第2回 ポップ(ダイの大冒険)・横島 忠夫(GS美神):主役を超える人気キャラ

 第二回は当時、少年漫画で人気になった「主人公の隣にいるキャラ」の二人。脇役キャラが主役以上の脚光を浴びることになった典型的な例です。


 何故この二人をセットで取り上げたかというと、連載時期が被っていたのもありますが、とにかく共通点が多すぎるんですよこの二人。


 十代半ばの少年、お調子者でスケベ、臆病で逃げ出したり強者の後ろに隠れたりと、当時の少年漫画の「情けないキャラ」のお約束パターンを併せ持つ典型例でした。二人ともバンダナしてるしね(笑


 そして、弱っちくて情けないキャラクターが、物語を通じて少しづつ成長していく様を描かれているのが最大の共通点です。


 主人公というのはいわば読者の「理想」です。創作物に夢を求める若者ほど、現実は甘くないことを身をもって知っているでしょう。

 ポップは、そして横島は、この「現実」からスタートして、徐々に「理想」の存在へと昇華していく、そんな点が個人的には大きく刺さりました。


 二人が成長のきっかけを見せるイベントから見て行きましょう。


 ポップのほうは獣王クロコダインとの戦いがそれでしょう。絶対に敵わない相手に尻込みして、ダイを見捨てマァムに罵られて、それでも逃げようとした時、同じように勇気を出せなかったニセ勇者一味の、まぞっほに活を入れられて、彼はようやく覚悟を決めます。

 強者には弱者の気持ちなんて分からない、でも同じような弱者にはそれが痛い程分かる、そんな葛藤が見事に描かれていました。


 横島のほうはVSバイパー戦がそれに当たるでしょう。頼みの美神を無力な子供に変えられ、彼の中に眠っていた「自分より弱い女の子を守る」という男らしさを少しだけ呼び起こされます。

 バイパーにビビりちらかしながらも、彼は必死のハッタリを武器に危機を乗り越え、なんとか美神の復活を成してバイパー撃退に成功します。


 ポップと横島、形は違えどどちらも「ほんのひとかけらの勇気」を振り絞って困難を乗り越える、そんな覚醒エピソードを持ってるのです。



 本格的に覚醒したイベントがその後に登場するのも共通点。


 ポップの場合はVSバラン戦がそれでした。ダイの記憶を消されて無力化され、勝ち目のない戦いに晒された時、彼は死を覚悟して単独行動をとります。過去の自分の情けなさを逆に利用してパーティから外れ、後に続く仲間に運命を託して竜騎衆に挑みます。

 救援に駆け付けたヒュンケルの助けもあってこの危機は乗り切りますが、後の竜魔人バランに相対した時、乾坤一擲の自爆技「メガンテ」を放ち爆死してしまいます。


 なんとこの時期、ジャンプの編集さんに「ポップ子供に受けないから殺そう」などと指示を受けてたという逸話があります。このメガンテはある意味そんな編集のリクエストに応えるのと反発するのの両方を実現した表現といえるでしょう。


 横島の方は「ゴーストスィーパー資格国家試験」しかないでしょう。

 ダメ元で出たこの試験に奇跡的に二連勝し、次の試合に生きて帰る事が出来れば正式なゴーストスィーパーの刺客を手に入れることが出来る状況で、よりによって悪魔メドゥーサの部下である雪之丞との一戦。魔装術を駆使する凶悪な相手に美神から棄権するよう指示されるが、逆にそれが横島のやる気を灯し、小龍姫の力が宿ったバンダナにその意気を汲まれて、あえて危険な相手に相対します。


 彼が初めて美神に頼らず、美神に逆らって危険に身を投じた、まさに物語の岐路になるイベントでした。


 ちなみにこの二人の覚醒イベントですが、当時アニメ化された時にはその直前で放送が終了してしまう所まで共通点なのですこの両者は(笑)。

 ダイの大冒険の方は最近再アニメ化され、かっこいいポップもたっぷりと見ることが出来ました。なのでGS美神の方も再アニメ化されないかなぁ……



あ、あと他にも共通点が(まだあるんかい!)


二人とも「好きな女性(マァム・美神)」と、「好意を寄せられる女性(メルル・おキヌ)」が別にいること。

 しかも見事にキャラかぶりしてるんですよ、マァムと美神はまだしも、メルルとおキヌちゃんってなんか似すぎてないですか。

 でもこれって当然なんですよ。マァムや美神は人の強さに惹かれる、いわば主役向きのキャラ(美神は実際主役)であるのに対し、メルルやおキヌは「人の弱さを汲み取れる」タイプですから。


 作品完結後、彼らがどちらの女性を選んだかを想像するのもまた一興でしょう。



 さて、彼らを語るにあたって、ひとつ欠かせない事柄があります。

 果たして初期の彼らは「情けないキャラクター」だったのでしょうか。


 漫画的にはもちろんそうです。仲間をほっぽり出して逃げ、女の背中に泣きついて助けを求める、これで読者にいい印象を与えるはずがありません。

 しかし漫画の中で、彼らはリアルな世界に生きています。私達にとって漫画の中でも、彼らにとっては純然たる「現実」なのです。


 もし貴方が街中でヒグマに出会ったらどうします? 隣に見知らぬ女性が居たとして、その人とクマの前に立ちはだかれますか?

 サーカスでライオンが暴れ出してオリから出た時、貴方はどうしますか?調教師の後ろに隠れるでしょ? 普通は。


 そう、彼らは最初からその世界において、読者の現実の視点で物を見る立場にいるんです。だからこそ彼らの成長には心惹かれるものがあるんですよ。


 ピンとこない人は、近くの遊園地でバンジージャンプが出来る所に行ってみて、発射台に立ってみればよくわかります。

 自動で動き出す他の絶叫マシンとは違い、最後の一歩を自分で踏み出さなければいけないバンジーは、その時に「死ぬかもしれない怖さと、そこから踏み出す勇気」をガッツリと要求されます。


 私が初めて飛んだ時も、その前に並んだ中高生が何人も長時間迷った挙句に飛ぶのを諦めていました。そりゃそうです、若い身空で身投げなんて出来なくて当然なんですよ。


 私もまた足がすくみ、止めようかなとマジで思いました。でもそんな時に何故かポップや横島の事を(当時は連載真っ最中)思い出しました。ああ、彼らが戦っていた恐怖ってこれなんだなぁ、って。


 無事飛べました。二人に感謝です。

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