第1話 気に入られた理由とこれからの放課後

その言葉はやけに頭に響いた。


「残った二人がどうなったか、知りたくない?」


体が、ビクッと、なったのを感じた。

起きたのバレたなと思ったが、とりあえず寝たふりを続ける。


「起きたでしょ?」


どうやら見逃してはくれないみたいだ。

でも、ここは無視、昨日の失敗は今日の成功の為にあるのだ。


「別に、そのままでいいから、話だけ聞いてね」


あぁ~、これ、逃げられないパターン入っちゃったか~。

何でかな~、どうしてかな~、って現実逃避していると、なかなか興味深い続きが待っていた。


「くっついた上に、今、子どもがいる」

「マジで?」

「うん、マジで」


思わず反応してしまった。

ただ、これからのやりとりには男である以上仕方のないものだった。

だって、寝たふりしてて無視してたのに思わず顔上げた先が見たことない美少女の笑顔だったんだぜ!

間違いがないように何度か繰り返す。

こいつ、顔は良い。気付いてるのは少ないが。

こいつ、表情がない。それがなんだ今、満面の笑顔だ。

こいつ、変人で有名だ。当たり前だ、重すぎる家庭の事情を垂れ流しにすれば。

全部の謎は解けた。

男女間のあれこれを全部避けるためだったのだと。


「何で、俺なんだ?」

「だって、言ってくれたじゃない、ほどほどにな、って」

「そんなんで他の誰も知らなさそうなネタ暴露すんのかよ」


そのとき見せた甘く、とろける表情を、俺は生涯忘れられなくなる。

だって、誰にも渡したくない、そう、この時思ってしまったはずから。

ただ、一生後悔する、この時にこの気持ちに気付けなかったことを。



「しますよ、これから、い~っぱいお話、聞いてもらうんですから」

「何で?それ確定?俺の予定関係ないの?」

「こうやって放課後、時間があるときだけで良いですよ?」

「それ、俺の放課後の予定知ってて言ってる?」

「もちろん、って言ったら引きます?」

「引く」

「ヒドイ!」

「ってか、むしろ、なんで知ってるんだ?」

「優秀な友人がいるからです」

「付き合いは考えた方が良いぞ?」

「分かってます!」

「分かっているなら何でだよ?」

「彼女だけだったんですよ!

私の出自を知っても離れなかったのは!」

「いや、すまん。謝る、無神経だった。

自分も少々訳ありな上に自分のこと考えてくれる友人がいるからな、他の人のそういうのに気がまわらなくなっていた」


心が、決まった。


「あんまり、遅くなるのは勘弁な」

「もちろんです!

あ、ここ、ちとろを間違えるべきでした?」

「それ、必要ない」


こうして、ちょっぴりずれたお嬢様と女運が絶望的に悪い放課後ライフが始まるのだった。

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隣になった女子のぽろっと落とす家庭事情が重すぎる イガ坊主 @igabouzu

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