再延長戦④ カンタ(となりのトトロ):これぞ正しい小学生男子
前回の予告通り、今回もボーイミーツガールの初々しいキャラのピックアップです。
国民的ほのぼのファンタジー『となりのトトロ』より、カンタ君(本名、大垣勘太)
を語りたいと思います。
まぁさすがにこれだけ有名な作品ですから知らぬ方はいないと思いますが、文字稼ぎの意味も含めて(コラコラ)あらすじを少々。
昭和三十年代、都会から田舎の村に引っ越してきた父親と幼い二人の娘、サツキとメイが、村にいる精霊トトロと出会い、不思議な体験をするという和製ファンタジー作品であります。
長女のサツキは小学六年生。そして同い年のお隣さんでクラスメイトでもあるのがカンタ君なのです。
ちょっとここで小話を。
創作のボーイ・ミーツ・ガールというのは、例えキャラは少年少女でも、それを描くのはまぁまず大人です。そしてそこにはやや大人側から見た『願望』が、どーしても注入されがちになるものです。
男の子は明るく真面目で、そして出会った女の子に対してカベが無く積極的。女の子の方もどこかお姫様お姫様していて、少年の好意をわりとスッと受け入れるのがメジャーなパターンでしょう。
現に当時のジブリ作品でもそのへんは顕著でした。『未来少年コナン』のコナンとラナ、『風の谷のナウシカ』のナウシカとアスベル、そして『天空の城ラピュタ』のパズーとシータ。いずれも男子の方は全く躊躇せずに女子との距離を詰めまくっています。
ですが、カンタは違いました。サツキたちが引っ越して来た日、母に言われておはぎを差し入れに行った彼は、突然サツキと出会うなり思いっきり委縮して一歩引きます。
そしておはぎの入ったおかもちを「ん! んっ!!」と突き出して、さっさと受け取れと言わんばかりに詰め寄ります。最後には投げるように手渡して脱兎し、距離が開いた所で「やーい、お前んちお化け屋敷ー!」と悪態をついて逃走します。
当然サツキの印象は最悪で、さすがにアカンベーを返して別れるファーストコンタクトになりました。
で、おはぎを食べながらその事をお父さんに報告すると、彼は笑ってこう返すのです。
「ははは、そういうのお父さんにも覚えがあるなぁ」
うんうんうんうんうんうん、あるあるあるあるあるあるあるある!!
日本人の男性ならまずある経験でしょう。思春期前の小学生男子として、まさに見本のようなリアクション、そして心理描写でございました。
小学生低学年あたりでは、男子と女子ってほとんど意識し合わないんですよね。ところが高学年になって来ると、どうしても異性としての意識が芽生え始めてしまうんですよ。男子は特に『憧れ』、『モテたい』『キャーキャーいわれたい』としての意味を含めて。
それは逆に言えば、女子にモテる男子を『羨ましい』と思うとも言えるのです。つまり女子と仲良くしてる男子は羨ましがられ、嫉妬されて仲間外れにされる怖さがあるんです。
そして「女子と仲良くするなんてスケベだ」というのがまだ正義であるお年頃、ましてやサツキが都会的な垢抜けた美少女である事を考えたら……
間違っても「サツキに気がある」なんて気取られてはいけないのです。だからこそ彼はああいう態度を取ったのですよ。
別に本気でサツキが嫌いなわけじゃないんです。むしろすっごく惹かれるからこそ、その想いを悟られてはいけないと意固地になる、そんなお年頃なんです。
でも、カンタがサツキに気があるのは作中内でもバレバレでした。授業中に彼女の事をチラチラ見ては先生に頭をハタかれ、クラスメイトにくすくす笑われる様を見ても明らかでしょう。気付いてないのはサツキだけなのかもしれませんね。
学校にサツキの妹のメイがやって来て、先生の好意で下校まで一緒に過ごすエピソードの時、雨に降られて雨宿りをする姉妹にカンタが傘を渡すシーンがあります。
相変わらず「ん!」と仏頂面で突き出し「受け取れよ」と言わんばかりに傘を押しつけて、自分は雨の中を濡れて走って帰ります。
でも、雨に濡れて帰る際中、カンタは思わず笑顔を見せるのです。自分がサツキの為にカッコイイ事が出来た事に嬉しくなって、もしかしたら好かれるかもなんて下心を芽生えさせて、ご機嫌で泥だらけになりながら駆けていくのです。
これ、もし雨に降られているのがサツキだけなら絶対に出来ないでしょうね。幼いメイちゃんがいるからこそ「小さい子が風邪を引いたらいけないからしょうがない」と言う言い訳を成り立たせられたからこそできたのです。
カンタの心理を今風に言うなら「雨グッジョブ、メイちゃんグッジョブ、俺ナイス」な感じでしょう。
実際、その件を経て二人の距離はやや近くなります。顔を見ればアカンベーを返していた二人は、なんとか「サツキ」「カンちゃん」と呼び合える仲になりました。まだまだ友達といえる程度のものですし、他の男子たちがいる前では決して仲良くは出来ないでしょうけどね。
終盤、メイが行方不明になった時には、彼は自転車を三角乗りしてサツキの母の入院する病院まで行こうとします。母との再会を楽しみにしていたメイが、そこに行こうとした可能性が高いからでした。
結局、自転車がパンクして帰ってきた時には、メイはサツキに懇願されたトトロの力によって発見され、無事に村に帰ってきていました。
でも、結局役に立たなかったカンタに対して、サツキは嬉しそうにメイの発見を告げ、そしておそらく彼に「ありがとう」を告げていたでしょう、サツキは出来の良すぎる娘ですからね。
その後のエンディングロールでも、サツキとカンタは2コマ一緒にいるシーンが描かれていました。ひとつはメイも一緒に落ち葉焚き&焼き芋を焼いている場面、もうひとつはサツキ率いる女子軍団と悪ガキっぽい少年率いる男子軍団が睨み合っている絵面でした。そこでカンタはなんともバツが悪そうに後ろに引っ込んでいます。
ううん、どこまでも正しく小学生男子ですよ、カンタ君は。
この作品、その後サツキとカンタがどうなったのかは描かれていません。元々がほのぼのファンタジー路線であり、少年少女の青い春を描いたものではないのですから当然ではあります。
そして、この年頃の初恋っていうのは、たいていが実らない物なんですよね。夢の無い話ですが。
まだまだ幼い二人が、例え一度はお近づきになったとしても、結局は両者のワガママに振り回されてただの男子と女子になる可能性が極めて大きいでしょうね。
相手に気を使い、相手に合わせて行動する事が出来ない年齢なのですから。
むしろカンタを「頼れるお兄ちゃん」と認識していたメイちゃんと、将来は恋仲になるかもしれません(笑)。
次回作のジブリ作品『魔女の宅急便』で、主人公のキキがファンの間で「本当にリアルな女の子」と評されて好評を得ます。それは今までのお姫様的なヒロインと違い、女性なら誰でも経験のある少女時代を描かれていたからではないでしょうか。
でも、その前の作品で、実はリアルな小学生男子を描けているんですよねぇ。まぁ当のカンタは主人公でもないただの脇役ですから、あまり注目はされませんでしたが。
それでも彼を見てると、今時のベタ甘なラブコメと比べてずっとリアルな思春期前の少年時代を思い出させてくれます。そんな意味でも非常にいいキャラだったと思うのですよ、ありがとカンタ君。
……まぁ、自分はサツキちゃんみたいな美少女とお近づきにはなれませんでしたけど(号泣)。
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