リクエストシリーズ

リクエスト① 本間左馬之助(花の慶次):哀愁の悪役ガマガエルさん

※8/11に「延長戦③」から、ここ「リクエスト①」に引越ししました。


 今回はいつもとはちょっと趣向を変えて、カクヨム作家の『大入 圭』様と『花の慶次』の話題が出た時に語った私のイチオシキャラ、本間左馬之助さんをご紹介したいと思います。


 ええ、もちろん大入 圭様にも『ええっ!?(あの)ガマガエルですか!?』と大いに感心頂きあきれはてられました(笑)。


 キャラ紹介いってみましょう。

 戦国時代末期、越後国(新潟県)佐渡島において、そこを支配する本間一族は内紛が絶えず、民は苦しみにあえいでいました。越後大名の上杉家は度々調停と指導を繰り返していましたが、改善の兆しは見られず、とうとう佐渡平定に乗り出します。


 そんな中、本間一族の中でもいち早く上杉家について、その先鋒として戦った武将こそ、本間左馬之助その人でした。


 ただ、そのキャラクターは誰がどう見ても「あ、こいつダメだ」と思わせるものでした。

 ハゲ頭に百貫デブ、戦場でなんかフライドチキンみたいなのをもぐちゃむぐちゃして臭そうなゲップを吐き、真面目に戦をする気もなく、挙句に焚き付けに来た伝令を射殺したりしちゃってます。


 上杉家に加担した主人公、前田慶次に「お前らには勿体無い」とヨロイかぶとを強奪され、挙句に尻を叩かれて無理矢理戦場に駆り出されて、たいした活躍もないままなんとか生き残って、本間一族筆頭の立場を得ますが……


 恩賞詮議の席で彼は口を滑らせ、上杉家臣の直江兼続にどつき倒された挙句、領地没収&追放の憂き目にあいます。最初っから最後まで見事なまでの卑怯者、ゲスキャラっぷりを披露しての退場と相成りました。うん、1ミリどころか1ミクロンも愛せませんわこりゃ。


 じゃあ、なんで私が彼を気に入っているかと言うと、ちょうど時期が良かったというのが一番の理由です。ジャンプ連載に彼が出て来た当時、私はまさに『脇役・やられ役』に注目しはじめた時期だったんです。


 当時ゲーセン青年だった私は、その時に一世を風靡したアーケードゲーム”ストリートファイターⅡ(以下”ストⅡ”)にがっつりハマっておりました。

 ストⅡの大きな魅力の一つとして、人対人の対戦格闘というシステムを確立させたというのがあります。その成功の大きな要因として、8人の個性あるキャラクターを選んで戦えるという、今までにない画期的な要素を備えていたんです。

 つまり、(プレイヤーキャラ)という、当時類を見ない魅力があったんですよ。


 私は幼い頃から大相撲が好きだったこともあり、相撲取りキャラ『エドモンド本田(以下”E・本田”)』を愛用していました。

 ですがこのE・本田、ゲームストーリーの主役である人気キャラクター、リュウ・ケンに圧倒的に相性が悪かったんです。いわゆるハメ技というルーチンワークで小学生にさえボコボコにされ、幾多の百円玉が空しく吸い込まれて行きました。


 ですが私はめげずにE・本田を鍛えに鍛え上げ、ついにそこらのリュウ・ケンを圧倒する強さを身につけるに至りました。そんな私の腕を称賛する人も多かったですが、同時に嫌悪の目で見られることも多かったんです。


「E・本田のクセに、主役のリュウに勝つなんて生意気だ」(同じ日本代表)

「あいつすぐ投げハメ使いやがる」(自分はハメパターン散々使ってる)

「あんなブサデブがリュウより強いなんて許せない」(顔は関係ないだろ)


 ……いや、マジで当時はこんな人が多かったんです。少年漫画とかでありがちですが、『カッコイイ主役は何をやっても肯定されて、やられ役はブザマで卑怯が当たり前』な風潮が強かったですから(まぁ今も大して変わりませんが)。


 私はそんな経験を経て、初めて『主人公補正』『主役の為に作られた物語』というものを否定する認識を持ったんです。

 主人公は男前でモテモテ、やる事成す事全てが肯定され、敵対する輩はまぁ大抵がゲスで醜悪、読者の誰もが忌み嫌う見た目と行動をという事実を『悪役の視点から見ることで』気付けたんです。


 そしてまさにその当時『花の慶次』での佐渡編が連載されていたんですよ。


 左馬之助は作中では珍しい相撲取り体形で、E・本田使いの自分としてはちょい贔屓目で見たいキャラだったんですが……前述の通り、扱いはまぁ最悪でした。


 でも、彼の側から物語を見てみると、その扱いはあんまりにもあんまりじゃないかと思わずにはいられませんでした。


 この『花の慶次』という作品の特徴として、いい男は『いくさ人』と称されるケースが鉄板でした。戦国時代の少年漫画ならそれは当然で、合戦で華々しく敵を打ち倒す武将が人気を博するのは当たり前なのです。


 でも、現実的な見方をしたら、それはあくまで子供向けの創作でしかないのではないでしょうか。


 佐渡編で見たら『佐渡がゴタゴタしてるから指導し、それでもダメだから平定する』という、前提条件からしてありえない話です。戦国時代は国盗り時代であり、佐渡の本間家が弱体化してるならこれ幸いと一気に制圧するのが当たり前なのです。

 でもそれじゃ上杉家や、それに加担する前田慶次が侵略者になってしまいますから、いかにももっともらしい理由を付けて本間家を悪役に仕立てているのは明白でした。


 反して本間家はその『侵略を受ける』立場です。そんな中で左馬之助は上杉側につくことで『家名分け』をして、最悪でも本間家の名を残そうとしています。これは関ケ原の際の真田家にも見られた、弱者側のお家を残す為の苦肉の策でもあるのです。


 そして戦の際に左馬之助は「鉄砲は空に向けて撃て、敵とは言え同士の佐渡国人に当てないようにな」と指示しています。侵略者である上杉家に従いつつも、自国の民を守ろうとするその態度は、少年漫画のというフィルターを全て取っ払ってみたら、少なくともゲスな行為には見えないはずです。


 他にも本間一族は農兵の子供を人質に取り、老人まで戦に駆り出す暴虐さを披露しています。それに対して前田慶次は「百姓が米を作るから武士は戦える」と言って敵兵を成敗します。うん、かっこいいね『いくさ人』。


 馬鹿言うんじゃありませんよ。いくさの度に農民がどれだけ苦しんでいるかを知ってる人なら『いくさ人』なんて呼び名自体がどれだけ農民に嫌悪感を感じさせるか、歴史に詳しい人ならすぐ分かるでしょう。

 いくさと言うのは、農民の徴兵、兵糧の略奪、焼き働き(敵国の田畑を焼き払う)が当たり前の世界であり、それをせざるを得ない理由は他ならぬなのですから。


 戦争後、左馬之助が上杉家に取り入ろうとした時、彼らが囚人兵を使った事を褒め称え「囚人の兵ならいくら死んでも惜しくはありませんからなぁ」と言って怒りを買ってしまいます。

 対して直江兼次は、死した大男が持っていた数珠を握りしめ「彼らが死なねばならなかったのは貴様が真面目に戦わなかったからだ」と激怒し、左馬之助を殴り飛ばします。


 知 る か !


 だ っ た ら 侵 略 戦 争 な ん か 仕 掛 け て 来 る ん じ ゃ ね ぇ よ !


 弱小勢力ながら懸命に生き延び、出世の道を探ろうとした左馬之助。作中でハゲでデブ、臆病者で卑怯者な人格を押し付けられ、彼なりに真っ当な行動をされて、殴られ領地没収され追放された。そう考えるとなんとも哀愁漂うキャラではありませんか。



 最後に、彼の行いを現代日本に例えてみましょう。


 日本が大国(〇シアでも、チャ〇ナでも、なんならア〇リカでも)からの侵略を受けたとしましょう。

 あなたの住む地域は真っ先に占領され、敵兵に徴兵されて無理矢理、同士である日本人と戦わされるために最前線へと送り込まれます。


 自分達の銃口の先、目の前には家族や友人、ネッ友、そして同じ言葉を話す日本人がいます。


 その時、指揮官、本間左馬之助はこう命令しました。


――銃は空に向けて撃つように。こんなバカバカしい事で日本人同士が殺し合いなんてするこたぁ無い!――

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