十七本桜 脱出
――体内は、まるで
消化しきれていない魔物や怪物を討伐しながら、奥へと進んでいく。すると開けた場所に出た。ここが
「みて、大和! きっとあれだよ!」
牛若が指を差す方向に、巨大な紅結晶が見えた。
「すごい力を放っているのが分かるね……」
「とっとと壊しちまおうぜ……こんな場所に長居をしたくねぇ」
両者は掛け声を合わせ、同時に剣を振るう。
「「せーーのっ‼‼」」
金属音が木霊する。しかし
「めちゃくちゃ硬ぇし治りやがる! どうする⁉」
「長くはここへいられないよ⁉ とけちゃう!」
猶予は丸一日と聞いていたが、胃酸の力が強い。既に二人の服の端々は溶けてきている。魔法の力が付与された特別製にも関わらず、だ。このままでは非常にまずい。
「こんな時、焦っては駄目だ。剣が鈍る」
あの大和が冷静な判断を下すとは。隠れて見ている私は感嘆の声をあげそうになり、口を抑えた。
「僅かでも傷は付けられるんだ。バラバラに斬り合わず、一点集中でいくぞ」
「相手が治すより速く動かないと、だね」
「初撃は任せる。息を合わせるぞ」
「分かってるよ――兄弟子」
息を整え、精神統一。臭いも胃酸も、周り一切が白い世界に埋まっていく。
「――スーー……ハッ‼」
牛若の横薙ぎが
「うりゃあっ‼」「せいっ‼」「おらぁっ‼」
連携を超えた
亀裂は大きくなっていき、そして遂に――。
「「はあぁあああぁあああっ‼‼」」
『ボエェエエエエエエエエエエエエッ‼‼』
悲鳴と共に
「はぁ、はぁ……! オラ見たか、この野郎!」
「こ、これで、やっと……帰れるね……!」
「よーしよし! よくやった!……あ」
「「し、師匠⁉」」
内緒で様子を見ていた事がばれてしまう。
「コソコソと覗いていたのかよ、趣味悪ぃぜ!」
「心配してくれてたんですか?」
「いや、違……そ、そんな事よりもだ!」
胃の中が激しく揺れ始める。尋常ではない事態に弟子達も焦り出す。
「
「……かわいそう……」
「しょうがねぇよ、やらなきゃやられてた。弱肉強食ってやつさ」
「腐敗が始まると内部に魔素を含んだメタンガスが蓄積、膨張していき――」
「……ガス? この揺れもそれが原因か⁉」
「……なんだか、頭がクラクラする……」
「およそ一分程で、大爆発を起こす」
「「ちょーーーーっ⁉⁉」」
弟子達は全速力で脱出を図る。さてと、こちらも要件を済まし、さっさと出なければ。
「おりゃおりゃおりゃぁあああ‼‼」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
ガスの影響が強いのか、牛若は限界が近い。そんな弟弟子の手を掴み、大和は無事に
「まだ安心するな! ここから離れるぞ!」
「せっしゃは、いいから……大和……にげて……」
「そんな事、出来るワケねぇだろ!」
牛若を担いで逃げる事は簡単。しかし、それでは距離が稼げず爆破に巻き込まれる可能性が高い。
「どうする……⁉ 考えろ、考えろオレ……!」
焦る大和は、決断した。
「……話には聞いている!
極限状態の中で、大和は更に才能を開花させる。
「意識を保ったまま! 力を解放、調整っ……! オレなら出来るはずだ……! 今やらねぇで、いつやるってんだ‼」
力を込める大和の身体に、稲光が包む。
「――うぉおおおおオオオオオオオンッ‼」
遂に肉体を半獣半人に変貌。人化と獣化の比率を変えるなど、聞いたことがない。
大和は牛若を肩に担ぎ、砂を蹴る。大きな砂柱をあげ、一瞬で数キロメドルを移動した直後――。
「はぁっ! ハァッ! ま、間にアッタ……!」
全力を出し切った大和が倒れ込むのと同時に、身体は元の人間へ戻ってしまう。今後、意識を保ったまま
「……ありがとう、大和……」
「……へ、へへへ……当然だろ……俺はオマエの、兄弟子なんだからよ……」
二人より早く噴気孔から脱出した私は、遠くから見守りつつ、今回の修行成功を確信する。
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