三十四本桜 極炎龍
エヴァの攻撃魔法によって、火竜は数を減らしていく。圧倒的火力とは、正にこの事だろう。
更に私へ能力上昇魔法まで同時にかけてくれる。呪文詠唱しつつ、左右の手でそれぞれ異なる魔法陣を描くという神業をこなす。
「シャナ、取り巻きは受け持つよ」
「悪いな、では本命を貰うぞ!」
太夫黒を操り
龍は頭を上げて息を吸い込むと、こちらへ向けて無数の火球を連射。火炎攻撃にも
刃を返し、襲い掛かる火球を弾き飛ばしていく。こちらの間合いに入るべく相手の周囲を時計回りに進む。ようやく背中が見えたと思いきや――。
「ヴォオオォオオオオオッッ!」
今度は尻尾を振り下ろしてくる。その攻撃により大地は割れ、太夫黒も動きを止めた。
「十分だ」
愛馬の背に立ち、私は跳躍する。刀を掲げ、敵の無防備な背中へ振り下ろす。
「
一刀両断するつもりで放った攻撃、けれど実際は強固な鱗と分厚い筋肉に阻まれて僅かな傷を負わせる事で精一杯。
「
前回討伐した時は、仲間達の手によって弱らせた所を私と勇者二人がかりでようやくだった。今回はエヴァの助力を受けつつも、ほぼ
「……弱点でも突ければ良いが」
そんなものあるのかどうかさえ分からない。今は愚直に攻撃を繰り返しながら様子を窺うしか――。
そんな事を考えていると、
即座に
「当たらなければ、どうという事は無い」
幸いにして
「ヴォアアアアアァァァッッ!」
咆哮しながら再び爪攻撃を行う
「妙技、羅刹」
感覚を研ぎ澄まし、自分に向けられた攻撃を倍以上の力にして跳ね返す……それが羅刹だ。直接攻撃しか反撃は出来ず発動直前は動けないなど制約も多いが、私は気に入っている。
「――ヴァオォオオオオオッッ!」
その威力は絶大で龍の巨腕は跳ね返され、掌から肩にかけて真っ直ぐな刃痕を刻み鮮血が舞う。
体勢が崩れた相手に向けて攻撃を畳みかける。
「八艘跳び!」
いくら龍の皮膚が強固とはいえ、寸分違わず同じ箇所に渾身の突きを八撃も受ければ只で済まない。
刃は敵の腹へ深々と刺さり、
「アアアアアアアアッッ‼」
一撃で屠れるとは思っていなかったが、暴れ回るだけの元気を見せられては多少傷付いてしまう。
「剣聖の名が泣くぞ」
刀を引き抜き再び構えを取る私に、
本能的に物理攻撃が効かない事を悟ったか。
骨まで溶かしかねない炎が私を襲う。けれども、想定内の出来事。慌てる必要など無い。
先程、エヴァの加勢によって止めてしまった技を今一度繰り出す。
「秘技――
眼前の炎が真っ二つに斬られる。この技は先程の羅刹とは逆で炎や水、魔法といった『形なきもの』を両断する事が可能。
当初、魔法使いと戦うのが苦手だった私が苦労の末に編み出した『とっておき』である。
「――――ッッ!」
炎を出し切り、大口を開けて隙だらけの
「八艘跳び!」
龍の顔面に向けて八連撃を加える。長い髭と鼻が左右に揺さぶられ、最後に顎を斬り上げると相手の勢いが止まった。
「――八艘跳びッ‼」
足腰は悲鳴をあげていたが、ここで止まる訳にはいかない。息を呑み、一気呵成に奥義を連発する。
もはやサンドバッグ状態の
やはり何か奥の手を用意していたか、そう思った私は距離を取りつつ防御態勢をとる。
しかし
「うおぉおおおおおおおおっ⁉」
大爆発を起こす。何か攻撃を失敗したのか、それとも自ら命を絶ったのか……。
こうして難敵との勝敗は、謎を残したまま突然の終わりを迎えた。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ……!」
息も絶え絶え、額から滑り落ちる汗を拭う事すらままならず私はその場にしゃがみ込む。
こんなに全力を出したのは、いつぶりか。何度もいうが、やはり歳は取りたくないものである。
目線を後方に向けると、先程まで派手に起こっていた戦闘音が消えていた。どうやらエヴァのほうも片付いた様子。
太夫黒が私の傍まで寄ってきて、心配そうに頭を垂れる。優しく撫でてやりながら「お疲れさん」と労いの言葉をかけると、嬉しそうに嘶いてみせた。
「……よっこい、しょ」
重い腰をあげて立ち上がる。一応は剣聖として、最後まで格好をつけねば。
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