やっと、終わるんだッ!
赤羽 倫果
第1話 これで、おしまいだね
やっとやっと、待ち侘びた甲斐がありました。今日の門出に辿り着くまで、随分と長い時間をかけてしまったけど。
『尊厳死の合法化』
私みたいな『マイノリティ』に厳しいくせして、『尊厳死』を忌避した理由ってなんだろ。
まあ、今さらどうだっていいかな。
やっと、正しい世界に向けて、私はスタートラインに立てたんだ!
父へ母へ。
『生まれて来てごめんなさい』
妹へ。
『今まで、迷惑かけてゴメン』
元婚約者のキミへ。
『婚約破棄を、こっちから申し出る勇気がなくて。ごめんなさい。妹と仲良くしてね』
今まで、関わった全ての人たちへ。
『やっと、あなたたちの前から消えることが出来ます。本当に申し訳ありませんでした』
尊厳死に立ち会う、先生と看護師のみなさんへ。
『ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。あなたたちだけが、私の人生で最高の出会いだと信じています。ありがとうございました』
絶望の日々からの解放ってだけで、私は今まで感じたことのない、幸福感に酔いしれた。
ヒンヤリ、点滴が体内を駆け巡る。
過去の辛くて苦い記憶が、どんどん消え去って行く。
「ありがとう。私を……してくれて」
白い闇が目の前を覆った頃、私の意識は完全停止を迎えた。
夏の終わり。夕闇が迫る中で、庭木で蝉が鳴いている。
姉が逝ってから一週間が経った。
「どうしてやればよかったんだろう」
父も母も、そして、あの人も。わたしを含めたみんなが、姉のいない現実を受け止めて切れずにいる。
「アイツ……キレイに笑えるんだな」
あの人のつぶやきに、わたしは何も言えない。生前の姉は笑わない人だったから。
「本当なら、アイツの好きな花を用意してやりたかったんだが」
花をねだる人じゃないから。って言うの、ただの言い訳だよね。
お姉ちゃん。『笑わない』じゃなくて、『笑うことが出来ない』が正しいかな。そうさせたの、わたしたちのせいだったりする?
「じゃあ」
「あの……」
「ここには、二度と来ない」
「うん」
何事にもケジメは大事。今日からはお互い、違う道を歩んで行かないと。
「ごめんな」
ふり向きもせず、彼は玄関の扉から出て行った。
『あっ、最後にみなさん、私のいない世界で、必ず幸せになって下さいね。あの、もしも、生まれ変わることが出来るなら、みなさんと関わらなくて済む世界で、親兄弟や恋人から邪険にされない。平凡な幸せをつかみたいです。では、さようなら……』
もしも、わたしが生きている間に、お姉ちゃんの生まれ変わりに会えたなら。
お父さん、お母さん、あの人、それからみんなも、お姉ちゃんを愛しているんだよ、って伝えたいな。
「ホントなんだから」
もう、届かない声だとわかっていても、叫ばずにいられなかった。
やっと、終わるんだッ! 赤羽 倫果 @TN6751SK
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