延長戦⑥ 高木優一(湾岸ミッドナイト):鉄とアルミと、ポエムの天才

 終わる気配もなく続きます本作。今回のヨイショキャラは首都高走り屋漫画『湾岸ミッドナイト』の板金屋のオッサンである高木優一氏です。


 この作品を端的に説明するなら、首都高を暴走する若者を様々なオッサン達が自分の人生に重ねつつ、ポエムを語って導いていく物語です。

 いや本当にこの漫画の主役ってオッサン達なんですよ。主人公のアサクラアキオの存在感がえらく薄くて、人生を賭けて挑むライバル達も走り出してからがやっと出番で、そこに至るまでのドラマは車をチューニングするオッサン連中の仕事と人生語りがメインだったりするんです。


 本来は若者の違反行為を嗜めなければならないオッサン達なんですが、何せ自分達も元暴走族だった事もあり、若者のスピードに憧れる感情を止められないのは分かってるんです。

 ならばとオッサン達は彼らが死なないように、無事に首都高を卒業できるようにと様々な事を若者たちに伝えていきます。その際に語られる人生観、いわゆるポエムの数々が名言として胸を打つんですよ。


 もうひとつ、本作の素晴らしい所は、いわゆる暴走行為を美化したり正当化したりと言ったことが全く無く、常に自分たちが社会悪である事を自覚しながらもそれを止められない、そんな葛藤が描かれている事なんです。


「公道で300kmオーバー、誰がどう考えたって反社会的で狂った行為、リッパな犯罪者だ」(地獄のチューナー、北見淳)

「たとえ自分が死ななくても、誰かを死なせてしまうかもしれないし。何しろ1トン以上の物体が走ってるんですから」(湾岸No1、ブラックバードこと島達也)


 走り屋漫画って、なんか自分たちの行為を美辞麗句で飾ってるのが多いんですよね。特に酷いのが「自分たちは走り屋であって暴走族じゃない」なんて平然と主張するキャラが幅を利かせてるタイプなんです。

 いや、公道を真横になってドリフトしまくるって、まさにれるように車をらせる(集団)やないですか。


 そんな問題から逃げないこの漫画。その根幹にあるのは、やはり理性や倫理のあるオッサン世代から若者を見守る、という視点が大きいと思います。


 っと、話がそれましたね。それでは本題である高木さん(からかわない)の話に行きましょう。



 彼は『ボディショップSUNDAY』の社長として、高級外車の修理を手広く手掛ける商売をしている、いわゆる儲かってる会社の社長として登場します。

 見た目が小太りでツルツル頭。夜な夜なクラブで遊びまわって、仕事となれば修理保険を見越して代金を釣り上げる、まぁ典型的な成金オヤジの立場でした。


 だが、公道でクラッシュした『悪魔のZ』を持ち込まれた事から、彼のドラマが動き始めます。

 その車のボディは、かつて自分が時速300km/hに耐えうるボディに仕上げ、湾岸の伝説を作ったものでした。


 それでも彼はそんな過去から目を背けます。かつては車に憧れ、師匠に殴られながら仕事を覚え、仲間にどやされながらも仕事に打ち込み、廃車寸前の車すら根気よく直して新車同然にまで回復させた腕の持ち主。

 でも背が小さくて気弱な彼は、仲間には甘く見られ、女性には距離を取られていました。そんな自分を嫌って仕事に打ち込むあまり、彼は輝かしい青春を得られなかったのです。


 ですが、そのZのオーナー、朝倉アキオが彼の元を訪れ、Zを直したいと頼み込む姿を見て、彼は再び社長から板金コゾーへと戻ることになります。


 ちなみにこの時のふたりの会話が、私の中で本作を名作に決定づけたのでした。


 モノコックまでグシャグシャになったZを自分で直すというアキオに、高木は「シロートじゃ無理だ」と告げます。そしてその後、ひとつの手のひらサイズの紙箱を手に取り、それを握りつぶしてこう説得します。


「例えばこの紙の箱だと思えばいい。一度こうやっては、


 何と言う、何という説得力!!。普通の車漫画なら例え滅茶苦茶に潰れた車でも、物語展開と言う魔法の力でキレイに治るでしょう。

 ですが彼は専門家として、あまりにも分かりやすく、かつ説得力溢れる言葉で主人公に明白に「NO」を告げたのです。


 このリアリティある言葉が、人生経験豊かなオッサン達の語り草ポエムこそが、まさに本作の真骨頂なのです。


 その後も多くのオッサン達が若者に向けて様々な事を語っていきます。エンジンを、ボディを、空力を、サスペンションを、燃調CPUを、そして暴走行為の無意味さを、会社経営を、人生哲学を様々に語り、若者たちに教えて行くのです。


 そんな中でも高木氏は誰よりも車を愛し、車が傷付くことを恐れ、それに乗る若者たちの行く末を案じ、そして誰よりも専門的でわかりやすい、説得力のある知識を言葉にしていきます。


 成金の板金オヤジが語るポエムが心に響く漫画。そんな他にない魅力を持つのがこの『湾岸ミッドナイト』シリーズなのです。



 余談ですが、本作の裏の主役と言える『地獄のチューナー』北見淳氏。彼は主にエンジンチューン担当で、ボディワークの天才でありかつ経営上手な高木と一緒によく車を作っています。


 チューニング……北見淳、きた……あれ、どこかで?


 確かその世界にも板金の天才と、経営するメガネさんがいたような……しかも板金さん、高木さんと同じようにちょっと肥えてたタイプだったような?


 あ、そうか。メカドッk……うわなにをするやめくぁwせdrftgyふじこ(退場)

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