恋の病
涼
なんで、君は……。
僕は今、恋の病に侵されている。
どうしようもない、恋の病に……。
僕は、普通の男だった。普通に女の子を好きになり、普通に女の子と付き合っていた。
なのに、あの日……。
あの日、僕の前に現れた大学のサークルに新しく入って来た後輩の男の子に、僕は、『あるはずはない』と思っていた感情が、湧いてきたことを、認めざるを得なかった。
彼の背は、僕より少し低い百七十五センチくらい。可愛らしい顔立ちに、バランスの取れた体型。僕は、一目で、その彼に夢中になってしまった。
しかし、僕にはその時、彼女がいた。彼女には本当に申し訳ないと思ったが、彼に出会った瞬間、彼女への、恋人などと言う感情は消えて無くなってしまった。そうして僕は、彼に出会った次の日に彼女に別れを告げた。勿論、彼女は、『どうして?』『なんで?』と、泣いて僕に縋りついた。可哀想だ……とは思ったが、僕はもう、彼しか見えなかった。彼しか想えなかった。彼しか愛せなくなってしまっていた……。
僕は、元々、サークルは幽霊部員だったのに、彼が熱心にサークルに通ってくるものだから、逢いたくて、逢いたくて、只々、彼に会いたくて、毎日サークルに顔を出すようになった。
彼とは、とても気が合った。話すのも勿論。だが、それ以上に、彼が何気なくしてくるスキンシップにも、僕は胸のトキメキを抑えるのに必死だった。
でも、彼がサークルに入って半年、事は起こった。
彼が、見知らぬ女の子を連れ、サークルに顔を出しに来たのだ。僕は、嫌な予感だけが頭を過った。それは、当たってしまう。
「先輩、これ俺の彼女なんです。なんか、先輩の話や、サークルの話したら、楽しそうだって、『私も入りたい』って聞かなくて」
彼は、平然と、僕の胸をぶち破った。僕は、笑顔を作る事すらできず、思わず、
「ごめん。今日、バイトだから……」
と、一言呟くと、サークルの部屋を飛び出した。
「嘘だ……嘘だ……嘘だ……」
僕は、自分に繰り返した。だけど……、しばらく全力疾走して、そのうち小走りになり、そしてトボトボ歩くようになって、考え直した。そもそも、彼が、僕と付き合ってくれているかのような感覚を持っていたことが、甚だおかしな話なのだから……。
僕は、彼とあまりに気が合ったから、あまりに彼といて楽しかったから、彼のスキンシップが嬉しかったから、勝手に、盛り上がっていたんだ……。でも、そんなのは、僕の勝手な思い込みであって、彼の感情など、考えたことも無かった。ましてや、彼女の有無など……。
僕はこれから、仲良くサークルで話したり、じゃれ合ったり、ラブラブな彼とその彼女を見ていなくてはならない。だって、急にサークルを辞めたりしたら、彼に僕が抱いていた想いを知られてしまうかも知れない。
少しギコチナイが、せめて、元の幽霊部員に戻って、この恋の病と対峙していかなければならない……。
いつまで続くのか、解らない、出口のないトンネルのような、恋の病と……。
恋の病 涼 @m-amiya
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