第3話 初対面

「…………」

「…………」

 いきなりのことすぎて言葉を失ってしまった。どうしてこんな所に? もしかして私と同じ寮なのか? 疑問はどんどん出てくるのに、喉から声が出てこない。

「あ、あの!」

「………………何?」

 緊張で声が! 声が出てこない! こんなんじゃやっていけないってこれから……。「何?」一言だけとか確実に印象悪いって! 

「ぬいぐるみのキーホルダー見ませんでしたか!? シマエナガのぬいぐるみで、このくらいの……結構小さくてもふもふなんですけど……」

 シマエナガのぬいぐるみ……私は知らないけどここの動物達なら知っているだろうか。

「……そこのエナガさん、北海道……とっても寒い所に住む君の仲間のことは知ってる? 真っ白い子なんだけど……」

『知ってるよー。でもどうして?』

「この子がその真っ白い子のぬいぐるみを探してるらしいんだ。この辺りで見てない?」

『うーん……あ! そこの角に真っ白なぼくの仲間っぽい子がいたよ! とっても無口だったから、もしかしたらその子かも!』

「そっか、ありがとう。…………そこの角にあるかも。見てみて」

「え、えっと、はい! 見てみます!」

 そう言って角に消えていった彼女の背中を見ながらやらかしたことに気がついた。なんで目の前で動物と話しちゃうかなあ!? 絶対変な人と思われたよこれ! いや計画通りなのか……。

「あ、ありました! ありがとうございます!」

「……そっか。もう失くさないようにね」

「はい!」

 美しい花笑みを浮かべる白雪さんはとても可愛らしくて、思わず見惚れている間に彼女はさっさとどこかへ行ってしまった。

「………………はあ」

 これからやっていけるだろうか。そんな不安を抱えながら、自分の部屋への帰路につく。そういえば明日はテストなんだった、春休み中に勉強しているとはいえ前日の仕上げに入らなくては。勉強ができれば勉強会とかに誘ったりできるし、点数がいいに越したことはない。

 自分の部屋の扉を開くと、視界に映るのは今世にてコツコツと集めてきたオタグッズ……の中でもさらに厳選したグッズ達。人に見られても大丈夫な物を持ってきたつもりだが、もう少し別の収集趣味を持ってカモフラージュした方がいいだろうか。私はこれから不思議イケメンとして過ごすのだから、オタクバレはなるべくしたくないのだ。

「……文房具でも集めようかな」

 誰かを招く予定は今のところないのだから今考えても無駄だと言うことに気づいたので、さっさと勉強に取り掛かることにした。鞄から筆箱と問題集を取り出し、問題を繰り返し解いていく。そうしていると、気づかない内に秒針がぐるりぐるりと回っていった。





 視界がぱちりと開けて歪んだ景色が飛び込んでくる。あれ、どうしてこんなに斜めっているんだろうと辺りを見渡すと、机の上に載せている時計が目に入った。よく見ると最後に見た時から長針が三回以上も回ってしまっている。勉強している内に居眠りをしてしまったらしい、やってしまった。もう少しで食堂の営業時間が終わってしまう。最悪食堂が使えなくなっても購買や自動販売機があるので食いっぱぐれることはないのだが、食堂の方が安上がりだし沢山食べることができる。

 急いで部屋を飛び出し階段を駆け下りる。こうやって階段を下りるの、忙しいメイドさんみたいでなんか好きなんだよなあ。少し楽しみながら無心で駆け下りていると、突然誰かとぶつかってしまった。いっけなーい遅刻遅刻ってか? おっと、それより早く謝らないと。

「あ、ごめんなさい……」

 ぶつかった相手は私より大きいらしく、見上げないとギリッギリ目が見えない。仕方なく顔を上げると、そこには私が特に敵視している黒髪の俺様系イケメンが立っていた。

「……あ?」

 うわーイケメン! ムカつく! 私俺コイツ嫌い! なんか生理的に無理! 顔がいいの腹立つ! 

 正直今すぐにでも喧嘩を売りたいところだが、急がなければ食堂が閉まってしまう。一応謝ったのでヨシ! と通り過ぎようとすると腕を掴まれた。何の用だよ。

「……何?」

「おいテメェ、俺にぶつかっといて謝罪一つで済ませる気かよ?」

 は? これは喧嘩売ってきたってことでいいよな? いいだろう私は寛大だからそのクソしょうもねぇ喧嘩買ってやるよ! 

「あーはいはい、スミマセンデシター」

 何かいい物がないかとポケットの中を漁ると偶然ヘアゴムが入っていたので、それを飛ばしてこの黒髪イケメンの顔にぶつける。

「は? ……痛っ!?」

「それはやるよ、おととい来やがれ!」

 そう言って私は階段を飛び降りこの場から走り去る。食堂閉まってたら恨むぞ黒髪! 




 こうして私は初恋の人と1人目のライバルとの初対面を果たした。さて、これから運命はどう転がるのか。そんなことは誰も知らない。私は、俺はこの想いを胸に行動するのみだ。

 ちなみに食堂は閉まっていた。アイツ嫌い! 

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私、勝つためにイケメンになろうと思う 手毬 猫 @snowstar

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