幸せになる予定だった。

オリスケ

第1話



俺には大事な付き合いたての彼女がいる。

とても可愛らしく、元気な子だ。

この子は俺のどタイプだった。

出会ったきっかけは高校の後輩先輩の関係だったことだ。綾は俺の一個下だ。

連絡先を交換して、よく遊んだり、話したりした。そうしてやっとの思いで俺の事を

なんとも思っていなかったはずの綾に

惚れてもらうことができた。

そうして付き合ったのだ。

付き合ってすぐだけれど、俺たちは

同棲をしだした。一緒に住んでも悪い所は見当たらないような本当にいい子だった。

今日は俺も綾も何も予定がなかった。

だから俺は綾をデートに誘った。

「なぁ綾。今日出かけないか?」


私の愛する人がこう言ってくる。

「いいよ!どこ行く?」

そう聞くと

「買い物をしようか。好きなものを買ってあげるよ」

優しい声でそんなことを言ってくれた。

嬉しくて思わず飛び跳ねてしまった。

早速支度をし始める。

支度が終わった頃、司は私を見るなり

「かわいい」と褒めてくれた。

この人の言葉一つ一つが嬉しい。

「えへへ、嬉しい!」

そう言い、私たちは家を出る。

「何が欲しい?」

司は聞いてくる。

「お洋服!」

私が答えると笑って

「いいね、新しいお洋服を着た綾を見るのが楽しみ。」

こんなの惚れるに決まってる。

私はこう言う。

「これからもっともっと幸せになろうね!」

「ああ、そうだな」

こんな日常会話をしていた。


この幸せがずっと続くと思っていたのに。


それなのに神様は俺たちの味方をしてくれなかった。

買い物が終わって、綾が満足しながらルンルンで歩いていた時。横断歩道は青だった。

綾はそれを確認した上できちんと渡ったのに

車がものすごいスピードで走ってくる。

間に合わなかった。一瞬だった。

綾は叫んだ。俺は何も口に出せなかった。

行動にも移せなかった。

辺りが騒がしくなって救急車の音も聞こえてくる。俺はパニックになってしゃがみ込む。

病院に運ばれ緊急手術室に入る綾を見ていた。

何とかしてくれたみたいだ。

しばらく入院だそう。神様は今度は

味方してくれるだろうか。

救ってくれるだろうか。

どうか、味方をしてください。救ってください。そう願うばかりだった。

綾はずっと眠っている。

毎日病院に来ては綾の手を握った。


そんなある日綾は俺の目の前で静かに息を引き取った。

泣きもせず、喋りもせずに亡くなったのだ。

俺はもう何も考えたくなかった。

泣きながら俺はもう喋らない綾に話しかけ続ける。

「なぁ…なんで…幸せになるんだろ…?俺を置いていかないでくれ…」

こんなことを繰り返し言っていた。


司が泣いている。なんでかは分からない。

ふと周りを見ると私が病院のベッドに寝ていた。

「…私は…死んだの…?なんで私はここにいるのに司はそこにいる私を見て泣いてるの…?」

頭がいっぱいになった。

そうだ、私は車に轢かれたのだ。それから救急車の音がうっすらと聞こえ、私は運ばれた。

そこからの記憶は無いが、現状がこうなっているのだから、恐らく死んだのであろう。

司の近くに行ってみる。やっぱりだめだ。

気づかれない。どうにか慰めてあげたいけど

もう司と同じ世界に居ない私には到底できなかった。

お願いだから私のこと忘れて幸せになってね。

って言いたいけど苦しい。私と幸せになって欲しかった。私の死は自分の不注意ではない。

車の運転手側だ。あの時間さえ狂わせれば

こんな目には合わなかった。

そんなことを言っている私はもう司のことを

狂うほど愛している。

離れたくなかった。でももう離れなきゃならない。私はまだ死んだからいいけど生きている司はどんなに悲しいだろうか。司の立場になると胸が苦しくていっぱいになる。

司に触れようとする。やっぱり無理だ。

でもなにかに気づいたみたい。


「…綾…?」

なんだか綾が俺に触れたような感覚がした。

そんなはずはないのに。

俺は誰よりも綾のことを愛していた。それも

狂いそうなほど。

それはきっと綾も同じだろう。

俺はそれからというもの鬱病になった。

最愛の人を亡くし、また新しく好きな人を作る気力も湧かなかった。

綾が亡くなった日、綾のご両親にひたすら謝った。

でも綾の親は優しく、

「大丈夫ですから、今は自分のことを」

と言ってくれた。

俺は泣き出してしまった。

俺は毎日綾の実家に行き、仏壇に向かっては何か一言言ってから帰る。それを繰り返していた。

それから何年か経ったある日、そろそろ自分も

切り替えようと思い、綾の実家に通うことも最後にしようと決めた。それを綾の両親に言うと、綾とよく似た笑顔で

「分かりました、またいつでもいらっしゃってくださいね。綾といつまでも待っています。」

と言ってくださった。

そして今日、俺は仏壇に向かって

「綾、ごめん。俺がデートに誘わなかったらあんなことにはなってなかったのにな。本当にごめん。これからも忘れない。だけどちゃんと幸せになってみせるよ。」

本当はこんなこと言いたくなかった。

だって俺は「綾」という決められた人と

幸せになる予定だったから。

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幸せになる予定だった。 オリスケ @Orisuke666

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