再延長戦⑨ 大原大次郎(こちら葛飾区亀有公園前派出所):「両津のバカはどこだ!!!!」
いよいよ再延長戦も後二回! なので今回と最終回は、主役を食う程の活躍を見せたオジサン二人をピックアップしていきたいと思います。
今回はタイトルを見れば一目瞭然でしょう。日本の誇る少年漫画『こち亀』にて、主人公の両津勘吉の直属の上司である大原部長の登場です。
彼はタイトルにもなっている葛飾区亀有公園前派出所の
それでも彼はめげずに両津にカミナリを落とし、時には飲みに連れて行ったり貯金を勧めたりと、上司としてまた真面目な指導者として、両津を真人間に導こうと日々奮闘するのです。
というか同じ派出所に趙財閥の中川や麗子、どう見てもヤクザかと思う戸塚(警官が入れ墨してんな!)等がいて、まともに部長するのも相当しんどいはずなんですが、両さんの暴走が余りにも強烈なため、彼らでさえ癒しになっているような気がします。
さて、この大原部長というキャラクターを見て、ひとつ面白い点に気付く方も多いと思います。
そう、彼は主人公の両さんと全く正反対の人間として描かれているんです。
グータラで不真面目で遊び好き、そして無計画な両さんに対し、真面目で堅物、仕事と趣味をきっちりと分け、将来に向けてしっかりと人生設計をする部長。
反面、人当たりが良く、悩みや憂いを豪快に笑い飛ばし、行動する事でチャンスを逃さない。どんな事でもどん欲に取り込むことで、流行や時代の流れの先を常に行ける両さんに対し、部長はやや停滞思考で新たな文化に付いて行けず、時代に取り残され気味という昭和世代独特の欠点を持っています。
そう、両津の長所が部長の欠点であり、部長の長所が両さんの欠点になっている。まさに絵にかいたような
二人は立場や歳の差から、友人と親子の中間のような関係を続けています。
時に一緒に旅行し、新年には部長の家に乗り込んでおせちを食い漁り、部長の娘さんのひろみさんを巡ってドタバタを演じ、そして時にはお互いに無い長所を認めて、心の中で評価したりしています。
反面、大喧嘩をする事も多いのがこの二人。お約束のオチである「両津のバカはどこだ!!!!」の大ゴマをはじめ、様々な罰やオシオキで〆る話も数多くありました。
町内会のイベントでチャンバラの役どころでモメた挙句にどつき合いに発展したり、両さんの悪さが過ぎて辺境送りになった時に部長が嬉しさに顔をゆがめたり(でも後に心配したりする)、部長の派出所内の綱紀粛正時には両津はついていけないと辞表まで書いたこともありました。
この両津と大原の対比が、こち亀という作品を長く連載させた原動力である事は間違いないでしょう。
少年漫画で、中年二人のどつき漫才をメインのひとつに据えるっていうのも、ある意味すごい事だと思います。
大原部長は時にこち亀の良心回路として機能し、そして時にはつられてバカに付き合ってしまったり、オチでオーバーキルな兵器を用意したりして、しっかりとひとつの『こち亀節』を築き上げていきました。
ちなみに私はこの「両津のバカはどこだ!!!!」オチでは一番最初の白衣装束+マシンガンが一番気に入ってます。
「ますいな、部長に見つかったら銃殺だよ」
ヌッ「両津はいるか、ちょっと話し合いたいことがある」
(死に装束の白衣に、頭に『殺』と書かれたハチマキにロウソクを二本差し)
「ぎゃあーっ、それは話し合うスタイルじゃない!!」
こんなん大爆笑ですわ。
さて、そんな正反対の二人ですが、そんな中でも一番大きく違う事って何でしょうか。
私はいわゆる『
言い方を変えれば男らしさ、男としてどうあるべきかを、子供たちにどう見せるかという点にあると言えます。
部長の父親としてのいい所は、衣食住や収入、未来設計など、一家の大黒柱としてやるべき事をしっかりと果たしている事でしょう。彼の娘のひろみさんは、少なくとも家庭生活に不自由や不足は無かったはずです。
しかし大原さんは父親として、ちょっと教育を誤り気味な所があります。ひろみさんの初登場時はいかにもだらしない女子大生で、後に恋人を連れて来た時もそれを頑として認めようとはしませんでした。また、孫の大介君にも甘やかすばかりで、きちんとした男の背中を見せられていないきらいがありました。
これと真逆なのが両さんです。そもそも結婚すらしていない両さんが父性っていうのもヘンかもしれませんし、仮に結婚して出産したとして、ちゃんとした未来設計のない両津の子供に生まれたら、生活からしてさぞ苦労するでしょう。
しかし彼は父親として、子供の手本になる部分を非常に多く持っているのです。
捨て子の面倒を見る事になった回では、最初こそ「わしはスパルタ教育だからな、言うこと聞かなきゃ遠慮なくぶっ飛ばすぞ」などと怖い顔で迫ってましたが、寮に連れて帰ってからは風呂や飯などの面倒を甲斐甲斐しく見て(酒飲ませるのはアカンけど)、翌朝にはウルトラマンの人形を買い与えようとしています。
他にも財閥のご子息を保護した時、ラーメンを「まずいから食べない」といった子供を叱りつけたり、寿司屋に下宿した時にそこの娘の檸檬が学校で飼っていたハムスターを学生に面白半分に殺された時、執念で犯人を突き止め、警察官を辞める覚悟で鉄拳制裁に及び、檸檬ちゃんにきちんと謝らせたりしています。
この二人の父親としての在り方、いわゆる父性の違いこそが、そのままこの二人の真逆の人間像をよく示している気がするのです。どちらが良い悪いという訳ではなく、それこそが二人の男としての違いそのものだと思うんですよ。
なのでそんな中年のオッサン二人が織りなす物語は、時に楽しく面白く、そして時には社会の深刻さを示したりするのです。
宝くじ+競馬で当てた一億五千万円をふたりして一晩で使い切ったり、署員旅行で海に行って金を使い果たした両津を置き去りにしたり、時には両津にプラモやゲーム等を頼ってロクな結果にならなかったり、弱みを握られた部長が両さんにいいように使われたり(もちろんオチではお仕置き)と、ふたりの活躍には枚挙に暇がありません。
ギャグマンガにあって、こういう真逆のキャラクターをうまく絡めて、アクセルとブレーキをうまく操作していく。時にブレーキが壊れて暴走し、ハンドル操作が狂ってふたりで明後日の方向にすっ飛んでいく。これぞこち亀の真骨頂といえるのではないでしょうか。
無論この漫画には、部長絡み以外の話も面白い話が沢山あります。中川や麗子とのブルジョア関係の騒動、白バイ隊員本田との大捕り物、ヘンなロボットや変態刑事達との珍道中、売れないシンガー・チャーリー小林やゴ〇ゴみたいな新人の話、スーパーカーからアニメの時事ネタを取り上げる話、そして下町人情を描いた話などなど、さまざまな名話が40年にも及ぶ長期連載を支えてきました。
でも、その一番の支えになったのはやはり大原大次郎巡査部長と両津勘吉巡査長という、二人の大黒柱のお陰ではないでしょうか。
破天荒な両さんの活躍を現実に引き戻す部長の怒り。その役どころは作品をきちっと締めるのに大いに貢献したと思います。
最後に一つだけ。この二人って実は似た者同士でもあるんですよね。
なんかここまで書いた事と真逆の事を言ってる気がしますが、本当にそう思うんです。
それはまさに二人が警察官であるからでしょう。つまり二人の心の中にある『正義感』に限っては非常に似ているんですよ。
芯にある物が同じ方向を向いていて、それを飾る色は全くの正反対。だけど時にはどっちかがどっちかに染まってハメを外してしまう、そんな「おまわりさん」のユニークな日常を描いた名作漫画『こち亀』に、改めて拍手を送ります。
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