第19話 選ばれし猛者達
九月初旬──都内大手ビル。
まだ真夏の暑さが残る九月の頭の事である、この日スポーツ界の重鎮達は大勢のマスコミを集めて記者会見を行なった。
それは『スポーツマンバトルトーナメント』の開催の知らせである。
そしてその記者会見の司会進行役の任を承ったのは私、『一文字紀子』である。
私が選ばれた理由は、仮にもオリンピック運営委員の役員であり、どこにも属さない中立の立場であるからだ。
まあ、要するに
私はマイクを持って登壇し、簡単な挨拶と大会趣向を説明する。
「今回のこの『スポーツマンバトルトーナメント』ですが、単純に現役のスポーツ選手が出るというものではありません。
この大会は現役から様々な理由により、スポーツ界を去っていった者達が沢山います。いわば彼等にしてみればこれは社会や関係者への"
もちろん正当な理由で参加を望む者もいます。己の才能はスポーツだけでないと息巻く者や、腕自慢の一般職からも参戦が決まっているため、この大会はプロの格闘家では無い者達の祭典──人間の可能性を探求する格闘大会であります」
これは普通の格闘技大会ではないことを充分に説明し、理解してもらったところでさっそくマスコミに向けて大会の詳細を発表した。
「日程は今年の末、12月の29日から31日の三日間にかけて行うものとし、場所は東京武道館を開催場所とする。参加人数はリザーバーを含め18名とします」
マスコミからは期待の声が上がった。次々に飛んでくる質問を私は聖徳太子が如く耳に入れる。
「みなさん、
打撃、投げ、極め──全てを解禁して選手達はオープンフィンガーグローブを着けて戦うものとします。なおリングですが、六角形のリングに全方位の金網を被せた特別リングを予定しております。言うなれば"金網デスマッチ"と呼んでもいいでしょう」
発表しておいてなんだが、本当に馬鹿げたトーナメントだなと私は思った。
今聞いているマスコミや世間は盛り上がるだろうが、この大会の裏に隠された諸々の事情はドス黒い。
私はそんな胸くそ悪さを覚えながらも、司会を続ける。
「続いて出場選手の発表です」
そう言って私は司会台の上に"クジ箱"を置いた。マスコミがそれを不思議そうに見つめる。
「選手発表ですが、これからこのクジを引いて順次発表させてもらいます。そして、発表された順からトーナメントで戦う順番になり、今からその対戦の組み合わせを同時に行いたいと思います」
マスコミ各社は『おおーっ!』と、大きく湧いた。やはりこれが一番気になる所だろう。
「ではAブロック一回戦から引かせてもらいます────」
私は箱の中に手を突っ込んで、念入りにクジを定めてゆっくり引いた。
「Aブロック第一試合──
卓球、『
意外な対決に記者はペンを走らせ、私の掲げたクジをカメラが何度もシャッターを切る。
私は淀みなく次のクジをまた吟味するようにゆっくりと引き、組み合わせがどんどんと決まった。
【Aブロック】
第一試合
卓球『
第二試合
フィギュアスケート『
第三試合
テニス『
第四試合
セパタクロー『ダグナット
【Bブロック】
第一試合
バレーボール『
第二試合
eスポーツ『
第三試合
ラグビー『
誰もがその組み合わせに驚いた、何故なら出場するほとんどの者が各スポーツ界の問題児や変わり者、または疑惑の人だからである。
それに今回の東京オリンピックから新たに参入した二つのスポーツ、『セパタクロー』と『eスポーツ』がいることにも一同はざわつきを隠せなかった。
「では次が最後の組み合わせです」
私はとどこおりなく組み合わせが決まった事に安堵すると、一回戦最終試合のクジを引く。
「Bブロック最終試合──水泳『
そしてリザーバーには野球から『
これで選ばれし猛者同士のカードは決まった。後は大会でその腕を振るうだけである。
役目が終わった私は挨拶をして降壇し、誰もが興奮したその日の記者会見は予定通り終わった。
各スポーツ協会はこの組み合わせを見て渋い顔をする者や喜々とする者、涼しい顔や表情の読めない者などがそれぞれの思惑を浮かべながら会場を後にした。
しかし誰もが自分が勝つと腹の底で思っているだろう。
──勝つのは私だ。今にみてろ、お父様とお祖父様の仇は必ずや討つ────!
野球の拳 サムソン・ライトブリッジ @samson_R
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