十八本桜 再会
「エヴァ、いるか?」
「お帰り、シャナ。いつ帰ってきたんだい?」
「つい、さっき。
「ついでなんて、寂しい事を言わないでおくれよ」
「早く約束の物を渡してやろうと思ってな」
紅結晶の欠片を手渡すと、エヴァの目が輝く。
「わお、本当に
収穫品に頬擦りをしながら「
「
呆れ顔をしながら、私の前に
「陰ながら助太刀するつもりでいたのだが」
当初の予定としては、二人が苦戦する所を私が
「もしかしたら私は、とんでもない二人を育てようとしているのかもしれない」
「君にそこまで言わせるとはね……その二人、今は何をしているんだい?」
「フレーゼに立ち寄り、一日ゆっくり過ごさせた。任務も早く達成出来た上に、我々は飲まず食わずの状態だったからな。今は宿舎で休ませている」
「オアシスの街フレーゼか。今はバザーが開かれている時期でね。僕も行きたかったなぁ」
「それで前回訪れた時よりも出店が多かったのか。二人も楽しんでいたみたいだが……」
「何かあったのかい?」
私は
「実は、小次郎殿との再会を果たせた」
「えっ⁉ 例の、異世界からやってきたのかも知れないと言っていた彼?」
「そうだ。弟子達に自由時間を与え、私も一人街を歩いていた時に偶然、な――」
ここからは、私の回想となる。
藍色羽織に袴姿、長刀を背負った男の姿を見掛けた瞬間、私はすぐに後を追い掛けた。
人波を掻き分けながら近付くが、あと一歩の所で裏路地に入られてしまう。
「確か、この辺りで……」
そこは華やかな表舞台とは一変していた。
犯罪の臭い漂う土地を進んでいくと、突然開けた場所に出る。山積みされた不法投棄に
「お主、丁度良い所へ来たのう」
頭上から声がしたので目線を向けると、そこには小次郎殿と同じく小袖に袴、羽織姿の男が胡座を組んでこちらを見ていた。
声を掛けられるまで相手の存在に気付けないとは不覚としか言いようがない。
「暇をしていた所だ、少し遊んでいかんか」
男は立ち上がると、肩を回し準備運動を始めた。遠くからでも体躯の大きさが分かる。ゆうに六尺はあるだろう。
「……申し訳ないが、人を探している最中だ」
「そう冷たい事を吐かすな、よもや腰に下げている刀は飾りという訳でもあるまい」
「お主と戦う理由が、どこにある」
こちらがそう言うと、男は「カッ」と息を吐き忌々しそうな表情を浮かべた。
「つまらんのう。小次郎から聞いた話と全然違う。剣聖などと大風呂敷広げおって」
「小次郎殿を知っているのか? 貴様、何者だ」
「儂か? 儂は【鬼夜叉】よ」
そう名乗った相手は、ひらりと宙を飛ぶや否や、私に向かって剣を振り下ろす。
「――ぐっ……⁉ くっ……!」
咄嗟に刀を抜き攻撃を受ける。その強さ、重さ、比肩するものなし。
剛の力を柔の技で受け流し、反撃を繰り出す。私自身、確実に当たると思った攻撃は動物的反射神経――否、剣士の素質により避けられてしまう。
「ほぉっ、儂の
心底楽しそうな笑みを浮かべる男。このままでは命の取合いになる、そう感じた矢先。
「そこまでです、一刀斎殿」
別の場所から声がした。目線を向けると、こちらが探していた小次郎殿の姿を発見。
「邪魔をするでないわ、ここからが良い所ぞ」
「こちらの言う事に従えぬというなら、元の世界へ戻って頂きますが宜しいか」
「……それは、つまらんのう」
一刀斎と呼ばれた男は、口を尖らせながら渋々に刀を納める。
「失礼仕った、剣聖」
「……小次郎殿、貴方は一体」
「概ね推考されている通りだと思いますが、我々はこちら世界の住人ではありません。ある目的を達成させる為に動いている【組織】です」
「……ある目的?」
「人殺しだ、ふはははは」
豪快に笑いつつ不吉な言葉を口にする一刀斎殿。冗談かと思い小次郎殿を見たが、彼は否定しない。まさか……本当なのか?
「残念ながら、説明をする時間は無いようです」
何やら話し声が聞こえてきたと思いきや、大勢の衛兵が姿を現す。その中でも隊長らしき人物が、私の存在に気付き声を掛けてきた。
「剣聖様⁉ 要請を受けて来られたのですか⁉」
「? どういう意味だ?」
「そこの男は無銭飲食をした挙げ句、既に二十名の騎士を病院送りにしておる凶悪犯です!」
一刀斎殿を指差し、とんでもない報告を受ける。
「命を失わなかっただけ、有難いと思えんか」
「貴方という人は……では剣聖、失礼いたします」
二人は屋根の上まで高く跳躍。あっという間に、姿を消した――。
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