深いところ
星合みかん
深いところ
人は、どこまで深いところまで行けると思う?
僕は特殊だ。
学校から帰ってバックをベッドへ放り投げ、無様に転がったそれの横で仰向けになり、お気に入りのヘッドフォンを付ける。音楽は流さない。
たったそれだけ。それだけで、どこまでも、どこまでも、どこまでも……僕は落ちていける。
眠りに落ちているのとは違う。
ベッドについていたはずの背中が急にふわっとして、真っ暗な世界へ沈んでいくのだ。
本当に、ただ落ちていくだけ。そこに『抵抗』という概念は存在しない。僕を世界の底へ沈める引力に、全てを任せてしまうのだ。そうすると、すごく落ち着く。世界は僕に優しい。現実の呪縛から解き放ってくれているような気さえする。
その世界は、不可逆的ものではない。僕自身の意識は関係なく、ある瞬間、突然帰ってくるのだ。世界の地の底と思われたその場所は、決まって僕のベッドなのだ。
どのくらいの間、僕は落ちているのか。それはわからない。不思議なことに、そこで現実と僕との間にギャップがあるのだ。僕は何時間、下手したら何日、何年とその世界にいるように感じている。けれど、帰ってきて時計を見ると決まって長針は六度しか動いていない。きっとあの世界は、現実とは違う、いわば異世界のような空間だ。
……変だと思うだろう? だから言ったじゃないか、僕は特殊だって。今までこの話をして、理解してくれた者は誰一人としていない。
そう、あの世界も孤独だ。
僕があの世界へ行くのは、邪念を振り払いたいとき。一種の瞑想のようなものだ。帰ってきた僕の周りは静寂で、神経が研ぎ澄まされているのを自分でも感じる。
たぶん僕は、集中力の高め方が、一般人とは少し違うんだ。
ねえ、君は。
人は、どこまで深いところまで行けると思う?
深いところ 星合みかん @hoshiai-mikan
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