第16話 人の心を省みて

――

 うたのと璃穏が仲良くなってからそれなりの時間が経ったとき、璃穏はまた不機嫌な時が多くなっていた。当然理由は話してくれず、心配だけが募っていた。そんな時、うたのと2人で帰る時があった。


「璃穏って、面白いよね」

「え、まあ、面白いっていうのかな、でもいい子だよ!」

「うん、いい子。やりやすいよね、色々と。璃穏と話してると、絶対に美火のことも話題に出るんだ。美火は天才だって。なんでも出来るんだって言ってるよ」

「全然、そんなことないんだけどな!」

「みんなはそう思ってるよ。良いよね、美火はモテるし、恋愛も上手くやっちゃうんだろうな。羨ましい」


 その時はただの恋バナかと思っていた。でも、思い返してみるとその会話から大きなうねりは生まれてしまっていたのだと、随分後に気づくのだった。


――

 部屋の中は静寂に包まれる。洞窟での出来事のすべてを駿と杏夏に話し、状況の整理をしていた。あの元気はつらつな二人でさえも、黙ってしまうほどだった。こういうときに決まって舵取りをするのは、友馬だ。


「洞窟であったすべての出来事は話した。とりあえず言えることは、もうこの村は前の安全な状態に戻るってことだ。そして、璃穏は俺たちのクラスメイトを殺しに行ったこともはっきりしてる」

「マジで殺しに行ったのか? 璃穏とはそんな話したことねえけど、そんな過激なことやる奴に見えねえけどな」

「でも本当に殺しに行ったのなら、あたしは許せないな! 絶対に止めなきゃ! そもそも璃穏のことをいじめてた人たちのこともあたしは許せないけどね!」


 3人は各々の意見を言い合う。私は今までの璃穏のことを思い返していた。内心ではもしかしたらと思う出来事はいくつかあった。でも、結局自分は、璃穏の生活に立ち入りすぎないようにすると、勝手に決めて手を差し伸べることをしなかった。出来なかったんじゃなくて、しなかった。それが自分にとっての、自分にしか判別の出来ない罪悪感の一部なんだ。友馬たちにも察せられない、私だけが知ってる、私の罪。それを償うとしたら、それは今なのだと、確信した。


「皆、聴いてほしい」


 私の真剣な声にみんなはすぐに静かになる。


「璃穏と私は幼馴染。多分、なんで今こういう行動を起こしているのかも、私なら理解してあげられるかもしれない。でも、その理解には時間はかかる。その間に璃穏の人殺しの行動を、私は止めに行くよ。これは私個人の気持ちだから、みんなを無理に巻き込みたくない。だから、ここからは別行動にしよう。今までありがとう、皆がいたから心細くならずにこの世界で生きて来られたよ。皆も気を付けて、また合流しよう」


 私の声は確実に皆に届いた。そして、3人の声も確実に私に届く。


「美火、それなら、俺も同じ気持ちでいるよ。うたのと璃穏は仲良くしてよく話しも聞いてた。クラスの奴らが苦しんでるなら、無視出来るわけないしな。……正直なところ、俺も少し思うところはあるんだ。それも確かめるためにも、俺は一緒に行く」

「言ったっしょ! あたしは許せないって! もちろん止めに行くよ! あたしの気持ちもそれになっちゃってるからさ!」

「案外前向きに考えりゃ璃穏も冷静になるかもしれねえしな! それに、俺がいなきゃ出来ねえこともあるだろ? 今までもそうやって助け合って来たんだし、俺も行く!」


 明るい表情を向けられ、私も自然と笑顔になる。私は本当に良い友達と一緒で良かったと、心の底から感激した。


「ありがとう、皆! それじゃあ、難しい話しは終わり! ごはんを食べて、明日に備えよ! 準備が大丈夫そうなら明日には出発しよう!」

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クラス全員が異世界に転移してなんか天使の力も持ってるので生きるために無双する~転移と能力とみんなの想いと~ 後藤 悠慈 @yuji4633

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