ろくでなし共の曖昧な夜

呪わしい皺の色

第1話

登場人物

①カクヨマナイ  大学生

②すいか太郎  その友人

③女

④白黒先輩


カクヨマナイ  (電話を掛けている)……も、もしもし、お久しぶりです、白黒先輩


白黒先輩  (小声で)誰だっけ。

お前から掛けてくるなんて珍しいな


カクヨマナイ  今お時間よろしいですよね。ね


白黒先輩  ……って言ってるんですけど、どうっすか。オッケーっすか。……おまわりさんもオッケーだって


カクヨマナイ  え。まあ疚しいことじゃないしいいか。創作についてなんですけど、良いネタが全然思いつかなくてですね


白黒先輩  ああ。イラストだか小説だか書いてるんだっけ。音楽だった? もしかして。うーん……


カクヨマナイ  やっぱ先輩には難し過ぎたか


白黒先輩  (指パッチンをして)じゃあさ、いっそのこと新しい面白いネタを見つけるまで家に帰らないとかやっちゃえばいいんじゃないの


カクヨマナイ  なるほど


白黒先輩  いや、おまわりさん、あなたの仕事を増やしたいとかそんなんじゃ……そんなんじゃないです。全然違いまs


(通話終了)


カクヨマナイ  悪くないな





カクヨマナイ  駄目だ。一個も思いつかん。すっかり夜になってしまった。

先輩、あなたがひり出した案は糞です。このままじゃ深夜徘徊どころか路上生活までありえますよ。ですが、最後の自由を僕のために使ってくれたことだけは感謝します。

(スマホを弄りながら)グッバイ先輩。カモンマイフレンド

(呼び出し中)出ろ。出ろ。

よし。もしもし、僕だけど


すいか太郎  何か用?


カクヨマナイ  ちょっと教えてほしいんだけど、どこまでが友情でどこからが恋なのかn


(通話終了)


(二回目の呼び出し)


カクヨマナイ  もしもs


すいか太郎  もう一度だけチャンスをやろう


カクヨマナイ  砂山から一粒ずつ砂を取り除いて行った時


(通話終了)


(三回目の呼び出し)


すいか太郎  もう一度だけチャンスをやろう


カクヨマナイ  実はですね、訳あって家に帰れないんです。それで、もしよろしければ泊めていただけたりしないでしょうか


すいか太郎  かわいそうに


カクヨマナイ  でしょう


すいか太郎  だが、今日だけは泊めてやれない


カクヨマナイ  わかりました。今から向かいますね


すいか太郎  来るな。絶対来るな


(通話終了)


カクヨマナイ  照れ屋さんめ




カクヨマナイ  来ましたよ。(隣のインターホンを無視してノック)開けて。開けて


すいか太郎  (飛んでくる)おい、来るなって言ったよな


カクヨマナイ  ちゃんとドアスコープで確認しました? 不用心ですよ


すいか太郎  こんな訪問の仕方をするのはお前しかいない。それよりも、家に帰れないって鍵でも失くしたか?


カクヨマナイ  (ポケットを押さえながら)ま、まあそんなところですね


すいか太郎  くそ、よりによってなんで今日なんだよ


女  (部屋主の背後から)ねえ、そちらはどなた


すいか太郎  ……友達


カクヨマナイ  これまたえらい別嬪さんですね(お世辞)


女  あなた声高いね。ちんこ付いてる?


カクヨマナイ  見ますか?


女  見る!


すいか太郎  やめろ。こいつは男だ


女  ……とりあえず入れてあげたら?


すいか太郎  仕方ない。入れ


カクヨマナイ  ありがとうございます。お邪魔します





カクヨマナイ  だから、蚊がページの間で圧死してて、体は左右で仲良く半分こだったわけです


女  そうなんだ


すいか太郎  あんまり相槌打たないほうがいいぞ。こいつすぐ調子乗るからな


カクヨマナイ  続きまして、一昨日見た夢の話ですが


すいか太郎  付き合ってられん。風呂入るわ


カクヨマナイ  え、ちょ、待ってください。そちらの方の紹介がまだなのに、いなくなるのはひどいですよ


すいか太郎  訳わからん話を喋り続けたやつのせいでする暇がなかっただけだ。こいつは俺の


女  しーっ。自分でやる。


すいか太郎  ……余計なこと言うなよ

(衣類を抱えて退場)


女  私が誰か、だっけ。当ててみて


カクヨマナイ  ひどいやつらだ






(円卓を挟んで差し向かいに座っている)


カクヨマナイ  人生で初めて二段ベッドを見た場所はどこですか


女  何その質問。ホームセンターだけど


カクヨマナイ  小手調べです。そして、成果なし

じゃあ自宅の鍵を最後に見たのはいつですか


女  今朝だよ。施錠した後財布に入れて今も持ってる


カクヨマナイ  そうですか。同じ状況の隣人かもと思いましたが、違うようですね


女  同じ状況も何もあなた、鍵失くしてないでしょ


カクヨマナイ  ……


女  あいつに訊かれた時にポケットを押さえてたけど、無意識だったの?


カクヨマナイ  見てたんですか。恥ずかしい。白状しますとね、僕、彼のことが好きなんです。こうやって押し掛けるくらいには。お手元の砂時計も僕が贈りました


女  これ?


カクヨマナイ  ですです。あっ、あなたが彼の恋人で、それを気に入らないなら処分してくれても構いませんよ。本人が許可すればですが


女  そんな心配要らない。大嫌いだけど悲しませたいわけじゃないから


カクヨマナイ  それって……


女  (砂時計を横に倒して)あ、見て。ちょうど半分じゃない?


カクヨマナイ  そうですね(駄目だ、さっぱりわからん)





女  降参ってことでいいの?


カクヨマナイ  はい


女  じゃ、罰ゲームね。ちょっと愚痴るけど、聞いてくれる?


カクヨマナイ  それくらいならまあ


女  私には別の大学に通ってる弟がいるんだけど、連絡しても全然返信してくれないの


カクヨマナイ  忙しいんじゃないですか?


女  今夏休みじゃん


カクヨマナイ  バイトやらバトルやらバーベキューやら色々あるんですよ


女  その辺りのことを確かめようと思って押し掛けてみたの。合鍵持ってたから。

案の定家でだらだらしてた。


カクヨマナイ  うわ


女  私を見て舌打ちまでした


カクヨマナイ  弟君ひどいですね


女  近くのスーパーで買い物して料理したんだけど、美味しいって言ってもくれない


カクヨマナイ  とんでもないやつだ


女  それなのに、友達から電話が掛かってきただけで嬉しそうな顔をして


カクヨマナイ  へえ?


女  夜遅く訪ねてきたのに勢いよくドアを開けに行った


カクヨマナイ  あれ……


女  ねえ


カクヨマナイ  な、なんでしょうか


女  何か言いたいことある?


カクヨマナイ  随分と愛がおも……深いですね


女  (テーブルを叩いて)当たり前! (聞き手の悲鳴を無視して)これまでずっと愛するよう努力してきたから


カクヨマナイ  努力?


女  親の愛情も同級生からの称賛も何もかも独り占めにした双子の弟を妬まないための努力


カクヨマナイ  (拍手しながら)素晴らしい! 厭々人を愛するなんて誰にでもできることじゃありませんよ。全く以て素晴らしい!

……ちょっと待ってください。何か閃きそうだ


女  ……待つってあとどれくらい?


カクヨマナイ  せっかちさんめ。ほんのちょっとですよ。……来ました。謎々です


女  なぜ?


カクヨマナイ  月が鏡に映ったら、囀り出したその訳は?


女  ……囀るってことは小鳥? つき、つき、つき。……ああ。キツツキ


カクヨマナイ  正解です


女  へえ


カクヨマナイ  そのキツツキはお姉さんにあげます


女  どういうこと?


カクヨマナイ  弟君に見せてやってもいいし独り占めしてもいいです。

今日は帰りますね


女  あのさ、その、ありがとう


カクヨマナイ  はい。ではでは

(ドアを開ける)うわあ、いたんですか


すいか太郎  玄関は向こうだぞ


カクヨマナイ  知っとるわい。

さようなら。二人とも仲良くね。(退場)


すいか太郎  余計なことばかり言いやがって






カクヨマナイ  先輩、もう夜明けです。僕にこのやり方は合わなかったみたいです。

嗚呼見逃した夢の数々よ、お前達を袖にした罰なのか、この瑠璃色の嘲りは


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