再延長戦⑩ アドバーグ・エルドル(魔法陣グルグル):史上最強の脇役と呼ぶに相応しい男

 再延長戦もいよいよ最終回。名残惜しいですがいよいよラスト……って誰か信じてくれよヲイ(日頃の行いのせい)。


 ラストにふさわしく(まだゆーか)、作品の顔ともいえる超有名なキャラクターを推したいと思います。

 人気ファンタジー漫画、魔法陣グルグルのアドバーグ・エルドルさん。通称キタキタ親父さんです、お待たせしましたっ!


 タ~リラリラリラ・リリラリラ~♪(渾身のキタキタ踊り)


―あ、これ! 物を投げてはいけませんぞ、ブーイングは節度を持ってお放ちくださいですぞ~―



 気を取り直して作品紹介。

 この「魔法陣グルグル」は魔王討伐をテーマにしたよくある異世界ファンタジー物で、メインパーティとなる勇者と魔法使い、ニケとククリの珍道中を題材にしたラブコメファンタジーであります。

 親に半ば強制的に勇者にさせられて旅におん出された主人公ニケが、いにしえよりの秘術『グルグル魔法』を継承するミグミグ族の魔女っ子ククリと出会い、魔王討伐の旅へと世界に出る所から物語が始まります。


 ちなみに本作はどのキャラも3~4頭身ほど、魔物もどこか可愛らしくデフォルメされていて、魔物退治の物語にしてはグロさの全くない、お子様でも安心して見られる作品に……作品に……、うん。まぁ、そう。


 むしろ物語のメインは、ククリのココロが生み出すグルグル魔法で。ニケへの恋心を描いていくほんわかラブコメディだったりします……しま……そのハズです。


 だが、そんなドキドキラブコメディの流れを強烈にぶった切る男がパーティに参入するのですよ。それが今回取り上げるアドバ……いやもうキタキタ親父でいいでしょう。

 ハゲ頭に妙なハッパ付きティアラを被り、ちょび髭に首飾りの月桂樹。そして身につけている服装はという半裸、いや全裸寸前の状態。痩せ型の中年オヤジという事も相まって、


 も う 完 全 に 変 質 者 で す 。


 しかも事あるごとに『キタキタ踊り』という奇っ怪な踊りを披露するものですから、ニケもククリもお仲間も、しかも魔物までもが揃ってドン引きです。

 その蟷螂拳とうろうけんのような手つきと、ジト目を固定しての愛想のない無表情、体の各部が左右にスライドするようなカクカクした動きは、怪しい宗教すら採用しないような見事な? ダンスでしまくります。


 彼は元々キタ村の町長で、町おこしのために伝統芸能『キタキタ踊り』を復活させ、それを踊り子の女の子たちに踊らせることで町おこしに成功します。

 なるほど、本来は女の子が腰ミノを付けて踊る、フラダンスのような華やかな踊りだったのでしょう。


 が、どうやらその踊りは世に出してはいけないものだったらしく、その報いとしてキタ村には女の子が生まれなくなってしまい、キタキタ踊りを継承するものがいなくなってしまったのです。

 責任を感じたアドバーグは、自らがキタキタ踊りの後継者となって、継承してくれる女性を求めて世界中を旅している間に、ニケやククリと出会うことになるのです。


 ……いや、もっと他に方法無かったんかい(笑)。


 こうして彼はほぼ全編に渡って、ニケとククリのラブコメの空気をぶち壊し、苛烈なバトルの緊張感をぶった切り、怪しいダンジョンの空気をオヤジダンスで染めて行きました。


 誰かどうにかしろよこの自己顕示欲オヤジ。


主人公パーティ一同「いやです」

魔物たちご一行「無理です」

重要なキーキャラ達「かかわりたくないです」


 というわけで、彼のキタキタ踊りの後継者を探す旅は、ニケとククリに付きまといながら最後の最後まで続くのでありましたとさ。


 彼は立場としてはいわゆる『脇役』です。ニケとククリのラブコメにも、勇者と魔王の戦いにも直接は関わらないのですから、立ち位置としては『村人A』と何ら変わらない存在なのです。


 ですが彼はその圧倒的存在感と、そしてどこか頼れる大人の空気をほんの少しだけ醸し出しながら出張り続ける、最強の脇役として物語にくっついて来るのです。

 RPGでいうなら、最初の村で出会った脇役Aさん「これがこの村名物キタキタ踊りですじゃ」というキャラが、ゲームのバグでいつまでも画面に残って、重要なイベントで思い出したように「これがこの村名物キタキタ踊りですじゃ」と自己主張バグセリフを続けているようなもんでしょう。


 そして筆者の私は困った事に、こういうキャラが大好きなのです(オイ!)。


 彼には場の空気を捻じ曲げるという途方もない磁力がありました。それは物語の進行を阻害するというだけではなく、いつかこの物語が『キタキタ親父の珍道中』に捻じ曲げられかねないほどの重力を持っていました。

 鬼才、漫☆画太郎先生の『珍遊記』でも、こういった濃いキャラクターにお話を乗っ取られる場面がありましたねぇ。

 幸い本作はそういう事も無く、キタキタ親父は物語をオヤジの肌色に彩る(やめんか)アクセサリー的な存在として(こんなアクセ絶対嫌だ)作品を盛り立て続けました……主に大暴投の方向に。


 同時に彼はニケとククリの旅中にあって、大人としての視点で彼らを見守るという側面もありました。 何せニケもククリも十代前半(そんなお子様が魔王討伐?)なので、一人大人がいると少なからずパーティの空気が落ち着くのです。

 実は私はそんな彼の立ち位置も結構好きで、自分の小説「にんげんホイホイ」の主人公にも落とし込んでいたりしてます。フラダンス躍らせてるし(笑)



 ちなみに今ちょっとした話題になっている?『わきおにぎり』の元祖も彼だったりします。

 オヤジの腋で握ったおにぎりなど気色悪いの一言でありますが、もしそれが美人の腋で握られた物であるなら、むしろご褒美であるとのネタから来るものでありますが……どっちにしろ不衛生であるので絶対にやめましょう(当たり前だ)。

 こんな所もキタキタ踊りの『オヤジじゃ嫌だけど美女なら歓迎』な部分と被っている所がまた恐ろしい(汗)。


 そもそも作者様の衛藤ヒロユキ先生、このキタキタ親父と言うキャラクターを一体どういう意図があって作品に登場させたのでしょうか。

 一言で言って全く異質なキャラクターを物語にぶち込んだりしたら、それだけでお話そのものを壊す危険性があります。現にラブコメとも勇者の物語とも全く繋がらないキモいオッサンの踊りは、無くてもお話の進行そのものには全く影響のないものだったと言わざるを得ないでしょう。


 しかし、この『魔法陣グルグル』というお話においては話は別です。


 彼は本作に必要不可欠な存在、いやむしろ本作の象徴、トレードマークといっていい程に輝かしい活躍と人気を博し続けたと言っても過言ではないでしょう。

 ファンならば魔法陣グルグルの名を聞けば、あの怪しい踊りを舞うキタキタ親父の姿が真っ先に思い浮かぶでしょうから。


 ただの脇役をここまで昇華し、異質なはずの存在を見事にスト-リーと融合させる。ただの脇役のはずの彼のキャラクターをとことんまで押し出して、『これぞ魔法陣グルグル』と言わしめるほどのカラーを示す。


 お見事、という他はありません。



 私はこのエッセイ「愛すべき脇役、やられ役たち」で幾人もの脇役、やられ役を取り上げてきました。

 物語の主人公補正、主人公特権に疑問を持つ私が、脇役ややられ役を自分に重ねて彼らの想いや活躍を汲み取るべく、エッセイにして書いてきました。


 そんなキャラクター達の中には、路傍の石のように蹴っ飛ばされてきただけのキャラもおれば、主人公に向こうを張るような輝かしい活躍をしたキャラ達も居ました。


 物語というものは基本、主人公の為にある物です。そして脇役やられ役たちは、どう頑張ってもその主人公の物語を飾るための装飾品、舞台装置としての枷を外す事は出来ないものです。


 しかし、このキタキタ親父に関してだけは、他の誰とも比肩しえないような強烈極まるインパクトを示して見せ、物語のとしての存在を完全にぶち壊す程の大活躍を見せてくれました。

 彼にとっては魔王ギリを封じる事より、キタキタ踊りの継承者を見つける事の方が大事なのですから。

 主人公の為に魔王討伐に同行し、ニケとククリのラブコメを支えて(?)来たのは、あくまでその『ついで』なのです。


 彼には彼の旅があり物語がある。それを登場時から外すことなく、強烈なインパクトを持つ見た目と踊りで、主人公そこのけの存在感を示した最強の脇役、アドバーグ・エルドル。


 キタキタ親父の活躍を大いに称えるこのエッセイを持って、再延長戦の最終回としたいと思います。


 今まで本エッセイをご愛読いただき、誠にありがとうございました。







次回予告。

とある脇役のひとりごと。(やっぱあるんかい!)


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