第18話 取引成立の場

 ギルバートが青年と交わした取引は、誰が笑い、誰が涙を流すのか。

 それを第三者が知ることはない。だが、あの時に交わした取引が、誰かの人生の岐路になったのは確かだった。


 あの山小屋の前で、ギルバートは魔王の半身を名乗る青年に首を刎ねられる前にあることを提案した。

「魔王の半身ともあれば、永遠に繋ぎ止めたい魂の一つや二つあるのでは?」

 青年の目の色が変わるのをギルバートは見逃さなかった。すかさずたたみかけた。

「俺の古代魔術を使えば武器や防具に魂を繋ぎ止められますよ。お喋りはできませんがね。繋ぎ止めた武器や防具が壊れるまでは魂を宿せます」

 最後に商人らしい笑顔でいかがです? と付け加えたギルバートは、取引成立を確信した。

 青年はギルバートの拘束を解き、胸ぐらを掴んでその内容に嘘偽りがないか詰め寄った。

「ええ。商売人は取引の場で嘘は吐きません」

「いいだろう。もし虚偽だった場合は八つ裂きだ」

「では取引成立で──」

「待った。そんなあやふやなモノだけで成立させたくない」

 そう言って青年はギルバートに追加条件を出した。

「君の活動範囲を指定させてもらう。その範囲内から出なければ好きにしてもらって構わないけど、そこから出たらその両目を抉らせてもらう」

 青年の条件にギルバートは三日月のように口角を上げて笑った。

「つまり、遊び場を頂けるのですね」

「ただの檻だよ。君の来た王国の領土内であれば好きにしな。またここまで来られても迷惑だ」

 眠りの妨げは勘弁してくれという青年に、ギルバートは取引成立だと握手を求めたが、青年は無視した。

「あの二人はどうする気だったのさ」

 山小屋の中で眠っているガトンとアイリのことを青年が尋ねると、ギルバートは明日の天気をこたえるようにさらりと返した。

「ああ、頃合いを見て男は武器に、女の方はアクセサリーにでもしようかと」

 あまりにも情の無い返しに青年は苦笑いした。

「こっちの用が済んだら三人まとめて国に送り返してあげるから、帰ってからやってほしいね」

「もちろん。取引ですから」

 ギルバートの胡散臭い商人の笑顔に青年は鼻で笑った。

 そして取引のため青年はギルバートと一緒に闇に溶け込み、その場から二人は姿を消した。

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