延長戦
延長戦① 佐久間 敬(サマーウォーズ):蚊帳の外の力持ち
完結したはずのこのエッセイでしたが、まだまだ世の中には愛すべき脇役、やられ役が多く存在してるんですよね。
なので延長戦に突入です。ピックアップしたいキャラクターと出会えたら、随時更新していこうかと思います。
今回は有名なアニメ映画「サマーウォーズ」より、主人公の友人ポジションである
今更説明不要な有名アニメ映画ですが、いちおう簡単にあらすじを。
世界中に繋がるネットワーク仮想世界『
高校の物理部に所属する主人公、
夏希は高齢のお婆ちゃんを安心させるために、健二を偽の恋人として連れて行ったのですが、そこでOZから受けた謎のメッセージを解いた事から、全世界を巻き込んだ騒動へと発展していく……という、ネット世界の混乱を題材にした物語。
で、今回取り上げる佐久間君は、健二とツルんでOZの保守点検のバイトをしていたんですが、夏希に声をかけられた時にジャンケンで負けて、残念ながら留守番組となります。
でも、それは不運なのではなく、最初っから彼が『脇役』という舞台装置に立たされていたからなのです。
いかにも主人公顔な健二と、実にモブ顔な佐久間君。二人を誘った夏希も、佐久間の名乗り出には間を置いたのに、健二の名乗りにはニヤリとして「計画通り」な表情を見せてます。
しかも彼女、新幹線の待ち合わせでも「佐久間君じゃこうはいかないよね」なんて言ってるし……最初っから健二だけが目当てだったのがバレバレですわ。
そんなこんなで長野に行った二人を待ち受けていたのは、最長老のお婆ちゃんの誕生日を祝うべく、日本中から集まった一族の皆様でした。健二は夏希の婚約者として、その輪の中に入る事になります。
本作品の大きなテーマは、この『一族』という集団の持つ団結力で困難を乗り越えるという、いわばオール・フォア・ワン(みんなは一つの目的のために)を描いている事なのです。うーん、実に私好み(笑)。
OZ内に侵入したウィルスAI『ラブマシーン』が暴れ出し、暗号を解いた健二がその張本人だと疑われた頃から、佐久間君は電話やパソコンを使って、様々な形で健二や陣内家をサポートしていきます。
でも、彼だけはその一族の輪の外にいる、いわば蚊帳の外な存在でした。
仏教の言葉に『体・口・心』というのがあります。相手の体を見て、相手の言葉を聞き、相手の心を感じる、それでこそ通じ合える関係になれる、というものです。
でも、佐久間君と陣内家は、通信を介してのみの関係でした。それは一族の力を結集して困難を乗り越えるという本作において、どこか彼を『部外者』として扱っているようなイメージを強く感じました。現に健二も途中まではそんな感じでしたし。
でも彼は、そんな立場にあっても全力で健二や陣内家、そしてOZの為に奮闘を続けます。
彼の奮闘を箇条書きして見ましょう。
・健二が解いたのが、OZのセキュリティを突破するコードである事を見抜き、伝える。
・ログインできなくなった健二の為に、ゲストアバターを収得。
・システム破壊者がAI(ラブマシーン)である事を見抜く(出所の特定も込みで)。
・ラブマシーンが他人のアカウントを奪い、社会の混乱を引き起こしている事を伝える。
・健二が解いたパスの最後の一文字が間違っている事、つまり犯人が健二でないことを証明。
・陣内家の反抗作戦開始時、物理部に泊まり込み(寝袋持参)で待機していた描写あり。
・ラブマシーンを閉じ込める際、彼が門扉を閉める担当。
・スーパーコンピューターの熱暴走に気付いて指摘。
・衛星落下まで一時間の時点で、陣内家に合わせて食事(パンと紙パックコーヒー)。
・花札対決時、自分のアカウントを夏希たち陣内家に賭け金として提供。
・衛星落下直前、ラブマシーンが使用したログを辿ってGPSを狂わせる方法を示唆。
……あれ、なんか活躍しすぎじゃね?
終始物語の中心にいた健二や花札勝負で勝った夏希、そして多くの人たちの協力を取り付けた栄おばあちゃんはともかく、他の人よりぶっちぎりで活躍してるじゃないですか。
正直、なんでここまで、って思いますよね。
彼はOZの保守点検のバイトをしてましたが、それは末端の末端の末端のレベルで、彼がそこまでOZに尽くす義理は無いんですよ。
陣内家に関しても、単に友人の健二が行ってるってだけで、(彼自身は知らないけど)実は夏希にハブられていた彼が、ここまで尽くす必要は正直無いんです。
なにせ夏休みを迎えるにあたって「夏と言えばスイカと花火と女、女、女だろ」って言ってたくらいだし、脈の無い夏希は健二に任せて、自分の為にナンパでもしてりゃ良かったんですよ。
でも、彼は陣内家に縁がないまま、彼らの為に八面六臂の活躍を続けます。それは関わったがゆえの義務感、責任感もあるでしょう。バイトとはいえOZ保守点検の責任を果たそうとしたこともあるでしょうし、コンピューターやネットワークに長けた自分がやらねば、という自負もあったことでしょう。
でも、一番の理由は、彼が作品内でそういう立場にあった舞台装置だからじゃないでしょうか。
物語を円滑に進めるために用意されたスーパーアドバイザー。でも彼だけは陣内家との一体感をまるで出せない、『蚊帳の外の力持ち』としての扱いだったのです。
物語を作るにあたって、そこまで脇役に気を使えなどとは申しません。そんな所に拘るのはまぁ私くらいのもんでしょうし(笑)。
でも、でも……この名作に一言、ひとことだけ言わせてください。
せ め て 最 後 の
こんだけ尽くしてきた彼に対して、いくら何でも薄情すぎませんかね陣内家。
少なくとも太助さんや
最後の『
エンディング前でも佐久間君は暇そうにしてたし、何よりあのお婆ちゃんは『一緒にゴハンを食べる』事を絆としてたみたいなのに、最後まで彼をその輪の中に入れないのは、いくらなんでもちょっと可哀想というか……
ま、まぁ彼が健二と夏希のイチャイチャに水を差すまいとして、お誘いはあったけど断った、と解釈しておきますか。
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