再延長戦

再延長戦① 斉藤龍興(信長の忍び):歴史創作で大逆転を果たした男

 やっぱり続いちゃいましたこのシリーズ(笑)。


 だってやっぱり世のアニメや漫画には魅力的な脇役、やられ役がてんこ盛りですから。

 ま、まぁ来たるべきカクヨムコンテスト10へ向けて10万文字を突破したいという野望もあるんですけどね……カクコン9は中間審査で全滅でしたからねぇ。


 だからって、こんなマイナーエッセイが通ると思ってるのが作者クオリティです(苦笑)


 さて、再延長戦の初っ端という事もあり、今回は人気キャラを取り上げます。重野なおき先生作、歴史ギャグ4コマ漫画の『信長の忍び』に登場する斉藤龍興さいとうたつおきの登場です。


 この「信長の忍び」という漫画、4頭身程度にデフォルメされた戦国時代のキャラ達が、一応は歴史の通りに動きながらも、信長に仕えるくノ一主人公の千鳥や、その千鳥が好きで作品をメタな目で見る助蔵の活躍を描いた歴史ギャグコメディであります。


 この作品で面白いのは、何と言っても歴史上のキャラクターが、史実に基づいてを倍掛け、いや三倍掛けされていることでしょう。


 甘党で知られる織田信長は「天下一」を志して、甘いものを粗末に扱ったら打ち首とか、明智光秀は事あるごとに「君主を裏切るなんて許せない奴だ」などと『ザ・お前が言うな』的な発言をポンポン発しております。


 武田信玄は無類の温泉好きで侵略先で温泉を掘り当てさせているし、剣豪大名で名を馳せた北畠具教きたばたけとものりはわざわざ千鳥との一騎打ちを城主として受けるし、羽柴秀吉にはお猿が寄って来るし、細川忠興はスキあらば俳句を詠みまくるし、足利義昭は天然ウザキャラだし、徳川家康は脱糞と薬作りがキャラ付けになってしまっているという、なんともカオスなキャラクター性を持っております。


 そう、脇役ややられ役が非常にインパクトの強いキャラ付けをされているんですよ。うん私的に神作品決定!


 そんな中、今回取り上げる斉藤龍興さん。私は日本史にあまり強くないのもあって「誰?」という印象が強かったです。おそらくこのエッセイを読んでいる方の何パーセントの方も同じではないでしょうか。


 彼は大名、斉藤家の君主であり、祖父はかつて『マムシの道三』の異名を取った斉藤道三その人であります。道三の娘の帰蝶姫(濃姫)が信長に輿入れよめいりをした際の逸話「信長が気に入らねばこの小刀で斬れ」「気に入ったらお父様を斬るかもですよ」と言葉を交わしたのは有名でしょう。


 が、斉藤家は道三の息子の義龍が、父に謀反を起こし斉藤家を乗っ取りました。これにより血縁関係でありながら、織田家と斉藤家は敵対勢力になるのです。


 義龍が早世し、斉藤家を継いだ龍興ですが、彼はやがて信長に攻め滅ぼされて国を追われ、歴史からフェードアウトする事になります……あくまで戦国史に詳しくない人からみれば、ですが。


 ですが歴史研究家でもある作者の重野なおき先生にかかれば、その両者の攻防には実に多くの人とドラマが関わっていた事を学ばせてくれます。

 後の秀吉の軍師である竹中半兵衛が龍興に仕えていたとか、『美濃三人衆』がかつての道三の『国を信長に譲る』との書状によって信長に寝返り、結果難攻不落の稲葉山城が陥落したとか、歴史を浅くしか知っていない人にはためになる歴史豆知識がてんこ盛りに込められていて、歴史漫画としてもとても楽しめるものでした。


 んで斉藤龍興さん。登場時は完全にバカ殿様、ダメ城主丸出しの有様でした。肥え太った体にだらしない顔つき、毎晩のように酒宴を催し美女を侍らせ、戦は美濃三人衆や半兵衛に任せっきりで、しまいには呆れた半兵衛にプチ謀反まで起こされて反省を促される始末……そりゃいくら稲葉山城が堅牢でも堕ちますわこりゃ。


 彼は結局追放処分になり、浪人として体一つで放り出されることになりました。


 本作を読んでいて分かるのですが、織田信長という人物は意外に温情家で、別の言い方をすれば所がある戦国大名として描かれています(さすが甘党)。例えば謀反を越した部下を許したり、期待に応えられなかった光秀を身をとして救いに行ったりしてます(多分史実)。

 妻の帰蝶の甥である龍興を殺さず追放としたのも、そんな甘さから来たのかもしれません。


 私如きの歴史に疎い人間からしたら斉藤龍興のその後なんて知ってるわけがありません。というか「あー、道三の後で信長に滅ぼされたのって斉藤龍興って言うんだ、知らなかったなー」程度の知識でした。


 そんな龍興さん、重野なおき先生の手腕によって再登場するのです!

 なんとデブで自堕落だった彼が、作品一の超絶イケメン武将になって復活したのです。見た目だけじゃなく武術や学問を深く収め、信長の好敵手として何度も奮戦をしてみせました。


 これもこの漫画で知った事ですが、彼は宣教師のルイス・フロイスにキリスト教の教えを請い、そのせいもあってフロイスの歴史書『日本史』で英雄として書き留められていたそうです。

 おそらくはこの漫画の中でも、そんな評価を汲んで見事なビフォーアフターを成した『脇役、やられ役』キャラとして抜擢されたのでしょう。


 三好三人衆と手を組み、信長が神輿に担いだ足利義昭を襲撃、信長の最大の敵となる石山本願寺を参戦させ、後に朝倉義景の元に客将として馳せ参じ、朝倉家の滅亡まで武将として戦い続けて果てました。


 彼にはドラマがありました。かつてのダメ城主っぷりを悔い、一端の戦国大名としてその生涯を駆け抜けようとした、よくあるキャラとして、それでも歴史所の人物としてとても映える活躍の場を漫画の中で与えられた、いわば『信長の忍び』の中で、史実の評価大逆転を演じたキャラだったのです。


 普通の歴史物なんかだと、信長サイドを主人公とするなら、敵対勢力の面々なんかはかなり雑に描かれても仕方ない面があります。

 しかし、この『信長の忍び』という作品内に登場する脇役やられ役は、歴史の史実に基づいて実に生き生きと活躍し、ある者は埋もれ、ある者は散っていきました。


 そう、本作はギャグコメディ色を持ちながらも、歴史上の人物を決して『信長に蹴散らされただけの愚者』として描くことなく、脇役の一人一人にしっかりとで物語を仕込み、その生きざまを描き切った作品。私が知る歴史漫画の中でも間違いなく一番の名作であります。


 今回はそんな脇役、やられ役の中でも最も目立った活躍をした斉藤龍興を取り上げましたが、他にも私が知らなかった歴史の『顔』を持つ武将たちが鮮明に描かれていました。


 落ちぶれたと思われた今川氏真いまがわうじざね(桶狭間で敗れた今川義元の息子)や最後の足利将軍、義明の意外なアフター。

 暗愚と称された朝倉義景の意外な活躍、その朝倉家と浅井家を繋いだ偉人、朝倉宗滴あさくらそうてきの偉業。

 武田家内部の分裂と、その渦中で家を継いだ武田勝頼の苦悩。彼に仕える武将たちのそれぞれの思惑、そして滅亡に至るまでの各々の動き。


 私など知る由もなかった戦国時代のトリビアを、非常に印象深く教えてくれたのは、作者の重野先生が描いてくれた、実に印象深い個性を持つ『脇役、やられ役』の活躍によって、私の脳内に刷り込まれたと言っていいでしょう。


 先生が生み出した斉藤龍興を始め、印象深い個性を持つ歴史上の脇役たちに乾杯!

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