第2話 入学式と寮の中
今日はいよいよ入学式の日。髪の毛よし、制服よし、男装メイクよし。完璧だ。どこからどう見ても美形な男にしか見えない。少女漫画に出てきても違和感がないイケメンだ。
周りに誰もいないことを確認してからトイレを出る。このトイレは駅の中でも見つけにくいところにあるのであまり人が通らず、メイクチェックにはちょうどいい。
今日は入学式が終わったらその後入寮式がある。先に荷物だけ運び込んでおいて、入学式の後正式に入寮するのだ。
学校は駅からとても近い。徒歩三分程度で、寮がなくても毎日通うのは苦ではないだろう。これからのことに胸を膨らませていると、もう学校に着いてしまった。教室の場所を確認し、教室へ向かう。
私が教室に入るとすっごく見られた。皆まだ緊張していて雑談とかはしていないみたいだけど、すごく見られた。気まずくなりながらも本を読んでいると、このクラスの担任らしい先生が入ってきて簡単な自己紹介をされた後体育館へ誘導される。
体育館に入場すると国歌斉唱があり、校長先生が入学許可宣言をする。そしていろんなお祝いの言葉とか来賓の紹介とかが行われた後は在校生の歓迎の言葉。それはあのイケメン生徒会長がしていたが、ルールや規則に厳しそうな感じがした。その後は新入生代表挨拶。新入生代表挨拶は誰がするのだろうか、メインキャラの位置に値する人物がするような気はするけれど。
「春の暖かい日差しに見守られ、僕達は今日、この黎明学園高等学校に一年生として門をくぐりました。本日は僕達新入生のためにこのように盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表し、この場でお礼の言葉を述べさせていただきます。これから聡明学園高等学校で三年間過ごしていく中で……」
どうやら新入生代表挨拶はあの金髪王子様系イケメンらしい。笑顔ですらすらと話せるのは純粋に尊敬する。そんな感じのことを考えながらぼんやり壇上を見ていると、いつの間にか挨拶が終わり校歌斉唱の番になっていた。入学式前にある登校日に練習させられたのでもう歌える。ほどほどに歌った後は閉会の言葉が始まった。
新入生退場の時が来た。周りに合わせて歩いていると、隣の人が転びそうになっていたので他の人には気づかれないように支えておく。こういう感じの積み重ねが信頼を産む……かもしれない。
この後は各教室で提出物の回収やらをして解散、昼食休憩の後入寮式という流れだっただろうか。想い人……白雪さんとの初対面はいつになるだろうか。少女漫画は第一印象が悪いタイプが勝ちやすいという統計
教室に着いたので第一印象は「変な人」ぐらいがいいのか……? と頭をひねっていると、前の席の人に声をかけられた。茶髪を高い位置でツインテールにした可愛らしい人だ。
「……さ、さっきは…………ありがとう……」
さっき。さっき……ああ、新入生退場の時に転びそうになっていた人か。
「…………あ、うん……どういたしまして」
何と返せばいいか分からなくて素っ気なくなってしまったがこれで大丈夫なのだろうか。無愛想になってしまっていないだろうか……なってるなこれ! このコミュ症! はあ、こんな感じでこれからやっていけるのだろうか。
入寮式があっという間に終わり、自由時間になった。せっかくだし寮とその周りをぐるっと回ってみるか。そう思って自分の部屋を出るとパッと目に入るのは、シンプルながらも重厚な装飾があちらこちらに施された手すりに、廊下に敷かれた鮮やかな赤が美しいレッドカーペット。階の真ん中は吹き抜けになっていて、手すりから少し身を乗り出すと上には大きなシャンデリア、下にはこれまたセンスのいい家具が揃っていて気品のあるロビー。全体的に白を基調としたデザインのせいか、どこか外国のお城を思わせる。
この建物の他にも寮はいくつかあるらしいが、こんなに広かったり豪華だったりする必要あるかなあ。寮やマンションと言うよりも高級ホテルと言った方が相応しいと思う。
ちょっと薄々感じてたんだが、この学校大分金持ち校だな。制服は性別関係なくブレザー、セーラー、学ランから選べてブレザーと学ランはさらにスカートとスラックスを選べる。ちなみに全部白で全部購入するのもあり。私は親に全種類を購入させられたので無駄に朝何を着るか悩むことになる。
先生方はクソ大変だろうが、生徒からするととても嬉しい。セーラー服指定の学校の生徒はブレザーが羨ましく、ブレザー指定の学校の生徒はセーラー服が羨ましいのだ。まさに「隣の芝生は青く見える」だと思う。
廊下には誰もいなかった。隣の部屋の表札を見ると、何も書かれていなかった。私の部屋は角部屋で、ただでさえお隣さんが他の人より少ないのにまさかお隣さんがいないのか。どこまでもぼっち! 前世も今世もぼっち!
ちなみに私の部屋は最上階なのだが、同じ階には誰もいなかった。そんなことある? そりゃ人いませんわ。私一人だけ部屋に戻るのにすごく苦労することになるの? と思ったけどエレベーターがありました。それはそれとしてこんなに広いのに一人は寂しいんですけど、なんでこんな酷いことするの?
ロビーのある一階まで降りてみると、結構多くの人が雑談したりゲームをしたりしていた。雑談はともかく、ゲームは自分の部屋でした方が集中できそうなものだが。
私がロビーに足を踏み入れると、何故だか急にざわざわとしだした。気づかれないように耳を澄ますと、「あの人イケメン!」だとか「かっこいー!」だとかそういうやつだった。少女漫画の世界……。
まあ、今のところ作戦は成功しているようだ。そういえば、クラスメイトしか見ることができないグループチャットがあるからそこで性別についての根回しをしよう。体育の授業の前か後のどっちがいいだろうか。
ロビーの中心から少し離れると、裏口のような扉があった。周りには誰もいない。そっと扉を開いてみると、そこには幻想的な森があった。
そういえばこの学校と寮は森の近く……どころかほぼ隣接してるんだったか。リス、猫、犬、鳩……様々な動物達がいて、何だかキラキラとした光のエフェクトがかかっているようように感じる。まるで妖精の住む世界に迷い込んだような感覚だ。
「……そこの猫さん、はじめまして。ここは何だか不思議な場所だね」
『あら、貴方もしかして人間? 人間がここに来るなんて珍しいわね。それも私達と話せる人間だなんて、初めてよ』
ここに人が来ることはあまりないのか。普通の人はロビーから離れた所なんて好き好んで来ないのかもしれない。
『ここは居心地がいいでしょう? でも、ここは妖精さんの加護があるだけのただの森よ。数十年前、ここに変な人間が来て私達がさらに暮らしやすいよう工夫したりはされているけどね』
妖精さんの加護。嘘をついているようには見えないけれど、妖精さんとはどういうことなのだろう。私が今まで知らなかっただけで、この世には妖精などの人外のものがいるのか? そう考え込んでいると、各々好きに過ごしていた他の動物達が私に寄ってきて頭や肩に飛び乗ったりしてきた。いきなりのことに思わず草の上に座り込んでしまう。
「……みんなどうしたの?」
『人間だー!』
『はじめまして!』
『僕達と話せるの? 話せるの?』
『人間初めて見たー』
わちゃわちゃと動物達と戯れていると、何処からか視線を感じた。視線の方へ目を向けると、そこにいたのは太陽のような長い金髪と森林の色をした目を持つ、
これが、私と彼女の初対面。この先彼女との関係がどうなっていくかなんてことは、神様にだって分からないだろう。
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