私、勝つためにイケメンになろうと思う

手毬 猫

第1話 初恋と決断

 高校入試のその日、私は恋をした。


 突然だが、私には前世の記憶がある。しかし前世も今世も現代日本であり、今流行りの異世界転生とかそういうのではないことをひとつ明記しておく。魔法みたいな能力が存在している訳でもなく、代わり映えのないつまらない転生である。前世の知識というアドバンテージがある分勉強はできて、「神童」と呼ばれたりしてはいるがそれだけだ。

 しかし、今世の私はとても美しい。烏の濡れ羽色をした髪に、外国の血が入っているのかは知らないがエメラルドグリーンの目。そして全世界トップなのではないかと思うほど顔面偏差値の高い顔。これのお陰で前世と比べて随分生きやすくなっている。

 ああ、それと何故だか今世は動物と話すことができる。それに加えて動物は皆すぐ私に懐いてくれて、いつしか私にとっては人と話すよりも動物と話す方が楽しくなっていた。

 そんな私が、恋をした。前世でもしたことなかったのに。サラサラの長い金髪に、森林のような緑の瞳。私とは違う、見る人を癒す目。花のように華やかなその笑顔は見る人までも笑顔にする。人に何かを頼まれても笑顔で対応する、心優しい人。あの笑顔に、あの優しさに、私は恋をしたのだ。名前は白雪しらゆき さくら。流石、名前までも美しい。

 しかし、恋をすると同時に私はある重大なことに気づいてしまった。それは、この世界が少女漫画の世界であることだ! いや、今までも私が外を歩く度「きれー……」とか「あの子かわいー」とかあちらこちらでひそひそしてるのには気づいていた。いたし「こんな漫画みたいなやつって現実に存在してたのか……」ぐらいには思っていた。思っていたのだが、その日、決定的な光景を見てしまった。

 その光景とは、金髪王子様系イケメンと黒髪俺様系イケメンがめっちゃ女子達に騒がれていた光景だ!! ずるい!! 私だって女子にあんな風に騒がれたい!! そんな私情は置いておいて、オープンハイスクールでもすごーくイケメンな生徒会長が生徒代表挨拶をしていた。眼鏡の真面目風イケメンだ。偏差値が高くて校舎がすごく綺麗で全寮制なだけの高校にこんなイケメンが三人集まることなんてない……いやあるかもしれない……。

 でもとにかくこの世界、わりとしょっちゅう少女漫画展開が起こる。壁ドンとか事故キスとか何回か見かけたことある。そして数ヵ月後にはそれした二人がくっついてる。いやむしろ何故気づかなかった私よ! 

 まあそんな感じは少女漫画の世界または少女漫画風の世界である。私は絶望した。少女漫画の世界でイケメンが複数いるってのに同性の私が恋愛対象として見られる筈がない。

 そこで私は考えた、私がイケメンになればいいのでは? と。私が男装の麗人となって恋愛対象として、いや読者視点でヒーロー争いに参加する男キャラとして見られればいいのでは? 

 これは我ながら名案だと思った。幸いにも私は美形だ。それなのに胸はぺったんこ。これはイケメンになれという神からの啓示ではなかろうか。名前だって霜月しもつき きくと中性的だし、そうに違いない。

 そうと決まればまずはキャラ付け。私の長所や性格を元にしたキャラ付けにしたい。だって私のことを好きになってほしいもの。

 まずは他とキャラが被らないようにしなければ。黒髪俺様系と金髪王子様系……金髪の方が負けヒーローっぽいな。イケメンが二人以上いる少女漫画はだいたい黒髪クールが勝つイメージがある、参考文献が少ないのであまりアテにならないが。

 私の性格をそのまま使うなら……いつも何だかぼんやりしてて動物と話せる不思議くん? キャラ被りもしないだろうしなかなか良いのでは? 

 よしこれにしよう。このままの見た目ではすぐ女子だとバレてしまうので髪も切ろう。イケメン生徒会長も王子様系イケメンも俺様系イケメンも短髪だったし、ここは周りと少し差をつけて……ウルフカットがいいだろうか。ウルフカットの男子はあまり多くないし、特別感が出る、かもしれない。

 制服はスラックスにして……あ、寮の部屋ってどうなってたっけ……男子寮と女子寮で別れてたらどうしよう。

 そう思って調べてみると、どうやら一人一部屋で女子と男子では分けていないらしい。そしてどちらかと言うと寮よりもマンションに近いようだ。ちなみに彼女とはひとつ離れたクラスなのでクラスメイトに口止めしておけば大丈夫だろう。体育の授業が合同になることもないし。

 よし、とりあえずの設定は決まったので早速美容院と服屋に行ってこよう! 



 これは私、いやがこの初恋を実らせるまでの物語。

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