再延長戦⑥ カレー編のキャラ達(包丁人味平):名エピソードを彩ったスパイス達
最新シリーズをリクエスト編にしたので、今までの作品の中で読者様からリクエストを頂いた作品はそちらにお引越しして、空いたスペースでまた好きな脇役、やられ役を語って行きたいと思います。
今回は再延長戦⑥のドカベン(土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)様リクエスト)と入れ替わりで、元祖グルメ漫画の『包丁人味平』より、一番の人気シリーズのカレー編を彩った脇役、やられ役たちを取り上げたいと思います。
さすがにかなり昔の漫画(1973~1977)なのでご存知ない方も多いと思われます。なので例によってあらすじを追って行きましょう。
名板前、塩見松蔵の息子として生まれた主人公、
しきたりで固められた昭和の料理人の世界の中、味平は何度も格上の料理人と勝負をし(さすがジャンプ漫画w)、その中で様々な料理の知識を積み重ねていくのです。
そして、自分が目指す『大衆の為の料理』を追求すべく、大衆=労働者と考えて、横浜の港湾へとたどり着いた所から、本作品の『カレー編』がスタートするのです。
ちなみに今回取り上げる『脇役、やられ役』は、なんとこのカレー編に登場する味平以外のほぼ全員です。
いつもに比べてえらく多いピックアップ人数ですが、その価値があるほどに登場人物たちが実にいい活躍を見せてくれているのです。
カレー編のストーリーを追いつつ、その登場人物を網羅していきましょう。
・佐吉さん
横浜に着いた味平と一緒に、止めてあったトラックで野宿していた労働者のオッサン。仕事中に事故に遭って働けなくなったところ、味平の稼ぎで入院費と借金の一部返済を助けてもらう。
ちなみにこの時佐吉の借金を取り建てようとした福助が他から取り立てて来た屋台を、味平が格安で借りてカレーの屋台を始めたのがこのシリーズの事実上のスタート。
佐吉はその後ずっと味平のカレー店を手伝いつつ、年長者として若者達にお節介を焼いたりする、いわば味平カレーの親父的立場になる。
・マイク・赤木
本シリーズの二大ライバルの一人。若い頃に単身アメリカに渡り、スキヤキと天ぷらで大儲けして成り上がった若き実業家。
自らの経営するカレーショップ『インド屋』を日本全国に広め、カレーによる日本征服への野望を燃やす。
港湾で見かけた味平の「どんぶりカレー」を、労働者相手の辛いだけのエサだとばっさり切って以来、味平との長い勝負に突入することになる。
ちなみに口では味平カレーをけなしつつも、常にそれを認め、また脅威と感じている。
・大吉
屋台ラーメンを経営。関東の人にも関西の人にも「うまい」と言わせるその腕に惚れ込んだ味平が通いつめ、味平カレーの店を出す時にそのお客を見る目を見込まれて勧誘された。最初は断ったが、味平の意気を汲んで参戦。
以来味平カレーの強力な料理人として、また卓越した料理の知識をもったブレインとして活躍を続ける。
・梨花
暴走族『ブラックシャーク』の女リーダー。家庭内で上手くいってなかった事で荒れていた。味平の屋台に立ち寄った時、部下の一人がカレーの鍋にタバコの吸い殻を捨てた事から乱闘になる。
ボロボロにされてもめげずに商売を続ける同年代の味平に感化され、自主的に味平カレーを手伝っていく事で人生に希望を見出す。
ちなみに後々、味平カレーが屋台連を作った時、ブラックシャークの面々も総出で手伝いをすることになる。
気が強く短絡的に行動するが、それが功を奏する事も度々ある。特にインド屋への対抗手段として、味平カレーを大徳デパートに紹介した功績は大きい。
・香川
梨花の父親にして、全国に支店を持つ「大徳デパート」ひばりヶ丘支店の店長。同時期に駅の反対側にオープンするライバル百貨店「白銀屋」との客取り合戦に自らの進退をかけて挑む。
白銀屋がカレー店「インド屋」を誘致した事から、それに対抗するカレーショップを探し求めて奔走。味平カレーを迎え入れた後も苦戦の連続で、終盤にはついに辞表まで出した。
真面目で真っすぐな性格化と思いきや、ひそかに白銀屋の重役と料亭で情報交換(スパイ行為)をするという、大企業の役員らしいしたたかさも持つ。
・大徳
大徳デパート社長。ひばりヶ丘デパート合戦に際し、ライバル白銀屋からインド屋を自分の陣営へと引き抜こうとした際、その店の前で「雑煮カレー」をヒットさせている味平を見出してスカウトする。
経営の剛柔を兼ね備えた凄腕の社長。先見の妙を持ち、目先の利益ばかりを気にする重役たちをボンクラと称する気概の持ち主。
・福島
大手デパートチェーン「白銀屋」の社長。ライバル大徳デパートとの競合に際し、人を集めるのは食い物だと真っ先に発案し、インド屋という強力な切り札を抱き込んだ。
経営にはシビアで、大徳に比べて人情より利益で割り切るタイプ。先見の妙は大徳に匹敵するものがある。
・
本シリーズ二大ライバルの一人。その名に恥じぬ嗅覚を持つカレー職人にして、インド屋のチーフコック。
味平が「味平カレー」を極めんとするように、彼もまたカレーの求道を志して誰にも負けぬカレー作りを目指す。
味平が作ったお子様向けカレー「ミルクカレー」を一発で真似て作り、それ以上に子供受けのいい「スパカレー」を生み出し、あっさりと味平カレーから子供客を奪い取ってしまうほどの腕前。
スパイスの調合の達人であり、最後には味平のカレーを完膚なきまでに叩き潰す「ブラックカレー」を完成させる。しかしそれが……
・佐吉さんのアパートの住人達
味平達がカレーの仕込みをしているアパートの面々。度々試食をしてもらっているが、それが雑煮カレーやミルクカレーを生み出すきっかけとなった。
・西野専務
大徳デパート専務。現実主義者で最初から味平カレーの出店には難色を示していた。不利になる度に社長や香川に苦言を履き、ついには味平カレーを追い出して、別店舗”サンボ”に入れ代える。
・”サンボ”店主
実はインド屋の回し者。マイク・赤木が白銀屋のみならず大徳デパートもカレーで支配しようと、全く同じ味を持つカレー屋で占有を図るも、前日に好評を得た味平カレーの屋台に惨敗し、西野と共に冷や汗を流す羽目になる。
・漬物ばあさん
味平が福神漬けの効能を追い求めるうちに辿り着いた漬物名人。そこで味平が口にした朝鮮付け(キムチ)が、味平カレーの最終の形を決める事になる。
どうです? キャラクターの活躍を並べていくだけで、おぼろげながらストーリーが伝わって来るでしょう。
それはすなわち、このカレー編に登場するキャラクターすべてが、しっかりとこのシリーズの舞台装置としての役どころを背負っている、ということなんです。
無駄なキャラなんて一人もいない、誰か一人が書けてもこのカレー編が成り立たない。そんなキャラクター総出演のエッセンスが見事な物語を作り上げているんですよ。
本当、このカレー編の話を追っていくと、そのストーリーとそれに絡むキャラクターの構成の綿密さと、リアリティのあるソリッドな舞台に驚かされます。
子供たちの素直な感想が思わぬカレーのヒントになり、人生に迷った若者である梨花やブラックシャークの面々を『カレーを作って人を喜ばせる』という生きがいを与える。
全ての人が「おいしい」と言える料理をただ愚直に追い求める塩見味平と鼻田香作、そして大吉。
そしてそんな「味平カレー」の若者たちを見守る佐吉さん。
かつて社会の荒波に揉まれ、それを乗り越えて野望を完遂させんとする若き実業家マイク・赤木。
経営という闇の中、何とか生き残りそして勝利をと、表の顔と裏の顔を使い分けて戦いを繰り広げる大徳デパートと白銀屋の面々。
まさに子供から大人まで入り乱れた、一大スペクタクルの物語と言っても差し支えないと思います。
後のグルメ漫画「美味しんぼ」で、主人公の山岡がカレーを評してこんなセリフを言っています。
「美味しいカレー粉を作るには実に様々な香辛料が必要なんだ。カレーは香辛料のオーケストラなのさ、だから飽きないんだよ」
これって……そのまんまこの包丁人味平、カレー勝負編に当てはまる言葉ではないでしょうか。
「面白い漫画を作るには様々な役割のキャラクターが必要なんだ。漫画はキャラクターのオーケストラなのさ、だから面白いんだよ」
子供から若者、料理人、大会社の経営陣からおばあちゃんまで、様々なキャラクターが入り乱れて物語を構築したこのカレー編。
それはまるで様々なスパイスを持ち寄って調合し、極上の味わいを作り出すカレーとどこか通じるものがあるように思います。
そしてそれが”カレー編”というお話を成り立たせているという妙味。ただただお見事! という他は無いでしょう、
今では当たり前のグルメ漫画の元祖にして、ここまで完成度の高いシリーズを成した牛次郎・ビッグ錠の両先生に、心からの絶賛を送りたいと思います。
おまけ。
「そんなざっとしたキャラ紹介で話が分かるか!」という人の為のストーリー解説。ネタバレ注意。
ひばりヶ丘駅の北と南にライバルのデパートが同時開店。白銀屋はマイク・赤木のインド屋を誘致、大黒はいろいろあって味平カレーを雇う。
開店3日で味平カレー惨敗。西野専務のゴリ押しもあって3日後には”サンボ”に入れ代え予定だったが、子供向けミルクカレーによって持ち直したために延命。
スパカレーに子供客を持って行かれた味平、醤油を使った味平カレーを作り出すも、期限切れで大徳を追い出される。
それならばと白銀屋の店舗前に味平カレーの屋台を並べ、サンボとインド屋に閑古鳥を泣かせる。翌日からは大徳の前で屋台経営。勝負は一進一退に。
カレーの辛さを追求するうちに「カレーは辛いから美味い」の結論に達した味平。一方のインド屋、鼻田も究極のカレー「ブラックカレー」を完成させる。
果たして勝つのはどちらか? 以下はみなさんの目で確かめてみてください。
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