第8回 高橋めぐみ(宇宙よりも遠い場所):驚異の最大瞬間風速②
今回の登場人物は、宇宙(そら)よりも遠い場所(略称「よりもい」)より、主人公の玉木マリ、通称キマリの親友として登場する高橋めぐみ(通称めぐっちゃん)です。
まずは作品を紹介。この「宇宙よりも遠い場所」は2018年冬アニメとして1クール放映されたオリジナルアニメーションです。
ちなみに2018年冬アニメは近年まれに見る豊作シーズンで、ゆるキャン△(1期)、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、からかい上手の高木さん(1期)、ハクメイとミコチ、恋は雨上がりのように、ポプテピピック、オーバーロード等々、数々の人気作品がしのぎを削り合っていました。
そんな中でこの作品は様々なランキングサイトで堂々一位や二位を取り、そしてなんと、あのアメリカの有名新聞「ニューヨークタイムズ」に、2018年の「ベストインターナショナル番組」に選出されるほどでした。
多くのファンより「平成最後の名作」とうたわれた本作、なのにいまいち知名度が低いので少しあらすじを追って見ましょう。
主人公のキマリは高校生になってもやりたいことが見つけられない、一歩踏み出せないでいました。
ある日中彼女は南極に行くことを目標とする同級生、
その過程で知り合った
ここまで読んで「あれ?」と思った方もいると思います。この文章で取り上げるはずのキマリの親友のめぐっちゃんは、どこに……?
彼女は一話の最初からキマリの隣に居ました。幼馴染で付き合いも長かっためぐみは、キマリが何かしたいとの想いに応えて色々と世話を焼きます。
でも、キマリは決してめぐみを南極に誘おうとはしませんでした。
めぐみもまた、自分をハブって南極に行こうとするキマリに対し、その行動を裏で邪魔するような行動に出ます。
実は、キマリとめぐみは幼い時から、かなりお互いに依存している存在だったのです。キマリにとって「新たな一歩を踏み出す」というのは、めぐみからの依存や保護を離れて行動することに他ならなかったのです。
めぐみの方もまた、キマリが自分を頼らなくなった事で、自分が依存する存在を失ってしまいました。
出発の日、めぐみはキマリの前に現れ、絶好を宣言します。
悪い噂や妨害工作をしていた事を白状、謝罪し、今まで自分がキマリに依存していた事を赤裸々に明かします。これ以上お互いが依存しあっていたら駄目になる、お互い違う道に歩き出さなけりゃダメなんだ、と。
キマリもまたこの時に気付きます。南極に行くのがめぐみから離れることを意味するのは自覚していましたが、それがめぐみをどれだけ傷つけていたかを全く自覚していなかったのです。
おそらくはまるで、母のように姉のように、「いってらっしゃい」「おかえり」を言ってもらえる存在だと思ってしまっていたのです。
「めっぐっちゃん! 一緒に、行こ。 南極っ!」
「馬鹿言うな、やっと一歩踏み出そうとしてるんだぞ、お前のいない世界に」
別れ際、彼女たちは高校生らしい未熟さで、別々の方向に歩き出しました。
そこからはキマリ、報瀬、日向、結月の四人の南極物語になります。道中の過酷な船旅、世界の果てに来た事への感激、そしてそこでの全力で裸の自分の心をさらけ出す毎日。
彼女たちが抱えるそれぞれの苦悩や後悔を、この白い世界で存分に発露していくのです。
その間、めぐみの出番は無きに等しかったです。たまに友達を語る時に数カット出たくらいで、この「宇宙よりも遠い場所」の物語からは完全に剥離した存在となっていました。
本作はキマリ達四人が南極に行く物語であり、そこに他人が介入する余地などありません。船に乗れるまでの苦労、乗ってからの苦闘、南極についてからの過酷な生活。それらは他人に構う暇など無い程の「彼女たちの壮大な物語」だったのですから。
そして最終回、壮大な物語もついに終わりを告げ、キマリ達は日本に、日常に戻って来ます。
エンディングロールをBGMに、彼女たちはそれぞれの生活へと戻るシーンが映し出され、キマリもまた家族との再会を果たします。
そして、放送時間が残り僅か数秒の所で、「それ」は起きました。
キマリがラインを使ってめぐみに「ただいま、帰ったよー」とメッセージを送ります。
即座に付いた既読の後、帰ってきた返信はこれでした。
「残念だったな」
(写真・オーロラを背景にダブルピースサインを見せるめぐみ)
「私は今、北極だ」
この時点で番組終了までわずか十五秒! 最後の最後にめぐっちゃんの手で、作品にとんでもない爆弾を落っことして行ったのです。
キマリはその結末に思わず目を潤ませて感動します。自分に壮大な物語があったように、めぐっちゃんもまた、この「宇宙よりも遠い場所」十三話分に匹敵する物語を画面の裏側で駆け抜けていたのですから。
僅か十五秒で壮大な物語を、視聴者とキマリに瞬時に叩き付けためぐみの物語。作中では決して描写されない、まさに脇役の物語をラストもラストにぶち込んだこの一言が、作品を見事に締めると共に、視聴者にもある感動を与えてくれました。
この世の中には「主役」も、「脇役」にも、等しく物語はあるのだ、と。
たった十五秒のストーリーテラー。高橋めぐみ嬢に、最大限の拍手を送ります。
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