延長戦④ 加藤 葉月(響け!ユーフォニアム):文科系に飛び込んだ体育会系元気娘

 今回は京都アニメーションの花形作品の一つ「響け!ユーフォニアム」から、天真爛漫体育会系初心者(長いわ)、加藤 葉月かとう はづきちゃんを取り上げてみたいと思います。


 元々がライトノベルの有名作品という事もあり、この記事を読んでいる読者様で知らない方はほぼいないと思われますが、一応キャラ紹介を兼ねたあらすじを。


 北宇治高校に入学した主人公、黄前 久美子おうまえ くみこは、中学時代まで続けていた吹奏楽を、高校でも続けるか悩んでいました。

 彼女には中学の時の大会で、チームメイトだった高坂 麗奈こうさか れいなとの温度差からくる確執(と思ってるのは久美子だけ)から、吹奏楽継続に腰が引けている部分があったのです。


 そんな時、彼女はクラスメイトの川島 緑輝かわしま さふぁいあ、そして葉月ちゃんの強烈な後押しもあり、結局彼女らと一緒に吹奏楽部に入部することになります。

 個性的な部の面々と、新たにやってきた顧問の滝先生と共に、吹奏楽の全国大会を目指して猛特訓! 


 そんな青春部活動活劇が本作『響け!ユーフォニアム』の物語なのです。


 さて、今回ピックアップする葉月ちゃんは、他のキャラクターには無い大きな特徴がありました。それは、彼女だけが全くの吹奏楽初心者だった、という事なのです。

 彼女は中学時代にはテニス部に所属しており、加えて童顔ショートカットのボーイッシュな見た目もあって、いろんな意味で吹奏楽部での個性が際立っていた、言い方を変えるとだったのです。


 そんな彼女が本作に与えた影響は、目立たないけどそれでも極めて大きいと思っています。本筋のドラマに絡まない彼女のは、作品に深みと鮮やかさを与え、面白さを格段に向上させた名脇役であると言っていいでしょう。


 まず、前述の通り彼女は初心者でした。ユーフォ(ニアム)をUFOと間違えたり、トランペットやりたいのに間違えてチューバのマウスピース(楽器の口を付ける部分、原則個人所有)を買ってきたせいでチューバの沼に沈められたり(主犯、田中あすか)、音を出すのにも悪戦苦闘して、先輩に「初心者らしくひとつづつ躓いているねぇ♪」などと評されたりと、いかにもなビギナーっぷりを各所で披露してくれています。


 他の主要な一年生キャラはそうではありません。久美子のユーフォニアムの腕前はそれなりに上等で、さらに緑輝のコントラバスや麗奈のトランペットは、先生や上級生すら一目置くほどのハイレベルなものでした。


 そう、本当に葉月ちゃんだけが全くの初心者、別の言い方をすればであったのです。


 ですがそれは、視聴者を吹奏楽の世界に導くという、大きな役割を担う事になりました。

 このテのアニメを視聴する人にとって、吹奏楽の世界を知って経験している人はそう多くないと思います。

 なのでこの未知の世界を彼女が初心者丸出しで頑張る事で、見ている側も吹奏楽がどういう物かを、彼女と一緒に学んでいけるのです。


 これは考えてみれば相当にすごい事です。周囲が全員経験者の世界に、まったくの初心者が飛び込んで大活躍する……少年漫画なら主役を張れますよこの娘。


 でも彼女が活躍するのは序盤だけで、中盤から後半にかけて彼女に出番はほぼありませんでした。全国を目指し、府大会、関西、全国とコマを進める北宇治にとって、それ以前のコンクールメンバーのオーディションで落ちた彼女は、画面の隅っこで荷物運びと応援をするだけの、完全に脇の存在でした。


 でも、彼女がそれを恥じることはありませんでした。



 この「響け!ユーフォニアム」という作品の大きな特徴として、いわゆるが、非常に大きく取り上げられています。

 久美子と麗奈の確執、先輩であった斎藤葵の脱落、オーディションでのトランペットソロ争奪戦、昨年のいざこざを引きずった鎧塚みぞれと傘木希美のトラウマ、そして田中あすかに覆い被さる深い影……


 一言で言えば、非常に作品でもあるのです。


 私の個人的な偏見ですが、これってある意味『文科系女子の持つ、良くも悪くもダークサイドな部分』の表れな気がします。思慮の深い文科系女子が、女性中心の集団の中で憧れや嫉妬、立ち位置やパワーバランスの中でいかに世渡りしていくか、そんな姿を赤裸々にとらえているのが、本作の大きな魅力の一つではないでしょうか。


 そして、そんな部員たちと対極の立場にいるキャラがひとりだけいます。

 そう、それこそが加藤葉月ちゃんなのです。


 元々体育会系の部活にいた彼女は、部員たち全員を最初っから仲間と捉え、誰に対しても壁を作る事無く接していきます。

 オーディションで年功序列か実力主義かでモメる場面がありますが、彼女だけはそんな問題に全く関与していません。それは体育会系なら実力主義が当たり前で、そもそも彼女にしてみたら、そんな事でモメること自体が信じられなかったでしょう。


 高校野球で一年生エースが甲子園のマウンドに上がり、ベンチ入りも出来ない三年生がアルプススタンドでメガホン叩いて応援する。それが当たり前なのが体育会系なのですから。


 つまりこの作品、見方によっては葉月ちゃんと、その他ほぼ全員の『脳筋ノーテンキ体育会系少女』と『ネガティブ思考陰キャ部活女子達』の対比が見事に描かれているのです。


 ああっ、ファンの皆様、石を、石を投げないで!


 冗談はさておいて、私はこの作品で文字通り孤軍奮闘する葉月ちゃんが大好きです。孤軍奮闘と言うと誤解されがちですが、彼女に力を貸し、協力をしていく多くのキャラ達は、間違いなく彼女の持つポジティブな魅力が引き付けた賜物であったでしょうから。

 他の誰でも、葉月ちゃんほどには「彼女が上手くなる手伝いをしてあげたい」と思わせるのは無理だったのではないでしょうか。


 劇場版『誓いのフィナーレ』では二年生になった彼女たちが描かれていました。その中でも葉月ちゃんは相変わらず明るく、清く、そして物事に対して真っすぐに挑む姿が描かれておりました。

 後輩の鈴木美玲の孤立を気にかけ、その美玲ちゃんにオーディションに負けた時も葉月ちゃんは悔しさを隠して「やったじゃん」と彼女を祝福します。


 オーディション直前まで、連日汗だくになってチューバと格闘し続けていた彼女が、です。


 彼女は一年の時も、二年になっても北宇治の快進撃を心から喜び、負けた時には我が事のように悔しがりました……


 だからこそ、私は彼女が好きで、そして応援してあげたくなるのです。



 さて、この作品は間もなく新作の三年生編がスタートします。


 ちなみにですが、私は小説版の方は未読です。そしてアニメに備えてネタバレ回避の為にも、小説を購入するのは少し待つつもりでいます。


 だって楽しみじゃないですか、果たして葉月ちゃんは今度こそラストチャンスをモノにして、コンクールメンバーに選ばれる事が出来るのか! いやもうワクワクが止まりません。


 ――さぁ、次の曲が始まるのです!――

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