りね」
カップをソーサーに置くと同時に、向かいに座る男はため息を吐いた。
「残念。君となら成し遂げられると思ったのにな」
「誰にでも言っているのでしょう? 次からはもっとまともなお誘いをなさったら?」
「辛辣だね、でもそれも素敵だよ」
男が席を立った後、遠くで交わされた会話が淑女の耳に聞こえてきた。
「ギルバート! またナンパかよ!」
「普通の人を魔王討伐に誘うとか頭イカれてんのか? それでナンパが成功するってのがホントにありえねぇんだが……」
「好き放題言ってくれるねぇ。ま、今回はフラれたから否定しないさ」
遠のく声が聞こえなくなり、淑女はカップに残った紅茶を一気に飲み干した。
これからも繰り返される王国の魔王討伐。そして武器商人の商品の仕入れも、魔王討伐が果たされない限りは続いていく。例え人類がいなくなったとしても。
武器商人の装備仕入れ方法 朝乃倉ジュウ @mmmonbu
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