第14話 真実を知った日
───ジリジリ……───
炎の音。
───ジュッ。
「………………ッ?!」
途端に、腕に激痛が走る。
……ユズリハはその痛みを前から知っていた。
(……冷やさ、ないと)
魔力を使おうと腕に手をかざす。
……が、次の瞬間、彼女の身体は活動をやめた。
「あれ、起きたの~?」
───ドクン。
「起きたなら」
───ドクン。
「お母さんに言えって言ってるよね~?」
───ドクン。
心臓が、痛い。
これ以上鼓動したらちぎれてしまう。
苦しい、苦しい……。
「や、やめ、……」
───ジュッ。
・ ・ ・
都市の中心部からやや離れた郊外の一角。
都市の発達した技術のおこぼれを貰いつつも、中心部の様なトラブルや騒がしさは無い。
9歳のユズリハは、そんな平和な町に暮らしていた。
「母ちゃん、見て!銀髪のお嬢様だ!
出かけるのかな?」
「こらっ、指ささないのー。」
「見てあれ!見たことない乗り物がある!」
「あれは魔力だけで動かす最新の車らしいわよ。
お金持ちはすごいわねぇ。
……なにせ、お父さんが都市部の人間だものねぇ。」
「で、でも、
うちのお父ちゃんだって都市部で働いてる!」
「……あはは。
……あの人はただの都市部の清掃業者よ」
(また、こっちを見てる……)
自分より一回り年上にみえる坊主の少年と、彼に向かって苦笑いを浮かべる母親。
どうやら自分について話しているらしい視線を感じながら、ユズリハは自動車に乗り込む。
後ろでは、メイドのナナが興奮した様子でなにやら話かけてくる。
「……ッお嬢様っ!
これが最新式の、完全魔力式自動車、
その名も、マジックオート……!!」
「すごいです!!
素晴らしい乗り心地じゃありません?!」
「……ナナ、少し静かに……」
「わぁああっ!!!!!
うごいたぁぁアアア!!!!!」
───ハァ。
ユズリハは深い溜息をついた。
自動車は石畳の町を颯爽と駆け抜ける。
最近は都市部の開発がより活発化してきたせいなのか、この町にも電気をはじめとしたあらゆるエネルギーが、完全に魔力によるものへと変換されつつある。
……都市部の勢いは凄まじく、
魔力を集める為、人を攫って人体実験しているのでは無いかという噂もあるほどだ。
(そんな事、あるわけないのに)
……少なくとも、お父さんはそんな事しない。
ユズリハの父は、都市部の魔力開発取締役に就いている、いわゆるエリートである。
『 何があっても、己の信念を貫く』
それは、父がよく会見時に言っていた言葉だった。
画面越しでも、その厳格さと真っ直ぐな性格が見て取れる。まさに重役に適した存在だった。
そんな彼は、子供との触れ合いは一切しなかった。
子供と挨拶すら交わした事が無かった。
しかし、ユズリハは父の愛情を欲するどころか、
かえって、いついかなる時も自分を曲げない、
そんな父の姿を敬愛していた。
…………彼女は、一般的な親の愛情がどんなものかなんて知らなかったのである。
・ ・ ・
そのビルは都市の中心その物だった。
ガラスに近い素材で造られた表面は陽の光を浴びてキラキラと輝き、その存在感を一層露わにしている。
「……すっごーーい!!
屋上が見えないなんて……。
一体、何階まであるんですかね?」
ナナは相変わらず、落ち着きなく喋っている。
メイド服の長い裾が地面についているのも気にせず、体をくの字にしてビルを見上げていた。
ユズリハは下を向いたまま、
きゅっ、と下唇を噛み締める。
この建物に、父が居る。
それだけで、身が縮こまる気がした。
───ある日、
齢9歳にして突然強力な魔力を顕現したユズリハは、都市部の魔力開発部に出向くことになった。
この力のせいで、何か優遇されるのか。
……はたまた人体実験されるのか。
彼女にはまだ何も知らされていない。
───ユズリハはこの日、
この世界の深淵へと足を踏み入れたのだった。
悛改のミスタ 猫野 おむすび @omusubimgmg
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