エピローグ

「ねぇ、人魚の話、知ってる?」


 とある小さな島の小さな村の中。こういった村の中では噂話が出回りやすい。今日も、村人が井戸端会議に花を咲かせていた。


「ああ、この島の近くにいるって言われてた?」

「そう、その話なんだけど、実はつい最近、東の外れに住んでる漁師さんが夜中に見つけたらしいのよ」

「え、うそ! もしかして捕まえたの?」

「それがね、女の子を一人連れ去って逃げちゃったみたいで」

「あら、怖いわね。それに残念。捕まえられれば相当なお金になったろうに」

「やっぱり簡単に手を出しちゃいけないのよ。高く売れるのも、人魚の肉を食べれば不老不死になるなんて言われてるからだしねぇ。そんなものは易々と手に入らないものなのよ、きっと」

「でも、連れ去られたっていう女の子は可哀想ね。あそこの漁師さんちの子でしょ?」

「そうみたいね。でもあそこの子、ちょっと変だったでしょ? 友達と遊ぶこともせずにいつも一人でどこか行っちゃって」

「ああ、確かに。ずっと一人で何してたのかしら、ちょっと気味が悪い子だったわね」

「夜中に漁師さんが娘を連れてるのもおかしいし、もしかしたら体の良い厄介払いだったんじゃないの」

「ありえる話ねぇ、怖いわぁ。……あ、もうこんな時間。そろそろ帰らなくちゃ」

「あら本当。それじゃあ、また」


 村から見える海は、夕焼けの光で橙色に染まっていた。その向こうの世界のことを、この村の人間が知ることはできない。

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水平線の向こうまで れもん @lemon_25

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