延長戦② ライナー・チョマー、レナート兄弟(ガンダムビルドファイターズ):やられ役の陰と陽

 延長戦も二回目に突入です。今回はガンダムシリーズの異色作、ガンプラバトルをテーマにした「ガンダムビルドファイターズ」から、二組の世界大会出場選手を取り上げてみたいと思います。


 このアニメ作品、ひとつの大きな特徴として「主人公・ライバルキャラ側」と、「脇役・やられ役枠」がわりとハッキリしてるのが特徴だったりします。


 もちろん本エッセイで取り上げるのは脇役やられ役側のキャラです(断言)。


・ライナー・チョマー


 まずは彼。ドイツ代表のガンプラファイターの彼は、赤毛にひょろっとした体格、そして眠そうなジト目に軽薄そうな態度と、いかにも蹴落とされる脇役然とした見た目のキャラでした。


 そんな彼の活躍の舞台は、世界大会の予選の初っ端、全員参加によるバトルロワイヤルのシーンでした。

 何と彼は発売されていないガンプラ『1/255ガウ攻撃空母』を自作して参戦。おそらく実物大にして前後左右1メートルほどもあるガンプラを作り上げて来ました。うーん何というガノタの鑑!


 しかし彼は登場早々『イタリアの伊達男』の異名を取るフェリーニに突っかかっていきます。しかもその理由が「去年、俺の彼女を奪いやがって!」というまた悲しくも情けない事情からだったりします……はい、三枚目&脇役確定(笑)。

 

 冴えない顔のチョマーと伊達男のフェリーニ。この時点では誰もがチョマーのヒガミでしかないなぁ、と捉えるのが自然な流れでしょう。


 しかし彼のガウから、仲間のガンプラが6体登場し、そのファイター全てが彼女をフェリーニにNTRされた『フェリーニ被害者の会』のメンバーだったというのですから……。


 フェリーニが悪いんじゃねぇか、結局!


 この善悪のどんでん返しの展開から、チョマーはヒガミ陰キャから、哀愁漂うお笑いキャラへと昇格(?)する事になります。

 ま、まぁやられ役である事に変わりはなく、ガウを撃ち落された彼はその後もぱっとしないまま退場と相成ります、哀れ。


 とはいえ彼が作品に与えた、ちょっとポップな陽気さはなかなかに心地よいものになりました。美男子のフェリーニの悪事を暴露し、やかましく喚き散らした挙句にボコられて退場する様は、まるでド〇ンジョ一味やバイキ〇マンのような小気味よい味付けをしてくれました。


 主人公サイドではない『その他大勢』ではありましたが、そこに面白おかしいエッセンスを加えることで、私好みのインパクトある活躍をしてくれた彼に拍手を送りたいです。



・レナート兄弟(マリオ・レナート、フリオ・レナート)


 チョマーが陽なら、こちらは陰と言っていいカラーの持ち主。

 ガンプラバトル出場は基本一人ですが、二人ペアでの出場も可能で、彼らは兄弟でタッグを組んで世界の強豪たちと戦っていきます。


 そして決勝トーナメント、彼らは主人公のライバル、いやラスボスとも言うべき『メイジン・カワグチ』との決戦を迎えます。


 本作を視聴した人ならお判りでしょうが、このカワグチ、主人公であるセイ・レイジ組と決勝で戦う事が確立されていた、いわば世界のお約束の宿敵キャラでありました。


 つまり、レナート兄弟がここで負ける事は完全に予定調和だったのです。視聴している人もまさかここでカワグチが負けるなんて誰も思っていなかったでしょう。


 そして、それは作品世界でも同じでした。対戦前日に彼らがネットの評判を見て「どいっつもこいつも、メイジン、メイジン、か」と半ばあきれるように嘆きます。作品の中でも勝つのはカワグチ、負けるのはレナート兄弟とまことしやかに囁かれていたのです。


 そんな彼らが意地と底力を見せる回『ブラッド・ハウント』は、まさに私にとって神回の中の神回と言っていいでしょう。


 私が見た全てのシリーズ物のアニメの中でも、間違いなく三指に入る神回でした。


 カワグチ側がいかにも強者然としたケンプファーで出場したのに対して、レナート兄弟がチョイスしたのはなんと! そう。ガンダム世界でやられ役モビルスーツとして名を馳せたあのジムなのです。


 うおぉぉぉぉ! イカすぜお前らあぁぁぁぁぁ!!


 しかもそこからがまた素晴らしかった。本体と自走砲に身分けをした二人は、カワグチをドーム球場に誘い込むと、なんと1/255ジオン兵のモデル(小指の爪くらいの大きさ)を使って爆弾を仕掛けるという『タイムストップ作戦』を敢行します。


 ちなみにこれ、元祖ファーストガンダムにあった『時間よ、とまれ』という話のオマージュなのです。いやもうガノタの鑑のようなこの作戦、舞台がホワイトベースを隠した球場なのも相まって、実にガンダムらしい緊張の戦闘シーンとなりました。


 しかもそれを破られた(このへんはカワグチも流石のガノタ)後も、レナートのジムはEXAMというブーストシステムを起動し、なんとを追い詰めていきます!


 あのジムでですよ奥さん! なんて私好みの戦い方してくれてるんですか(歓喜)


 しかし残念ながら最後はカワグチの起死回生を食らって敗れることになります。


 ですがそれは、最初の狙撃で撃ち落とされた武器の場所を覚えていて、逃げながらもなんとかそこに辿り着いての逆転劇でした。

 絶対的なラスボスであるカワグチが、絶体絶命の境地から細い糸を手繰り続けて辛うじて逆転勝利をものにする、そんな必死さを出させただけでも、レナート兄弟は大健闘したと言えるのではないでしょうか。


 近年、雑に扱われがちな脇役やられ役キャラ。しかしチョマーもレナート兄弟も、ギャグとシリアスの両面から、しっかりと作品を彩ったのは間違いないでしょう。


 そしてガンプラバトルというテーマにおいて、この二組に巨大ガウ極小ジオン兵というガンプラを使わせて、戦いの自由度を大いに上げ、作品の世界観を広げた彼らは、間違いなく名脇役であったと言えます。


 ただのやられ役に、ガンダム要素をガッツリ凝縮した活躍の場を与えた。このアニメの制作陣とは、本当に旨い酒が呑めそうです(笑)



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