第12話 ぼっちでいるのはダメですか?

 結局冬休みはずっと1人で過ごして、学校生活の3学期目を迎え、早くも時はすぎて2月を終えようとしている。それで今、いつもの4人で今更ではあるがそれぞれ個人で過ごした冬休みの思い出を話している。こうしているとやっぱりみんなで楽しいと思う。それと同時に次の学年に進むまでが迫ってくる。要するに文芸部にいる部長や先輩方が卒業していなくなってしまうということ。お世話にはなりましたけど、正直思い入れは何一つありませんすいません先輩。


「それでさ、もうすぐ2年に上がるわけだけどよ」


冬瓜が話を始める。


「うんそうだね。学年が変わるとクラスも変わるから、来年はみんなで同じクラスだといいね」


僕は実際にそう思う。クラスには美琴がいるから毎日退屈しないで楽しく学校を過ごしている。そこに冬瓜や七瀬さんが一緒なら尚更楽しくなると思っている。


「でも4人全員が同じとは限りませんからね」


「もし違くなっても休み時間に会いに行けばいいし、それに新しい友達をつくれるかもしれないし、私は別にどちらでもいいかんじかな」


僕は美琴の言葉が心に刺さったような気がした。僕は、皆が近づいて来たからそのノリで友達になったけど、僕一人だけだと話す勇気もないコミュ力ミジンコ以下になるから、友達を自分からつくるなんて到底無理だ。そう思い詰めていると、お昼終了のチャイムがなる。


「もう時間か。本当に時の流れというのは、早いよな」


「そうですね。三月さん。千田さん。また放課後に」


そんな他愛もない日々がここ一週間である。


 ただそんなある日、3月7日の今日。みんなが僕を切り離そうとしている感じだった。僕がいつもの様に「一緒に帰ろう」と誘っても、3人とも口を揃えて「ごめん、今日は予定があるから先に帰って」と重たい声で言って来た。いつもだったら「予定があるから少し待って」と申し訳なさそうにしていたはずだ。気付くと僕の体が震えていた。怖かったんだ。あのときの記憶が、あのときのフラッシュバックした光景が、また裏切られていじめられてしまうのではないかと。今までみんなを信じていた自分が疑心暗鬼になる。みんなのことを信じたいけど、信じることができない。僕は、不安な気持ちになりながらも一人で家へ帰った。


 次の日、僕はいつもより遅い時間に学校にきた。僕の席の隣には、いつもの様に美琴が座っている。今までの僕だったら、元気よく挨拶をしていただろうが、今の僕はみんなのことを信じることができない。


「三月君おはよ」


「……」


美琴が挨拶をしてきた。だけど僕はそれを無視して自分の席に座った。その時美琴は僕に何かを言いたそうにしていたが、僕はそれに触れることはなかった。

 昼休み、一人でいたかったので廊下に出た。目的地は階段裏だ。あそこは、入学した当時一人でいやすそうな場所を探しておいた場所だ。今までは、誰かといたから行くことはなかったが、今は人の近くにいたくない。そう考えていると、正面の教室から二人出てくる。出てきたのは冬瓜君と七瀬さんだ。僕はとっさに物陰へと隠れた。二人の性格から、陰口を言う人では無いだろうが先程の美琴と同じで今は信じることができないと思う。


「今日中に……を終わ……ないとな」


「……ですね。三月さんに………ない……をとってし………ことが……しいですし」


話し声が聞こえる。ただ上手く聞き取れない。でも今はみんなの声を聞きたくない。信じていたい自分が崩れていく様な気がする。疑心暗鬼な自分が大きくなっていく様な気がする。そんな感じだ。僕は二人が廊下を通り過ぎた後、僕は目的地となっている階段裏へと静かに歩を進めた。今の脳裏に浮かぶ嫌な未来が現実にならないことを願う。その後、僕は昼休みのチャイムが鳴るまで、階段裏の隅で隠れる様に丸まっていた。


「ねぇ、三月君。今日一緒に来て欲しいところがあるんだけど」


「……」


「ねぇ、聞いてる?」


「……」


面倒くさいことになった。今は下校中なのだが、美琴がしつこいぐらいに誘ってくる。もうこのやり取りを何十回もしている。


「いい加減聞いてよ!」


とうとう僕はしびれを切らして口を開いた。


「今更なんだっていうんだ。僕は何もしていない、なのにお前らはシカトしてくるんだ。」


美琴を睨みつける。その目は昔、恐怖に対し怯えていたときのものではなく、己の持つ心の奥底から出てくる決意による目だった。それは人を勢いだけで殺すようなものであった。あんな過去を繰り返したくは無い。それが今のみんなを避けようとする理由となる本能であった。美琴は僕の目に一瞬怯えたかと思うと、真剣な眼差しを僕に向けた。


「先にこれは言っておく。昨日はごめんなさい」


美琴が歩を進める。


「話したいことが沢山あるけど真夜中になりそうだから歩きながら話すね。それにみんなが待っているから」


僕が、どうしようか決まらず留まっていると美琴に手を引かれて足が動いた。


 闇夜が広がりつつある中、美琴が話し始めた。


「三月君。初めて君を見たとき、三月君はまるで死んだような目をしていた。ほっとけなかったんだ。それで何度も話しかけて、友達になった。それで良かったと今でも思っているよ。だって、分からないと思うけど、私は君に沢山助けて貰ったんだ」


確かに助けた覚えはない。それどころか助けて貰った覚えしかない。美琴は話を続ける。


「前に言ってたよね。私の友達が僕と同じことをされたかもしれないって。それでさ、冬休みに三月君のことをその子に話してさ、その子は雪ちゃんはまた前を向いて頑張ろうとし始めた。これは紛れもなく三月君のおかげなんだよ」


「いいや、僕は何もしていない。それこそ自分で行動して変化を与えた美琴が凄いと思う」


この言葉は本心で偽りは無い。だってあんな真剣な目でそんな言葉を吐かれたら、疑心暗鬼だった自分が馬鹿らしくなって来たのだから。僕は美琴に申し訳なさそうに顔を向ける。それは、朝のことを謝罪したいからである。


「あの…、朝のことはごめん。嫌だったんだ。大雅のときみたいにみんなが僕を裏切ってしまうのではないかと思って怖かったんだ。疑ってごめん」


今の僕の本心を伝える。今の僕は深くまで考えることができなかったからだ。美琴は、僕の謝罪に対して……


「いいの。それに、原因は私達にあるし。それと目的地についたよ。三月君に黙っていたことはここでわかるから」


正面を見上げる。そこには、どこにでもあるような一軒家があった。僕は。美琴に押されて扉の前に立たされる。後ろには、ニコニコと微笑んでいる美琴が僕を待っていた。僕は、扉のドアノブを手に取る。そして捻り、開けようとした時にその扉は突然開いて、その勢いで僕は前のめりに倒れた。僕は床に叩きつけられた顔を上げると、そこには七瀬さんや冬瓜君、美琴の他に冠明祭のときの七瀬さんのバンドメンバーとあと一人知らない人がいて…


〈〈誕生日おめでとう!〉〉


僕はいきなりのことで驚いて、昔よく言っていた言葉が出てきた。


「ぼっちでいるのはだめですか?」


周りがその言葉にキョトンとする。そこに、いつもの3人が……


「だめだな」


「だめですよ」


「だめです」


口を揃えて言い放った。僕らは、その後一斉に大笑いした。そっか、もう僕は一人じゃないんだ。僕らはその夜、疲れるまではしゃいで楽しんだ。


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ぼっちでいるのはダメですか? 暗雲 @Kurakum0_ST

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