君といつまでも影踏みを

狐照

君といつまでも影踏みを

「かげふんだ」



子供じみた台詞が背後から投げつけられ振り返る。

悪戯っぽく笑う夕暮れ時の親友が立っていた。


オレンジの西日が怒濤のごとく世界を染め上げていく。

この時期には珍しい、まるで夏の夕暮れ。

そんな世界を背に、ついさっき別れたはずの親友が立っていた。

鮮やかな再登場に嬉しくなった影踏まれし者、自然と顔を綻ばせてしまった。


「隙有り、だぜ?」


影がさあ、くっついてきたから返しに来たんだぜ?

まやかし加減に呟かれ、そんな馬鹿なと足元に目をやる。

影は確かに踏まれていた。

大人しく地面に間延びし踏まれているよ。

季節の変わり目運ぶ風が、対峙する間を疾走してく。

そんな光景がなんだか妙に気にくわなくて、


「俺も、影ふーんだ」


冗談めかしにぼやいて駆け寄り、今度は親友の影踏んだ。


「なにすんだよー」


「さきにやったのはそっちだろ」



真っ赤な夕暮れの中を追い掛け合う。

互い、影を求めて。

歯を見せ合いながら。


「待て、まてっ」


「あはは」


「このっ、わっ」


おっと、と転びかけた親友を抱き止める。

夕暮れにしか会えないからと、ぎゅっと、してしまう。


「な」


「うん」


「だめ?」


その問いが何を意味すのか。

わかってる。

わかっていた。

なのにいつもはぐらかしてた。


わからないといつわって。


真っ赤な赤い日暮れが終わる。

そしたらまた、明日って。

なってしまっても良かった。

よかったんだ。

でも、そうだね、と。

抱き締める。

抱き締め返される。


「だめ、じゃない」


「ほんと?」


「ほんと」


「じゃ、帰ろうぜっ一緒に帰ろうぜっ」


親友が嬉しそうに顔を上げたから、思わず口付けしてしまう。

そしたらみるみる顔が真っ赤に染まる。

すごいな世界が赤いのに、なおいっそう赤くて美しい。


「おま、きが、はや」


「だめだった?」


そう問うと「だめじゃない」元親友がぎゅっと抱き付いてくる。

でももう日も暮れて暗くなるばっかり。

いつもは別れ。

これからは一緒。

それに安堵し暫く元親友を、抱き締めた。


何処に帰る事になろうとも。

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