リクエスト③ 早乙女玄馬(らんま1/2):父親であろうとするロクデナシ
あーあ、やっぱり新シリーズ始まっちゃいました(苦笑)。読者諸氏の「やっぱりか」という呆れ声が聞こえてきそうです。
とはいえそろそろネタ切れ気味なので、今シリーズは読者の皆さんから「この作品の脇役なら誰を?」「あの脇役を取り上げて」等々のリクエストに応えていきたいと思います。
ちなみに初っ端から③なのは、延長戦で『大入 圭』様のリクエスト「本間左馬之助」を、再延長戦で土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)先生の「ドカベン」を取り上げたので、三人目のリクエストという事で「リクエスト③」なわけです。
というわけで今回は久保良文先生のリクエストで「らんま1/2」から、外道オヤジの
(私信)すいません。「バッカーノ!」探したけど見つかりませんでした<(_ _)>
また近々アニメ化が決定している作品で、高橋留美子先生の代表作の一つですからご存知の方が多いとは思いますが、一応簡単にあらすじを。
主人公の早乙女乱馬は、中国の奥深くにある修行場「呪泉郷」で呪いの泉に落っこちて以来、水を被ると女の体になるという変態体質になってしまっていました。
そんな彼が帰国後、親同士が決めた許嫁「天道あかね」と知り合い、様々なキャラクターを巻き込みつつ仲良く喧嘩していくというドタバタ格闘ラブコメディなのです。
ちなみに呪泉郷の犠牲者は乱馬のみならず、ライバルの響良牙(水を被ると子豚になる)や乱馬好き好き(乱馬が女になった時は仇敵)のシャンプー(水>猫になる)。果ては巨大なキメラに変身するパンスト太郎など、この変身ネタを生かした個性豊かなキャラクター達が入り乱れているのです。
さて、乱馬の父である早乙女玄馬。彼もまた呪泉郷の犠牲者であり、水を被るとパンダになるという、いかにも中国らしい呪いを備えていました。
が、そんな際立った個性が掠れるほどに、この早乙女玄馬というオッサンは実に濃ゆいキャラクターを持っていたのです。
何より息子を学校に通わせず、修行の旅に世界中へ連れまわすという時点でもう毒親決定なのに、修行仲間の天道家と勝手に子供同士の縁談(つまり許嫁)を組んだり、にもかかわらず屋台欲しさに久遠寺の娘とも許嫁にしたり(しかも屋台強奪の後逃走)と、ギャグマンガでなければシャレにならないレベルのクソ親父っぷりを発揮しています。
その上、都合が悪くなると水をかぶってパンダになり、「言っても無駄」な動物を装ってごまかそうとするあたり、まさに無責任を地で行くキャラと言えるでしょう。
さて、この男は先述の通り格闘家であり、師匠の八宝斎からいくつかを受け継いだ「無差別格闘早乙女流」という流派の始祖であります。
と言ってもそれほど立派な物でも無く、パンダの時のように相手にじゃれついて(見た目はハゲオヤジ)精神的ダメージを与えたり、敵前逃亡や土下座にまで仰々しい名前を付けて披露したりと、実に情けないギャグ技の数々を披露していました。
しかも修行に出る時、奥さんに「乱馬を男らしく育てられなければ切腹する」などとのたまって、あげくに乱馬を女に変身する体質にしちゃったから妻に合わせる顔も無く、挙句に開き直って変身してごまかすという情けなさまで発揮する有り様。
なんかもう、このキャラの美点を探す方が至難な気もしますが、漫画を見ているとそんな彼にもひとつだけ推すべき点があるのです。
それは彼がどんな時も、常に「たくましい父親」であろうとしている事でしょう。
彼はギャグギャラクターであるにも関わらず、特に乱馬に対してはその表情を大きく崩す事はほとんどありませんでした。
剥げた頭に手ぬぐいを巻いて、どこかインテリっぽい丸眼鏡をかけ、常にキリッとした表情を崩さない。しかも常に道着を身に纏い、立ち姿もどこか格闘家然としたポーズをコマごとに決める彼は、なるほど奇行を除けば確かに格闘家っぽく見えてきます。
これは私の偏見ですが、見た目で言うならなんとなく「刃牙」シリーズの愚地独歩氏に似たイメージがあります。
それは如何に恥を晒そうと無様を見せようと、男ならそれを恥じることなかれ! という彼の『父性』、つまりは父親としてのカッコつけな姿を常に息子の乱馬に見せたいという意図があるのではないでしょうか。
気にしている禿げ頭を直す秘薬が手に入った時も、決して嬉々としたりニヤケたりはせずに、真剣そのものの表情で「甦れ、緑なす黒髪!」と頭をぺちぺち叩く姿などは、なかなかにシュールな物を感じて笑いを誘います。
そう。彼は一言でいえば、ものすごい「カッコつけ」なのです。
格闘家というのは今でこそルールやマナーが色々と付きまといますが、昭和初期ごろまではとにかく「勝てば良し、負ければ死ぬ」などの傾向が強く、そのせいで「卑怯」や「無様」などと言うのを甘っちょろさとして否定されていた傾向が少なからずあったのかもしれません。
なので彼は逃げる時も土下座する時も、そのキリッとした表情をほとんど変えませんでした。ギャグ漫画であるにもかかわらず、です。
彼にすれば恐らく逃げる事も卑屈になる事も、「勝つため、死なない為にする最善の行為」という誇りがあり、恥じる何物も無かったのではないでしょうか。
ひょっとしたら彼は、女性作家である高橋留美子先生の思い描く、当時の『武道家』の具現化した姿であったのかもしれません。
でも肝心の乱馬には度々「このくそおやじ!」と蹴っ飛ばされて宙を舞う姿が描写されており、彼の望んだであろう「たくましい父の姿」を見せる事はあまり叶わなかったような気がします(笑)。
彼は基本トラブルメーカーであり、それを持ち込んだ後はパンダになってスルーするという無責任さを随所で発揮しています。
ですがそれは、物語の起承転結の『起』の部分の点火材、起爆剤としてコメディをスタートさせ、要所要所で真面目な顔して大ボケをかまして蹴っ飛ばされる。そんなお約束パターンを演じて、物語を進めるアクセント的な役割を果たし続けてたように思うのです。
この「らんま1/2」は基本、乱馬たち高校生のお話であります。なので玄馬や、あかね達の父である天道早雲、そして妖怪ジジババである八宝斎やコロンはある意味「別格」的な立ち位置にいると言っていいでしょう。
なのでいくら強烈なツッコミを入れられても、どれほど無様を晒しても、彼は大人然としてクールな表所を変えなかったのではないでしょうか。
八宝斎がドスケベジジイとして暴走し、早雲が乱馬の裏切りを懸念して妖怪化する中、玄馬は常に大人然とした態度と表情を崩さない事で、乱馬たちより一段格上な立場にいる事を示していたような気がします。
事実、体格や筋力なら大人と高校生の差はもうほぼ無いと言っていいでしょう。しかしその人格や経験、そして物事に対する考え方や、感情を押さえてむやみに発露しない胆力などは、やはり大人と子供の差があるでしょう。
彼の作中でのキリッと締まった表情やポーズは、そんな人間の完成度の一端を示していたのではないでしょうか。
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