写りこんで夢中になる

彼のクラス、今日は話の長い先生に当たったらしいから美術室には来ないはず。そう踏んで日陰で休もうと向かった。

しかしながらその予想は全く違っていて気まずいバッティングが起きる。そう思ってるのは多分私だけじゃない。

だって、ちょうど自分の目に筆を突き立てるところに遭ってしまったから。

彼は目撃されていることに気づいて目を剥き、それと目が合った私の毛穴からは冷や汗が吹き出す。

「や、やめなよ。」

触れて止める勇気はない。筆を取り上げる情熱も湧かない。

だけど目の前でスプラッタなんてまっぴらごめんだ。

「私も君の目が好きだから。」

自傷する場面を前に足は動かない。だから思いとどまってくれそうなセリフを地雷に怯えながら探す。本当に好きなところを伝えて否定される勇気は無いから、当たり障りのない何かを。

「君を傷つけただろう僕は。」

筆の先端を目から下ろさないまま言う。

両手で掴んで震えている。

「伝える力がないのに、こんな目あってもしょうがない。」

「私元気だよ、大丈夫。」

短くなった髪は私の顔の動きに合わせて揺れる。少しくすぐったいけど強くなった印だと思ってるから。

そんな私の様子を見て彼は筆を下ろした。瞳孔は縮小して少し多めに息を吸ってなにか言おうとしている。

「僕が描いたのは君だ。」

告白というよりは自白のような言葉に一瞬体の流れの全てが止まる。暗い廊下に熱が走る。やっと私の気持ちまで意味が届いた時心臓が大きく鳴った。

「僕の目には未来が映る。僕が見た未来の中で君が一番すき、だから。勝手にキャンパスに閉じ込めた。」

彼は俯いて床に吐露する。

反射して私の心に届いた。

「なんだ、そっか。センスあんじゃん。」

光の入らない廊下なのに目元で乱反射して眩しい。

頬も心も君のせいであったかい。

「次はもっと可愛く描いてね。」


日向の友人はもう動かない。

それは必要なかったから。



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