君を、みつめる
あの日、僕が絵の題材を伝えた時から彼女は美術室に来なくなった。
やっぱり正直に言うべきではなかったか。気持ち悪かったんだろう。
「あなた、勘違いしてる。」
彼女は僕の絵にかけた魔法を解除せずに帰ってしまったものだから自分の絵と話をするという奇妙な日々が続いている。
「勘違い? 」
「そう。」
「何を。」
「それくらい自分で気づくべきね。」
彼女はくすくすといたずらっ子のように笑って僕にヒントをくれることはない。
突然来てくれなくなってから筆が全く進まない。
何か気に触ることをしてしまったのなら謝らないと。
「見ててヤキモキするわ。もう言ってしまおうかしら。」
彼女は美しい唇を尖らせてあざといイラつきを隠さない。
「教えてくれると、とても助かる。」
「あなた、もう少しまともに告白できなかったの? あれじゃあ伝わらないわよ。」
「え、」
「自分の特性、もう少し理解したほうがいいわ。あなたに見えてるものは多くに人に視えない。」
そうか、伝わりえないのか。僕がキャンバスに閉じ込めたのは『未来の彼女』。
「あぁ、やっぱりこんな眼、あっても何もいいことないな。」
僕は鏡で自分の顔を見るのが苦手だ。
人より多く光を閉じ込められる僕の目。見てくれだけはいいけれど鏡で見ると眩しすぎる。
学年が変わってクラスが変わってそのたび誰かしらには褒められて自覚した。
しかも、余計なものが見える目だった。
人に言わせればこれは才能らしいけど魔法使いになんてなりたくないから足枷でしかない。
僕の千里眼は魔法をつまらないものにする。僕から「夢中」になるきっかけをとりあげた。だから僕はそんなものの代わりに筆をとる。
見えた「余計なもの」を油で溶いて可視化した。
魔力で映すより、偶然すら用いて塗り重ねた方が、陽だまりのように暖かい。
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